でんぶんSSまとめ

SSのまとめブログのアンテナ

ダンテ「学園都市か」11(学園都市編)

    :

484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 02:53:18.87
ID:9fD6OnLMo
―――

学園都市の『界上』に限定的に再現されている『人界王の間』。
延々と続く黄金の縁取りがなされた白亜の石畳に、大気を満たすは黄昏色の光。

人間界本来の夕暮れとは色具合は似ていても本質はまるで違う、
篭められているのは退廃的な終末感と享楽的な狂気で彩られた混沌だ。

そんな、何もかもをコントラスト強く浮かび上がらせていくオレンジの光に。

ダンテ「…………」

ダンテは煩わしそうに目を細めながら、正面10m、割れた石畳に埋まっている『竜』を見ていた。

ここに飛び込んだ初撃で頭を『斬り飛ばし』、
更に蹴りの連撃を加えて胴を粉砕して石畳に叩き込んだ竜、周囲には破片と肉片が混じり広く散っている。

そして背後からは途切れ途切れの、言葉にならない悲壮な呻き声。

膝をつき蹲っている男、アレイスター=クロウリーのやり場の無い怒りと悔しさに満ちた声である。
周囲は無風、割れた石畳の欠片が落ちる小さな音のみ、そんな中で彼の慟哭が一際大きく響いていた。

そんな彼に対しては、ダンテは特には反応を示してはいなかった。

その面持ちは一見すると何を考えているのかわからない無表情、
よくよく見ると僅かに薄ら笑いが滲んでいる、非常に冷ややかなもの。

つまりは彼の『真顔』だ。

彼のその『真剣身』の原因はもちろん、
目の前のあの『竜』から覚える―――様々な匂いや感覚だ。

ダンテ「…………」

そう、良く見知った力や親しい者。

魔帝と『創造』、父と『破壊』。

そして―――上条当麻。

485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 02:54:20.24
ID:9fD6OnLMo

ダンテ「よお、いつまでオネンネしてる?客に挨拶も無しで寝てるつもりか?」

リベリオンで肩を軽く叩きながら、ダンテはこれまた平淡な声を放った。
いつのまにか肉体の損壊部が元に戻っていた竜に。

竜王『…………無茶を言うな。お前の不意打ちを受けたんだぞ』

すると瓦礫を除けながら上半身を起こす竜。
いかにもつらそうにゆっくりとぎこちなく。

そして大きく翼を広げては一度羽ばたいて。

竜王『やあ、ダンテ。俺様は初めてではないが、「この状態の俺様」は初めてだな』

穴からようやく出てその淵、ダンテの前5mほどのところに立った。

ダンテ「みたいだな」

そんな竜を改めて見て、ダンテは片眉を細めた。
魔帝の力や上条当麻がこの竜に含まれていると確信したのだ。

今のは傷の『治癒』ではなく、ダメージが一切蓄積されていない状態への『己の新規作り直し』。
つまり『創造』の働きだ。

そしてこの竜という存在、肌に覚える感覚はまさに上条当麻そのものだ。
ダンテの確かな感覚は、この目の前の存在を上条当麻であると明確に認識しているのだ。

姿形、そして数語交わしただけでもわかるくらいに人格が違っていても、魂は確実に彼のものでもある、と。

ダンテ「………………」

そう状況の一端を把握した瞬間、
彼のこの場における、ある一つの選択肢が潰れた。

今ここでぶちのめす、という最も単純明快な選択が。

486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 02:57:30.13
ID:9fD6OnLMo

だがそれは充分予想は付いていた。
具体的にはともかく、このような手を出しにくい状態になることはわかっていた。
今挑んでいる本当の敵、『筋書き』が、そう簡単にコトを終らせてくれるわけが無いのは当然。

現状ではまだまだ『弓の弦』の引きは甘い。

ストレス
この程度の『世界の困窮』では、筋書きが望むような絶対的な『一矢』は放てないのだ。

現段階では、ダンテもコトを終らそうというつもりではない。
(もちろんもし可能だったのならば、さっさと片付けるが)

今の目的は、流れのど真ん中へ飛び込み割り込むことだ。
そしてどうやらその目的は達された様か。

この流れに新たな、かつ大胆な変化をもたらす筋書きの『修正点』、それが今―――目の前にあったのだから。

間違いなくこの―――竜だ。

ネロが魔剣スパーダをへし折る、そんなとんでもない事態に釣り合い、
そして上回るために、これでもかとばかりに重要な要素が集められている。

魔帝と父、加えて恐らく覇王、そして―――上条当麻、と。

ダンテ「……」

そう。
上条当麻という存在もまた、
ダンテにとっては大義的・個人的の両方で『とある意味』を持っていた。

487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 02:59:10.29
ID:9fD6OnLMo

竜王『さて、何から話そうか……』

ぱきりと、陶器の像が砕け散る光景を逆再生したかのように。
竜の外皮の上をどこからともなく出現した『殻』が覆っていき。

竜王『話したいことはかなりあるのだが、いかんせん、今は時間も限られているしな』

そうして竜はその異形から、一瞬にして人間、赤毛の華奢な男の姿へと変じた。
これまた陶器のように整った顔は、傲慢と嘲笑を隠しもせずに鋭い笑みを浮べている。

そんな中性的な容姿を、ダンテは細目で訝しげに眺めて。

ダンテ「なら俺が聞いていいか?」

竜王『構わない』

ダンテ「『お前』は上条当麻か?」

そうして単刀直入、そう簡潔に核心の一つを問うた。
竜はやはり察しがいいな、と小気味良さそうに口角を上げては。

竜王『そうだ。俺様は上条当麻。魂は完全に同一』

竜王『俺様の死は、上条当麻の死でもある』

ダンテ「………………へぇ」

488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 03:01:49.46
ID:9fD6OnLMo

現状では手を出しにくいという原因には、
もちろん『創造』という厄介な力が存在もあるが。
上条当麻という存在のよるところも大きい。

上条当麻。

かの少年は失われてはならない。
生い立ちや力の差はあれど、その本質的な意味はネロと同じ。

これからの人間世界を守るであろう、『次代』の強き意志の一つ。

受け継がれる『正義』の一欠けら。

ボーヤ
己の全てに換えてでも守り遺さなければならない『子供達』の一人である。

ここでそんな存在を、仕方の無い犠牲と割り切ってもろとも殺すか。

そう、確かにそうせざるを得ない状況か。
かつてネロが神像に取り込まれた時のような状態とはまるで違う。

竜の魂は上条当麻そのもの、完全な同一人物。
客観的に見ると、ダンテの記憶にある『上条当麻という少年』は―――死んでしまったも同然であろう。
すなわち『今まで通り』―――『手遅れ』なのだ。

ここからダンテが専念するべきなのは、更なる被害の拡大を防ぐため、
創造を打ち破り竜を殺す、ただそれだけ。

そしてそれが成されれば、この騒乱の大部分は収まるだろう。

しかし。

それでは今までと『同じ』―――単なる『受身の現状維持』でしかないのだ。

根本的には何も解決しておらず、一歩も前には進めない。
そしてスパーダの一族、その血の破滅的な力が『救い』として称えられ、
それを維持するために、たびたび避けようの無い絶望的なイベントが繰り返される未来が続くことになる。

つまりは、ここで今まで通りのやり方で解決してしまったら。

そのあり方が―――揺ぎ無く『再肯定』されてしまうということだ。

489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 03:03:07.37
ID:9fD6OnLMo

ダンテ「……」

当然。

今のダンテは、そんなこれまで通りのやり方をするつもりなど無かった。
ネロはそんな筋書きを真っ向から拒絶し。
ダンテは筋書きをぶっ潰すために今ここに立っているのだから。

そう、今この状況こそ、
ダンテとネロの選択と筋書きの流れの向きが、『初めて』真っ向から対峙した瞬間だ。

これこそ筋書きの明確な、ダンテ達へ向けての『反応』だ。

スパーダの一族が、スパーダの力を否定し捨て去ることは許さない。

そしてスパーダの一族ではない者が、スパーダの意志を受け継ぐことはできない、させない。
スパーダの一族ではない絶対的英雄など、必要ない、認めない、と。

『そんな者達』など、こうして舞台装置の一つにしてやろう、と。

つまりこの『修正点』の本質は―――筋書きからの『宣戦布告』。

万物を統べる因果、その全体意志には逆らえぬと、
反逆者に首輪を再認識させるための。

それはそれは付け入る隙の無い、ダンテの弱点を的確に抑えた一手であった。

このような状態に置かれれば、
普通ならば怒りを覚えるか、または焦燥し絶望するか。

しかしこれを認識したダンテがまず最初に示したのは。

ダンテ「―――ハッ」

―――笑み。

490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 03:03:50.70
ID:9fD6OnLMo

やはり相変わらずの薄いものではあったが、
瞬間、彼はこの場で初めてはっきりとした笑みを浮べたのだ。

それはそれは危うい戦気と昂揚―――『期待感』が滲んだ、見た者を戦慄させる不敵な笑い。

獲物を眼前に捕捉した獣、戦いを生業にする闘士そのものの瞳。
この男には、追い込まれて消沈する『神経』など存在していない。

困窮に陥れば陥るほど、彼の原動力たる魂は熱く噴き上がる。

不可能だと?、上等じゃねえか。
上条当麻、必ずお前を臭え竜の口の中から―――引きずり出して。

クソッタレな筋書きは綺麗さっぱり消し飛ばしてやるよ、と。

竜王『―――…………はは、これは恐ろしい』

一瞬、そんな顔と瞳に捕捉されていた竜は、
その端正な顔を僅かに引き釣らせた。

竜王『聞いてはいたが、やはり実際に相対すると凄まじいな』

ダンテは「そうか?」といった風に少し肩を竦めて。
肩に載せていたリベリオンを降ろしては足元に突き立て、その柄に肘を載せながら。

ダンテ「創造、どうやって動いてるんだ?」

そして左手で顎先をさすりながら、まるで何気なく雑談するような声色でそう問うた。
ただもちろんそれは表面的な部分だけで、
その全身からは強烈な威圧感が一定して放たれていたが。

ダンテ「ボーヤの右手に収まってたのはまあ薄々気付いてたが、それでも徹底的にぶっ壊れてるはずだぜ」

対して竜はそのダンテの圧で火照った熱を冷ますように、一度大きく息を吐いて。

竜王『アリウスさ』

その目をダンテの背後下、
アレイスターの方に向けながら、かの魔術師の名を口にした。

491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 03:06:30.25
ID:9fD6OnLMo

竜王『彼はその「負け犬」とは違い、本当にとんでもない男でな』

竜王『覇王とスパーダの力を「生きた状態のまま」で統合し、器に組み込み完全に己がモノにしてしまったのさ』

竜王『そんな彼の器さえあれば、創造も具現も負荷は全く気にしなくて良い。問題なく稼動する』

竜王『そして創造の破損部は、具現を組み合わせる形で修復した』

そうして右手をポケットに突っ込み、
左手で得意げに髪をかきあげて言葉を続ける。

竜王『創造と具現は、元はある同一因子からの派生系だからな』

竜王『違いは精神領域か実体領域か、作用原理が異なっているだけ。その差異は魔帝と覇王の性格によるところか』

竜王『そこだけを除き、他の点はほぼ同一だ。共に絶対的な己の存続を約束し、広範囲に絶大な影響を及ぼすまさに支配者に相応しい力』

竜王『またそうした側面から「保身」の意味も強いため、使用者には比較的優しいものだ』

と、そこで竜はふとわざとらしく眉をしかめて、
「だがな」と一度話を区切って。
左手をふと顔の高さにまで掲げて。

竜王『まあ少し話変わるが、逆に―――』

紫とも赤黒いとも言える『光』を灯した。

竜王『―――「破壊」はとんでもなく扱いにくいな。「やはり」』

492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 03:12:35.98
ID:9fD6OnLMo

そんな、笑み交じりにも辛そうな顔を見せる竜に、
ダンテは「そりゃそうだろう」といった表情を浮べて。

ダンテ「昔、俺も気ぃ狂いかけたからな」

ダンテ「免疫の無い『赤の他人』が、親父のモンそのまんま入れちまえばキツイに決まってるさ」

絶え間なく際限なく湧き出してくる力。
ダンテも過去に一度、その『破壊』の性質の境地にまで到達しかけた。
かつてマレット島で、覚醒した魔剣スパーダを手に魔帝と相対した際にだ。

余分なものを何もかも取り払い、ただ純粋な力の亡者と変貌する―――『真魔人化』。

ダンテ自身、あのまま『破壊』に身を委ね続けていれば、
自我を失い『闘争の獣』へと変じてしまっていただろうか。
だからこそあれ以来、ダンテは魔剣スパーダを使おうとはしなかった。

竜王『本来、まことの創世主の因子とは創世主のみに許される力だ』

破壊の負荷に苛まれているのか、
竜は小さく歯噛みしながら更に言葉を連ねていく。

竜王『その力を創世主ではない者が扱うには、ある程度「薄める」必要がある』

竜王『創造や具現は、現に創世主たる力をコンパクトに簡素化したものだ』

竜王『魔帝や覇王は現実家だからな、そんな彼らの性格上、発現する創世主の因子もまた使い勝手の良い形となる』

竜王『しかし同じ創世主の因子でも―――「破壊」は違う』

竜王『スパーダはただ純粋に力を求めた。己が保身も野望も一切無く。力だけをな』

竜王『結果、発現した「破壊」は―――全く薄まることなく―――創世主のそれとほぼ同一のものであった』

竜王『それがどのような意味なのかはわかるな?』

ダンテ「…………『まことの創世主の因子とは創世主のみに許される力』、か」

竜王『その通り。いくら超越者とはいえ―――創世主ではないスパーダには手に余る代物だったのさ』

竜王『故に彼自身ですらその身に収めておくことに耐え切れず、魔剣スパーダとして分離させることとなる』

493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 03:16:42.27
ID:9fD6OnLMo

ダンテ「…………」

それが魔剣スパーダの誕生の物語。
初めて聞く、それも相手からして真偽不明の逸話。
だがそれが真実であったとしても何ら不思議ではない。

いいや。

むしろ、真実はこうでなければ筋が通らない。

ダンテは知っている。
スパーダが何よりも、そして唯一恐れていたものこそ―――己の力だったのを。

魔界の門の錠に己の半身を惜しみなく使い、
更に魔剣スパーダもただ封印するだけではなく三つに分解までする。

そんな己の力に対して一片の未練も愛着も感じさせない様は、
フォルトゥナの地獄門ですらを、故郷魔界への情緒から残してしまったような男の行いとは思えないものだ。

だが。

この竜の話でその糸は全て繋がる。
その過去の父の行動も、ダンテ自身の魔剣スパーダを使った時の体験も。

二つの魔剣を双子の息子達に授けてしばらくの後、父がふと姿を消した―――その理由も。

そうして、母は父をこよなく愛していたにも関わらず――――――失踪した彼を一切探そうとしなかったのも。

ダンテ「Humm」

諸々の記憶から、随分と前から薄々はそうであろうと思ってはいたが、
やはり第三者からの筋の通る情報がなければスッキリしないものだ。

そこをようやく埋める確信を手に入れられて、
顎をさすりながらダンテは小さく喉を鳴らした。

長年、その頭の片隅を占有してきた『もどかしい問い』と決別できるのだ、と。

その一方で少し名残惜しいが、
今までもどこかで抱いていた、一縷の『期待』とも別れなければならないが。

ダンテ「…………………………………………」

そう、―――『父は既に死んでいる』、そうはっきりしたのだから。

494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 03:20:37.86
ID:9fD6OnLMo

ダンテ「それにしてももの知りだな「じいさん」、一体いつから生きてんだ?」

竜王『創世記からさ。創世主の座に君臨していた頃のジュベレウスの御業も、直に目の当たりにしてきた』

竜王『そういえば、俺様の自己紹介がまだだったな』

と、そこでふと思い出したかのように、
竜は左手に灯していた破壊の光を収めては改めてといった面持ちで。

竜王『我が王号は「人王」にして――――神号は「 竜 」』

これまた、いや、これまで以上に酔狂して声高に仰々しい名乗りを始めた。

竜王『そして全宇宙、因果の新たな主に成る――――――「唯一にして全て」』

竜王『―――我が真名を魂に刻め。今宵から全宇宙の不変の真理となる言霊を―――』

しかしこの名乗りは、今の相手には大層たまらなかったものだったらしく。

竜王『その輝きは、旧世界を焼き払う黄昏の―――』

ダンテ「ふはっ……はっ―――おいおいちょっといいか?自己紹介くらいもうちっとサクサクやってくれ」

思わず噴出して笑い堪えるダンテに遮られてしまった。

竜王『……………………』

ダンテ「拝むたびにんなコテコテの前置き聞かされるなんてたまんねえぜ。『ありがたみ』も薄れちまう」

あからさまに不機嫌な表情を浮べる竜とは対照的に、
彼は小刻みに肩を揺らしながらお返しとばかりに言葉を連ねていく。

軽く飄々と、普段と同じの半笑いの冷やかし声で。

ダンテ「ママに教わっただろ?人と話すときは要点をわかりやすくってな。ん?何?教わってねえのか?」

ダンテ「じゃあパパにこう教わらなかったか?ケンカの時に言葉で自分を飾る奴は―――」

しかしその言葉の最後には。

ダンテ「―――案外大したことはなかったりするって、な」

笑みは含まれてはいなかった。
ただその表情の変化は、竜の目に映ることはなかった。
なぜならその直前。

竜王『―――』

彼の端正な顔にダンテの無骨なブーツの裏――

495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 03:25:36.76
ID:9fD6OnLMo

―――正面蹴りが叩き込まれていたのだから。

確かにこの竜を倒す選択なんて、現時点ではまず有り得ない。
しかし確保するかしないかはまた別の話である。

強烈な一撃を受けて竜の頭部は砕け散り―――首から下が、放られた人形のごとく吹っ飛んでいく。

いや、厳密にはその一行動の合い間に『三撃』加えられていた。

一撃目はダンテの靴裏。
二撃目は瞬時に出現したギルガメスの鋭い歯車。
そして三撃目は、そのギルガメスに組み込まれている拳銃からの魔弾。

はじけ飛んでいく竜の体は最初に穿った床の穴の上を越え、
そしてその規模をも遥かに越える穴を100mほど向こうに穿った。

ド派手に石畳を捲りあげ大量の欠片を撒き散らして。

その様子を前に、ダンテは魔剣を引き抜いてはたんっと颯爽と前へと踏み出し。

ダンテ『アグニ。ルドラ』

魔人化し、かの双子の大悪魔の名を口にした。

すると瞬間。

咆哮染みた声を轟かせながら、すぐ上方の虚空から呼ばれた双子が出現、
アレイスターの盾となる位置に、石畳を割って豪快に降り立った。

そうして彼らにアレイスターを任せ、ダンテはクレーターに降り立つ。

竜はクレーターの底にて、崩れた石畳に埋まっていた。
出ているのは手先と足のみ、胴部分は全て瓦礫の下、
先ほど砕け散った頭部だけは埋まってはいないか。

ただその事実も、創造によって即変更。

竜王『……ッ……二度も不意を突くか』

瓦礫の下から放たれるは、無いはずの口からの声。

ダンテ『ハッハ、ケンカに不意打ちもクソもねえさ「王サマ」』

そして『新造』されたのは頭部のみならず。

竜王『はは―――それも尤もだな』

『翼』もだ。
刹那、瓦礫を一気に吹き飛ばすようにしてその下から大きな竜の翼が出現―――

―――薙ぎ振るわれたその両翼から、無数の魔帝の矢を放った。

496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 03:30:01.39
ID:9fD6OnLMo

懐かしい、いや、これを見たのはつい半年前、
懐かしむほどの時間など経過していないか。

ダンテ『―――Ha!』

ダンテは小気味の良い声を漏らしては、この壮絶な弾幕へと真っ向から飛び込んだ。
無数の魔帝の矢、それらが壁となって押し寄せてくる光景はまさに圧巻か。

しかし。

表面的にはそうは見えても実際に飛びこむと、この竜のと、本物の魔帝のそれとは大きく異なっていた。

本物の魔帝が放つ弾幕は一見無造作に見えても、
実は一本一本隅々までまで意識が行き届いていて、その起動は全て計算ずくであった。

一本避ければ別の一本のコースへとどうしても出てしまい、その一本を弾けば、
今度はその手が届かないコースで別の一本が、といった具合にだ。

だが竜のこれは、『ただのばら撒き』だ。

数多く放たれているだけで、その実は無秩序、
コース修正もなくただ真っ直ぐにしか飛ばないため、突破ルートは簡単に複数見出せてしまう。

ダンテはその中の一つ、あえて幅が狭いルートを選び身を投じた。

頬を、首を、脇を、無数の矢が凄まじい勢いで掠めていく。
だがどれも数cmいや数mmというところで当たらない。

身を捻り、ギリギリながらも正確無比に、
紙一重ながらも余裕たっぷりに赤き魔剣士は抜けていく。

更にここで彼特有の遊び心か。
彼はあえてルートを外れ、わざと矢のコースへと身を投じ。

ダンテ『――Siii―Ha!!』

身を回転させては左足、右足と連蹴りで掃い―――最後に魔弾で蹴散らし、完全に弾幕を突破。

そして。

竜王『―――』

新造されたばかり、かつ瓦礫からちょうど出たばかりの竜の顔へ目掛けて。

今度はリベリオンの刃を突き立てた。

同時に両足でその胴体を踏みつけつつ。
もちろんその足は『一蹴三撃』という凶悪なもの。

そんなこれまた豪快過ぎる着地に、クレーターは一際大きく深く陥没した。

497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 03:33:41.84
ID:9fD6OnLMo

魔帝の矢。
これには特に、マレット島における戦いの際に幾度と無く苦しめられた、
『イカれてるダンテ』でさえもが『嫌いな』攻撃だ。

だがそれもこの通り、使用者次第。

ダンテがかつて苦しめられた原因は、もちろんその威力が凄まじいこともあるが、
魔帝の豊富な経験と極められた戦闘技術によるところもかなりの比重を占めるものだ。

ダンテ『まだまだ甘いな。力に遊ばれてるぜ』

確かにその力の規模だけでも充分脅威ではある。
だが同じく力が桁違いで、かつ戦闘技能も極められている相手、
例えばこの通りダンテなどが相手では、そう簡単に通用などしないのも当然の事である。

だが。

だからといって、充分脅威であることが打ち消されることもない。

技術、経験など時には関係なく、
インフレした量の力というものは存在するだけで、何人にとっても一定の脅威であることもまた真理。

リベリオンで再び瓦礫の底へとぶち戻した竜へそんな軽口を飛ばしていたところ。

ダンテ『―――』

ふと気配に気付き、ダンテがその面を挙げると。

正面上方にて長さ5m近くにもなる、赤い―――『光の大剣』が浮遊していた。

これもまた、つい最近に嫌と言うほど見たものだった。
平時の人間界ならば、一撃の下に消し飛ばせる規模の―――圧倒的な『力の塊』。

かの魔帝の―――絶なる刃だ。

次の瞬間。
これを見たダンテの一言を待たずして、大剣が打ち出された。

498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 03:38:41.45
ID:9fD6OnLMo

迸る閃光、激突する赤と赤の力。

衝撃に晒された石畳は広範囲にぶっ飛び、いいや、削り取ってしまったかのように綺麗さっぱり蒸発。
欠片一つ飛び散らず、滑らかな擂鉢上の地面へと変貌する。

だがこれも漏れ出したほんの僅かな余波によるものにしか過ぎない。
放たれた莫大な力は、同じく莫大な力の篭められた極なる『一突き』によってほぼ全て相殺されていた。

ダンテ『―――ふッはッ―――!』

総出力の力を集め極限まで圧縮して。
それを載せて叩き込む、シンプルかつ最大火力のダンテの十八番、『スティンガー』。

彼の白銀の刃は強烈な『魔の熱』を帯びて、周囲を蒸発した爆心地にて金属音を奏でていた。

ダンテが先か、それともリベリオンが先か、この場合いはもう関係ないであろう。
『仇』の力を受けた刃の高鳴りに同じく、ダンテも思わず昂揚した声を漏らす。

ヒメイ
この衝撃、この痺れ、このリベリオンの刃から響く歓喜の『共鳴』。

頭では魔帝は死んだとわかっていても、
この身を流れる父と母の血が沸騰していく。

―――ぶっ殺せ、クソ野郎をぶっ殺せ、と。

だがそんな魅惑の闘争心にのせられるほど、彼の理性は弱くも無い。
ダンテは即座にそんな危うい声を遮断して竜の方へ。

今の隙に脱し、10mほど前方に立っているあの華奢の男へと目を向けた。

499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 03:41:44.43
ID:9fD6OnLMo

竜王『つッ―――はっはァ!!』

興奮しているのか、口を引き裂くようにして短くも大きな声を発する竜、その姿形は既に新造されていた。
魂にも器にもダメージの痕跡も全く無い。

ダンテ『……』

対照的にすぐに己を落ち着かせたダンテは、
冷静に今の一連の状況を分析していく。

今の攻撃は確保を試みたものであったが、どうやら確保することもかなり難しいか。

その力の使い方は到底及ばないものの、その総量は紛れも無く魔帝に匹敵、いいや。
覇王とスパーダの片割れをも吸収している今はそれ以上か。

そんな莫大な器上で創造が稼動している限り抑え込むことなど不可能、
身を縛しようが今の通り力の放出を留める術は無いようである。

ダンテ『……』

これは面白いといえば面白いが、一方で面倒臭い、
それがこの結果に対するダンテの率直な心境だった。

さて、ではここからどうするか。

気まぐれ気の向くままに進むことは変わりないが、
それでもある程度の向きと目的を定めておく必要がある。

まずここでこのまま戦い続けていても、上条当麻を引きずり出す方法が見つかるとは思えない。
バージルの件もあるためあまり長くダラダラと付き合ってもいられない。
そして兄のみならずもう一度、あの黒髪にイイ体の『素晴らしい魔女』とも接触したい。

無論、イイ女であるからではない、
彼女もまたバージルやネロと同じ重要な世界の要素であると直感しているからだ。

と、竜に相対する傍ら、ダンテが頭の半分では思考を巡らせていたところ。
同じくして思考を巡らせていたのか、竜がふと何かを思いついたような笑みを浮べて。

竜王『……この戦いが含む意味、お前にとっては人間を守るためというだけでは無いな』

500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 03:46:20.29
ID:9fD6OnLMo

ダンテ『……』

一瞬、唐突に何を言い出すかと思ったがすぐにダンテは気付いた。
恐らくこれが具現という力の作用の一つか、と。

どういったものかは、ある程度は話に聞いている。
ウィンザー事件もあって、
トリッシュの言いつけで否応無くそれなりに学び研究せざるを得なかったのだから。

だた。

トリッシュ『他者の精神、記憶へと侵入し干渉、干渉できなくとも全て覗き通すことができるみたいね。嫌な力。デリカシーがないわ』

こうして繋がりを介してトリッシュが補則してくれるのならば、
別に自身が学ばなくとも良かったのでは、ともダンテは一瞬思ってしまうが。

竜王『スパーダの血族。その世界の歪みたる、因果に食い込む「宿命」を清算する戦い、か』

竜王『自らの存在が、大乱を誘発させる潜在的な原因であると考えての、な』

竜王『具体的には、人間界の時間軸を「塞き止めている」バージルと魔女の本拠へととりあえず殴りこみたい、違うか?』

ダンテ『…………へぇ。便利な力だな。まあそんなところだ』

そしてこれまたいつもの事。
嫌悪を示したトリッシュとは反対に、
まるで意地になって対抗するかのようにある程度の許容の反応を見せるダンテ。

竜は可笑しげに小さく笑いこう続けた。

竜王『ならば、少しお前手助けをしてやろうか』

501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 03:51:05.63
ID:9fD6OnLMo

ダンテ『……Humm』

そこでピクリと。
笑み交じりに、わざとらしく訝しげに眉を細めるダンテ。

竜王『俺様が考えるに、こんなことをやってのけられる場所は「神儀の間」しか考えられない』

竜王『「神儀の間」とは俺様が倒された折に建立された神域の一つだ』

竜王『かの神域にて魔女とその側に付く魔、賢者と天界の間で誓約が交わされ、セフィロトの樹の原型が築かれ、そして2000年前』

竜王『戦勝の英雄たるスパーダが、諸神らの前で人界と共に生きることを誓った』

そんな彼に対して、
竜は右手を肩の高さに掲げて得意げに続けていく。

竜王『とまあ、概要はそんなところだが、重要なのは今、バージルはかの領域を完全に支配しており』

竜王『彼の意志無くして、何人も不可侵ということだ』

ダンテ『……』

竜王『お前でもな、もちろん俺様でもだ』

そしてこれまた大げさな表情を浮べて。

竜王『だが一つだけ。彼の意識外からかの領域に侵入できるルートがある』

竜は不気味にほくそ笑んだ。
その端正な顔を醜悪に歪め、享楽的酔狂に満ちた息を吐いて。

竜王『お前にとっては懐かしいものであろう』

そうして。
竜が掲げた右手を軽く振り下ろした―――その瞬間だった。

光が溢れ―――竜の姿が一瞬で忽然と消え。

入れ替わるようにして、延々と続く白亜の石畳の果てにて―――突然、地を割って巨大な『塔』が出現した。

ダンテ『……』

幅数百m、高さは数kmにも及ぶであろう『黒い塔』。
その姿まさしく。

今でもダンテの脳裏に焼きついているあの―――テメンニグルの塔そのものであった。

502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 04:02:48.60
ID:9fD6OnLMo

竜王『―――そう、テメンニグルの塔だ』

そしてこれも具現の力の一つなのか、
この場には存在していないにも関わらず、そして『繋がり』なども形成してもいないのに。

トリッシュのそれと同じように直接意識内に響いてくる声。

竜王『人界に踏み入った魔達の牢獄であり、魔剣スパーダの「芯」の封印領域へと繋がる「階段」』

竜王『だがな、それらは「アレ」の本質ではない』

ダンテ『……』

どこかへ離脱してしまったのだろうか。
ただダンテは、そんな竜の突然の逃走にも特に動じはしなかった。
創造が機能している以上、逃げる気になった竜を留めておける方法など現状は無いのだ。

竜王『アレはかつて魔女の手によって、神儀の間と共に建立された「神域」の一つ』

そうして、声のみとなった竜の言葉が続いていく。

竜王『本来の機能は―――あらゆる領域へと繋げられる―――「門」だ』

竜王『築かれた当初の目的は、魔界による侵略の際に異界から直接増援を引き出す、というものであった』

竜王『ただ結局、その主目的では使われ無かったがな。開門に必要な力が莫大過ぎることもあって―――』

ダンテ『―――ハッ。長ったらしいご講釈はもう充分だ。要はなんだ?』

と、そこでダンテは耳障りとばかりに目を細めて、
そう単刀直入に切り返す。

竜王『……ふん。要はだ。お前がかの塔に血を注いだ時、門はお前の望む場へと開く』

竜王『お前はバージルの下へと到達できる。一切の障害無くな』

503 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 04:08:07.23
ID:9fD6OnLMo

ダンテ『……』

これは一体―――如何なる意図があるのだろうか。
じっと塔を遠めに眺めながらそう、ダンテが意識内でふと思うと。

竜王『現時点において、お前と俺様の利害は一致してるのだよ』

竜が口を開き、これまた『ご丁寧』に述べてくれた。

竜王『俺様は、筋書きの従うことを決めた。だがな、なにもその目的に同調したわけではない』

竜王『俺様が求めるのはその「過程」だ。意外性に満ち溢れ、あらゆる刺激を有する激動の物語。それを見、体験したいのだ』

竜王『筋書きは、ただ俺様とお前が死力尽きるまで激闘を繰り広げること、そしてお前が「上条当麻を殺す」結果を望んでいる』

竜王『だがそんな流れなど、お前は望んではいないし何より―――つまらないだろう?』

竜王『そして俺様も―――まだ終らせたくはない。更に愉快な展開にしたい』

ダンテ『…………Humm』

竜、その人格はどうにも信用ならず、
そして何よりも生理的に気に喰わない。

『ムカつく』野郎だ。

だがそんな人格とは相反して、
その良し悪しはともかく吐かれる言葉は全て合理的。

それにこれまた『腹立たしいこと』に。
ダンテの冴え渡る直感が、竜の言葉は全て真実であると揺ぎ無く肯定していた。

ダンテ『…………』

504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 04:19:29.85
ID:9fD6OnLMo

トリッシュ『一端退きましょう、ダンテ。イマジンブレイカーの坊やの件もあるし、これは良く考えなくちゃ』

内から、一時退却を促すトリッシュの声が共に思考の中に響く。
彼女の言うこともごもっとも、それが『普通』の考えであろう。
先行きが読めず、かつ複数の未解決の問題が積みあがっていれば、
誰でも一先ず歩みを止めて状況を分析しようとするものだ。

だが生憎―――ダンテは普通じゃない。

彼は正真正銘『イカれている』。
どうしようもないくらいに常軌を逸して、他の悪魔とも人間とも違って何かが『ズレている』。

竜王『再びかの塔を昇り、己の血で扉を開け』

それこそ『ダンテ』が『ダンテ』たる個性であり、
そして―――筋書きに気付き反旗を翻す、という『狂気の沙汰』へ至った種だ。

竜王『お前の宿命が決定付けられたかの塔の門の先で―――』

つまりはこの『狂気の沙汰』を昇華し貫くことこそ―――筋書きをぶっ潰すに至るのだ。

竜王『―――お前の宿命の決着が待っているであろう』

それに竜の言葉通りならば。

竜王『そして―――「全」へと成っている俺様もその先にな』

『上条当麻』も塔の先にいるということだ。
これはもう、ダンテにとってこの『挑発』を断る道理など無い。

ダンテ『―――ハッハッッ!!面白え!!乗ったぜそのゲーム!!』

進んで飛び込み何もかもを盛大にド派手にぶち壊す。
宿命の本質へと到達するこの戦いは、まさにこれまでを再度なぞる集大成。

そうだ。

何だってそうだ。

クライマックス
―――『最 期』はこうでなければいけないものだ。

505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 04:28:31.09
ID:9fD6OnLMo

そうして。

魔人化を解いては、ダンテは一ッ跳び。
マントと翻してアレイスターの盾となっていたアグニとルドラの傍へと降り立ち。

ダンテ「聞えてたな!そういうことだ!俺はもう一度あの塔に登る!」

アグニ『我らも共に』

ルドラ『我らも同行を』

ダンテ「良いぜ!来な!『思い出巡り』だ!」

そうして、猛々しい喜びの雄たけびを上げる双子を傍らにダンテは歩き進み。

ダンテ「…………よお、お前も来るか?」

因果からダンテがもぎ取った命、アレイスターへと言葉を放った。
哀れで罪深い彼は相変わらず俯き、廃人のようにただ呆然としている。

だが。

ダンテ「お前に何があったのかは知らねえ。だがこれだけはわかるぜ」

ダンテ「お前は因果とやらに吐き捨てられたってな」

因果。捨てられた。
その言葉を投じられた瞬間、僅かにアレイスターの肩が動き。

ダンテ「どうだ? んなクソッタレな『お前の筋書き』―――ぶっ飛ばしたくはねえか?」

そして微かに、『動き』のある硬直を見せたが。
それでも結局は、彼は立ち上がるそぶりは見せなかった。

506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 04:31:11.04
ID:9fD6OnLMo

そんな彼を見て、ダンテは両脇の双子へ向けて声を飛ばして。

ダンテ「………………おい、どちらか、コイツを学園都市に戻してきてくれ」

アグニ『ふむ、では一先ず兄の我が』

ルドラ『ふむ、では我が先にダンテと共に行こう』

ダンテ「なあ、アレイスター。お前の宿命を潰せるのは、お前しかいねえんだ」

アグニがその巨体をアレイスターの傍に屈める傍ら、
まるで何気なくの独り言のように、あっさりとした声色で連ねた。

ダンテ「『英雄』ってのはそりゃあ表向きは大勢を救えるが、それはあくまで表向きでしかない」

無数の救うべき命が、
どうしても『手遅れ』となりその手をすり抜けてきた者としての言葉を。

ダンテ「―――20年も『ヒーロー屋』やってりゃ、嫌でもわかるぜ」

ダンテ「『宿命』ってのから本当にそいつを救えるのは―――そいつ本人だけだってな」

彼らの屍の上に立っている―――『血まみれ』英雄としての言霊を。

ダンテ「何が言いたいかわかるか?要はな、」

ヒーロー
ダンテ「本来、『英雄』ってのは―――誰でもなれるもんだってことだ」

アレイスター「…………」

それらの響きが、この男の内にどこまで浸み込み。
どんな波紋を描くか、それを明確にこの場で知る術は無かった。

だが。
確実に、何らかの波紋を生じさせたのは確かであった。

アグニに連れられ、彼の姿が消える際にダンテは見た。
アレイスターのその拳に力が僅かに戻り―――握り締められたのを。

ダンテ「ハッハ。まずはステップ1はクリアだ。そうだ―――その通り―――」

そしてダンテは小さく笑い。

ダンテ「―――ぶっ飛ばすには、はじめに握り拳を作らなきゃあな」

彼方の塔へとその面を向けた。

―――

515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:22:18.39
ID:FyE4RatUo

―――

何もかもから隔絶された領域、虚無の彼方にて。

神裂『…………』

禁書『…………』

互いにしっかりとその手を握りしめながら、
二人は静かに待ち続けていた。

眼下に広がる大樹は、5%ほどの線を残してほぼ二分されている。
インデックスの正確な解析のもと、神裂が次元斬りで少しずつ切り離していったのである。

今頃天界は大騒ぎであろう。
セフィロトの樹、そのシステムを全てチェックし、何とかして侵入者を見つけ出そうとしているはずだ。
しかし見つかるわけが無い。

こうして虚無から刃を振るっているのだから。
彼女達は一切邪魔されること無く、ここから悠々と切断していったのである。

そしてその残る『枝』は―――人間への各種テレズマの供給線のみ。

彼女達は今、その供給線を前にして作業の手を止めていた。
ステイルからの報告を踏まえての、テレズマの供給線に関するバージルの判断を待って。

516 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:25:14.95
ID:FyE4RatUo

ただ。
神裂は、己とステイルの要望が通るとはどうにも思えなかった。

バージルからすれば天界魔術師など微々たる存在であろう。
いてもいなくてもさして変わらない、いや、むしろ彼の性格からすれば、
余計な事をされないよう供給線も切り力を奪った方が良い、と考えるかもしれない。

そもそも計画は当初から、セフィロトの樹は全切断する方針。
ここで供給線だけを残すよう要望する神裂やステイルの方が、その計画から逸れてしまっているのだ。

テレズマの供給線を残して、実際的な利点は何がある?
計画をここで変更するに足るものがあるか?
むしろこのまま計画通り全切断し、天界魔術を人界から一掃してしまった方が、
多くの争いの原因を根絶することができて良いのではないか?

そう返されてしまえば、神裂とステイルは何も言えなくなってしまう。
『理由付け』の殻は全て剥ぎ取られてしまい、こう曝け出されてしまうのだから。

根は単なる『私情』、『己が育った世界、そして今も仲間達が所属している世界を失いたくないであるから』、と。

しかしそうした『私情』を抱いてしまうのも、人の心を持つものとしての性である。

どれだけ小さくとも確かな機会と理由を手に入れてしまったら、
誰しもがその私情を叶えることを試してみたくなってしまうもの。

それが例え、拒絶されるとわかっていてもだ。

神裂『あのう!聞えますか?!答えを!』

神裂『お願いします!!どうか―――!!』

517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:28:07.05
ID:FyE4RatUo

沈黙を通す主に向け、再度声を放つ神裂。
そんな彼女とは対照的に。

禁書『…………』

傍らのインデックスは、
この件に関しては未だ明確な意志を示さずにいた。

彼女は少し俯きながら下唇を噛み、じっと押し黙ったまま。

神裂『……っ』

魔女の身としてはセフィロトの樹の全切断、
天界と人界の完全決別はまさに悲願であろうか。

更に二度目の人生も魔術世界で道具として良いように扱われて、
天界魔術が引き起こした騒乱の数々を目にしてきた彼女からすれば尚更か。

と、そんな自身の思いの一方。

神裂やステイルの立場でもしっかりと考えているのだろう、
一切口を出そうとはしない。

神裂『…………』

しかし彼女、インデックスはいささか不器用で素直すぎるところがある。
彼女自身は隠しているつもりなのであろうが、繋がりを介すまでもなく、
その表情や佇まいで心情は丸わかりだ。

一度、そんなインデックスを見て。
神裂と繋がりの先にあるステイルは、やはり己達の私情が過ぎていたと認識して。

神裂『………………す、すみません。やっぱり―――』

そう、バージルへ向けて声を発しかけた時。
ほぼ同時に、そして鋭く鮮烈に。

バージル『――――――好きにしろ』

声が放たれてきた。

518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:31:11.97
ID:FyE4RatUo

神裂は一瞬、己が耳と意識を疑ったが、
それは確かにバージルの声だった。

普段どおりの冷ややかで無感情な声色である。

神裂『―――な、ほ、本当ですか!』

バージル『二度言わせるな』

神裂『―――は、はい!すみません!!ありがとうございます!!』

ダメとわかってはいても、何事も言ってみるものである。
バージルはここにはっきりと、その声と繋がりをもって神裂達の要望を許可してくれたのだ。

しかしこれで万事良しというわけでもない。
もう一人、その前にはっきりとした答えを聞かねばならない者がいる。

神裂『―――……インデックス。私はあの線だけは残したいと思っています』

神裂はそうしてインデックスへと向き求めた。
この判断についての確かな、彼女自身の答えを。

神裂『あなたは……どう思っていますか?』

禁書『……………………わ、私は…………う……うぅん……』

と―――その時だった。

アイゼン『―――そなたら、少しよいか』

突然、この場に割り込み二人の意識内に響くアイゼンの声。

アイゼン『いまやセフィロトの樹は陥落したも同然、そればかしの供給線など、いつでも人間界からでも切断できる』

アイゼン『だからそれらの是非を論じるのは後にせよ。今はとにかくはよう戻って来い』

その声は少し張り詰めているか、神裂にはどことなく、
アイゼンのいつもの余裕が全く含まれていないように聞えた。

禁書『……?』

インデックスも似たような印象を抱いたのか怪訝そうな表情を浮べており。

神裂『何か問題でも起こったのですか?』

そして神裂がそう問うと。

アイゼン『うむ。特に「主席書記官」。そなたに強く関係しておるぞ』

禁書『―――わ、私?』

―――

519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:32:43.58
ID:FyE4RatUo
―――

学園都市、第七学区。
複数の大悪魔の力が立て続けに振るわれたその一画は、今や瓦礫散らばる荒野と化していた。

いいや、『瓦礫』として認識できるほどに、
『普通の形』を留めているものはまだ良い方なのかもしれない。

五和「……」

レディに続き無残な更地の中をゆく五和、
第七学区の奥へと進むにつれ現実離れしていく周囲の環境を見て、五和はふとそう思ってしまった。

光源がどこにも無いのに、満月が『五つ』くらいでもなければというくらいに、
青白くぼんやりと浮かび上がっている地面。

それも照らされているのではなく、光を帯びているのだ。
瓦礫や鉄くず、爪先で蹴ってしまう小石までもが。

そして冬の冷たい風が吹き荒んでいるにもかかわらず、
ふわふわと穏やかに宙を舞う、ガラスとも氷とも判別がつかない不気味な煌きを帯びた『細かな砂』。

人類が周知しているどの法則でも説明がつかないであろう、
神の領域の力による現象の数々であろうか。

レディ「大丈夫だとは思うけど、下手にあれこれ触らないようにね。まだこの辺りは『全て』に力が濃く残留してるわ」

一際強く光を帯びている瓦礫の一欠けらを脇に目にしての、
そう一応といった忠告を飛ばしてくるレディ。

五和「…………」

力の残留、それは五和もはっきりと認識していた。
この特有の息苦しさはもちろん。
手にある魔女の槍、そして腰に刺している上条当麻の黒い拳銃からも熱を帯びて感じる。

いいや、今やこの第七学区だけではない。
先ほどから第一学区であろうか、その方向からこことは比にならないプレッシャーが放たれてきており、
更に学園都市中が『悪魔のもの』とは明らかに違う『異質な圧力』に覆われている。

520 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:35:51.85
ID:FyE4RatUo

と、そうして二人が更地の中を歩み進んでいたところ。
先を行くレディがふーん、と鼻を鳴らして。

レディ「この有様の原因は主にイポスとケルベロスの力、それとシャックスが戻ってきたみたいね」

力を分析する魔術的な判別紙であろうか。
三つの異様な紋章が浮かび上がっている、その葉書ほどの古びた紙を指の間に挟みこむようにして、
ひらりひらりと振るいながらそう口にした。

五和「名くらいは私でも知ってはいますが……それも三つとも、やっぱり大悪魔なんですか?」

レディ「そうね。ケルベロスはダンテの『飼い犬』で、シャックスとイポスの飼い主はアスタロト」

五和「その……彼らがここで戦いを?」

レディ「みたい。詳しい流れはよくわかんないけど、とにかく人類の敵であるシャックスとイポスはとりあえずくたばったみたいね」

オーブ
レディ「ここはあいつらの『血』で満ちてるわ。おかげでホクホクだしいい気味だし最高ね」

五和「それでもう一体は?」
オーブ
レディ「ケルベロスね、うぅん、あちこちに彼の『血』も飛び散ってるのだけれど、盛大にってわけでもないのよね」

五和「では……生きてると?」

レディ「あー……微妙ね。死んでてもおかしくない量でもあるし」

521 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:37:31.14
ID:FyE4RatUo

そうした会話を続けていると、
二人は大地に穿たれた大きな窪みの淵に辿りついていた。

一方に向けて巨大な溝が続く大きなクレーター、その様はさながら、
地面とほぼ水平の角度で隕石が衝突してきたかのよう。

レディ「ま、一応知ってる顔だし、そんなワンちゃんの安否でも確認してあげようとっねっ」

そこでレディはそう口にしながら淵から飛び降り、クレーターの底へ滑り降りていった。
ワンちゃん、そんな表現に少し意表を付かれるも、一先ずと五和も続き飛び降りていく。

クレーターの底の深さは20mほどか、これまた光を帯びた大量の異質な瓦礫で覆われているため、
実際の深さはもっとあるか。
そんなクレーターのちょうど中心辺りにて、
ロケットランチャーを箒のように振るい、乱暴に瓦礫を除け始めるレディ。

そして。

レディ「?いたいた」

五和「…………?」

その欠片の合い間にて、青く透き通る水晶のようなものに覆われた『何か』が見え。
更にがらがらと周りの瓦礫を除けていくと、そこから現れたのは大きな―――『獣状の足先』だった。

人の胴五本分はあろうかという巨大なそんな爪先を今度はレディ、
ロケットランチャーの尻で乱暴に叩き。

レディ「良かった。一応生きてはいるわね」

今の行動でどのようにして判別したのか五和にはさっぱりであったが、
一先ず彼女はそう確認の声を口にした。

レディ「『冬眠』に入りかけてるけど」

五和「……と、冬眠ですか?」

レディ「復活まで『一時的に死んでいる』状態ね。魂と器の治癒待ち」

レディ「悪魔の習性ってところかしらね」

522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:38:57.77
ID:FyE4RatUo

そう傍らの五和に告げながら、
ロケットランチャーでごんごんと更に叩くレディ。

レディ「話はできる? ああそれも無理、ね」

レディ「じゃあ……とりあえずここに放置するわけにもいかないし、もうちょっと運びやすいサイズになってくれない?」

とその時、彼女がそう巨大な爪先に言い放った途端、
突然その場が大きく陥没した。
深さ幅共に5mほどが一気に沈んだのである。

五和の体は条件反射ですかさず飛び退き、陥没に巻き込まれることなく穴の淵へ。
そこでようやく彼女の意識は驚きという感情を滲ませた。

五和「……っ!!」

レディ「ごめんびっくりしたでしょ」

対して逃げなどせずに地面と一緒に陥没したレディは、
そんな彼女を見上げて意地が悪そうな笑みを浮べて。

足元に転がっていた『あるもの』を爪先にひっかけ、
五和へと向けて蹴り上げた。

それは青い結晶のような質感の―――三棍のヌンチャク。

五和「っきゃ……つ、つめたっ……!」

『冷たい』、それがヌンチャクを抱きとめた彼女が最初に覚えた感覚だった。
そんな彼女の反応を見てまたもやレディはにやにやと笑みを浮べて。

レディ「それがかの名だたる三頭の魔狼、ケルベロスよ」

523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:40:17.34
ID:FyE4RatUo

五和「…………」

ケルベロス。

数々の神話や記述にその名がある存在。
それら伝聞の元となった本物の『神』が今、己の手の中にある。

それはそれはとんでもないコトなのであろうが、
不思議な事に、内に何かの衝撃が走ることは無かった。

ここ半年、悪魔という存在とは特に強く関わってはきたせいか、
そしてウィンザー事件やヴァチカン、先のアスタロトという一連の流れの中で慣れてしまったのだろうか、
これといって強く思うことが何も無い。

五和「…………」

『冬眠』であるせいか、ヌンチャクからはこれといった重圧も覚えないことも、
その『新鮮味』の欠如に拍車を駆けているか。

この神が通常の状態であれば、
きっと慣れ不慣れ関係なく精神を揺さぶられるのであろうが、
今伝わってくるのは氷を持っているかのような冷気のみだ。

五和はそう何気なしといった面持ちで少しこのヌンチャクを眺めて、
陥没穴から上がって来たレディに手渡した。

そんな彼女の様子を見てレディが一言。

レディ「いい顔してるわね」

524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:41:23.86
ID:FyE4RatUo

五和「…………」

それは一体、どういった意味なのか。
先ほどのアスタロトの件から精神状態がほぼ回復し
落ち着いていることを指しているのか。

それともこうして妙に冷めて、
神たる存在を手にしても全く怖気もしていないことなのか。

五和「は、はい。どうも」

その意図はどうにも分かりかねたが、レディの表情を見る限り、
少なくとも悪い意味は一切含まれていないよう。
そうしてここは一先ず素直にと、五和は褒めの言葉に対して礼を返し―――

―――と、その時であった。

それは突然の『異質な衝撃』。
地面は揺れてもいないのに『地鳴り』が響き、倒れてしまいそうになるくらいの振動。

そしてある方向の彼方にて。

距離感がなぜかまるでわからないが、
それでもとてつもなく巨大だと瞬時にわかる、

今まで人類が築いたどの建築物よりも高いであろう―――『黒い塔』が出現した。

525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:42:38.65
ID:FyE4RatUo

刹那、五和はとても信じられない『もの』を目にしてしまった。

五和「―――っ」

もちろん突然現れたあの異質な塔でもあるが、
それとは別にもう一つ、彼女の目は捉えてしまったのだ。

それは振り向き、あの黒い塔を見たレディ。

一瞬だけ見えた―――ひきつった横顔。

それを覗かせたのはほんの僅かな時間だけ、
しかしそれでもはっきりと認識できるくらいに、そこにはとてつもなく色濃く負の感情が―――

―――嫌悪、憤怒、そして―――恐怖が滲んでいた。

五和「―――」

しかもそれは程度の差はあれど、
少し前に五和がレディの中に目にした色と同質のものであった。

先ほど、アスタロトが罠にかかる直前、
彼女がデビルハンターとなる道を決定付けたある男―――『父親』の話をしていた時に垣間見せた『陰り』と。

526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:44:38.81
ID:FyE4RatUo

レディ「―――…………」

レディ、その目に映るかの塔の姿に、『メアリ』は何を抱き見るか。
それは今でも脳裏に焼きついている凄惨な過去。

彼女だけの―――そして彼女にとって唯一たった一度の―――『悪夢』。

だが今は、その悪夢を見ている存在はもう『彼女だけ』ではなく。
たった『一度』でもなくなってしまった。

メアリ=アン、彼女が悪夢の象徴としてかの塔を意識したとき。

かの塔も彼女を意識し。
かの塔を顕現させている要素の一つ、『具現』も彼女を認識し捉えることとなる。

それはつまり、かの力に精神が囚われてしまうことを意味する。

『具現』、それを前にして僅かな恐怖でも見せてしまったら、
この恐怖を主食とする忌まわしき力に、恐怖の源たる記憶を抉られ―――そして曝け出され。

あの日終ったはずの、その手で自ら終らせたはずの悪夢が――――――再現される。

レディ「………………………………」

この瞬間、彼女の脳裏に『悪夢』が鮮明に復元されて。
同時に再顕現されたテメンニグルの塔内には、その『悪夢』が再び『実体化』する。

この呪縛から抜け出すにはただ一つ。

再びその恐怖の権化たる試練に立ち向かい、
『前