- 公開日 :
- 2011年12月18日 14時05分
律「終末の過ごし方」 1
律「終末の過ごし方」 2
律「終末の過ごし方」 3 【完結】
560:にゃんこ:2011/09/17(土) 21:45:59.77:PrE/G5mJ0
○
「りっちゃんが着たがってたあの高校の制服、お友達から借りられたのー」
それなりの楽器の練習の後、お茶の準備をしながら、
いつもと変わらないほんわかとした柔らかい表情でムギが微笑んだ。
「えっ? マジで? ホントに?」
少し大袈裟に私はムギに尋ねてみる。
勿論、疑ってるわけじゃない。
確かあの高校の制服の話をしたのは、確か『終末宣言』前の約一ヵ月半前の事だ。
言い出しっぺの私ですら半分忘れ掛けてたのに、
ムギがその約束をずっと覚えてくれれたって事に私は驚いていた。
それもただの一ヵ月半じゃない。
世界の終わりまで残り少ない時間の中で、
ムギは私との約束を果たそうとしてくれてたんだ。
「ありがとな、ムギ!」
申し訳ないんだか、嬉しいんだか、
何とも言えない気持ちになって、私はお茶の準備をするムギに後ろから軽く抱き着いた。
「ちょっと……、危ないよ、りっちゃん」
叱るような口振りだったけど、口の端を笑顔にしながらムギが言った。
お盆にお茶を乗せたムギに抱き着くのが危ないのは分かってる。
でも、抱き着きたかったんだ。
それくらい私の胸は色んな気持ちでいっぱいだった。
ムギはいい子だな、本当に……。
「おい律……、危ないぞ?」
「わーってるって、み……」
その言葉に返事しようと顔を向けた私は、一瞬言葉を失った。
そこには嫉妬に燃えてるってほどじゃないけど、若干不機嫌そうな顔の澪が居たからだ。
昨日友達以上恋人未満になっておいて、
よりにもよってそいつの前で他の子に抱き着くのは、確かにあんまり褒められた事じゃないよな……。
別の意味でも危なかったか……。
「ごめんごめん、ちょっと危なかったな」
「気を付けろよ、律」
「ああ、分かってるって」
言いながら私がムギから離れた直後くらいに、
澪が不機嫌そうな顔から軽い苦笑に表情を変えていた。
少しは嫌だったんだろうけど、不機嫌な表情は半分演技だったらしい。
ムギ相手にやった事だし、澪自身もそんなに心が狭い奴ってわけじゃない。
軽い警告の意味で不機嫌そうな演技をしたんだろう。
澪自身が嫌だからと言うより、
将来的に深い仲になる誰かの前でそういう事をするなって事を、私に教えてくれたみたいだ。
やれやれ。
澪は私の母さんかよ……。
そう思わなくもないけど、私を心配してやってくれた事だし、悪い気はしなかった。
まあ、将来的にそんな深い仲になる予定があるのは、今は澪しかいないんだけどな。
「でも、あの高校の制服が着られるのは嬉しいよな。
ありがとう、ムギ」
澪がムギに軽く微笑み掛ける。
「いえいえ」とお盆に置いたお茶をそれぞれの机に置きながら、ムギが会釈した。
その二人の様子はとても仲の良い友達そのもので、
澪がムギに対して嫉妬してるって事もやっぱりなさそうだ。
心なしかムギが私達を見る目も、いつもより生温かく見える。
ひょっとして……、私と澪の関係、気付かれてる……?
いや、別に隠す事じゃないんだけどさ……。
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