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ダンテ「学園都市か」10(学園都市編)

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308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/10(木) 00:41:48.77
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―――

アグニ『ダンテ。まだ待つのか?』

ルドラ『ダンテ。まだ動かないのか?』

プルガトリオ、学園都市を映し出すとある階層にて。
ビルの壁面にしがみ付きながら、その双子の大悪魔は屋上にいるダンテに問いかけた。

もし彼らの肉体に頭部があれば、
ダンテから見てちょうど淵から突き出ているように見えるだろうか、
小さな子供が覗き込んでいるような姿勢だ。

もちろん、その筋骨隆々とした巨体を抜きにした場合の例えだが。

ダンテ「ああ。待つ」

落ち着かない双子にさらりとそう返す、足組み寝そべるダンテ。

彼らとは対照的に、静かに目を閉じているその佇まいは、
今にも寝入ってしまうのではというくらいにリラックス状態だ。

アグニ『いつまでだ?』

ダンテ「さあな」

ルドラ『わからないのか?』

ダンテ「ああ、わからない」

309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/10(木) 00:43:00.59
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アグニ『……』

ルドラ『……』

簡潔明瞭に即答され沈黙する双子。

その肉体に頭部は無く声のトーンも一定、
彼らの本体である魔剣の柄先の顔も見えないとなれば、その感情を読み取るのは難しい。

ダンテ「……」

だがある程度この双子と過ごせば誰でもが、
そんな無表情な彼らの感情を読み取ることができるようになる。

いや、厳密には読み取るのではなく『推測』か。

彼らはとても単純なのだ。
思考は常に直線的で、ダンテほど近しくなれば
その行動どころか次の一語一句までほぼ完璧に予想できる。

ダンテ「…………」

故にダンテは彼らの『おしゃべり』が耐え難い。
ろくに意識せずとも簡単に一語一句正確に予測してしまって再生し、
一歩遅れて本物がこだまのように同じ言葉を発する。

それのなんと、なんと騒々しいことか。

そんなやかましい合唱を防ぐに最も有効なのは、

彼らの単純な思考が話を拡大させていく前に、きっぱりと明言して出鼻を挫く。
つまり今のように受け答えすることだ。

310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/10(木) 00:43:54.15
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確かに付き合いが悪い態度ではあるが、
アグニ&ルドラ相手にはこのくらいがちょうど良い。

それにただ聞き流してわけではなく、
質問に対しては本当の事を返している。

アグニ『何を待っているのだ?』

ルドラ『何が来るのだ?』

ダンテ「さあな。わからない」

これも嘘ではない。
いつになったら何が来るのか、ダンテもわかってはいないのだ。

ただ。

その『何か』こそが、
この筋書きの核への入り口になることは確信していた。

ネロが魔剣スパーダを折ったことで、この『クソッタレな筋書き』はより雑に、
『本線』が浮き彫りになるのも躊躇わないくらいに大胆な『修正』をかけてくるはず。
塞き止められた水が溢れ支流を作るかのように、必ず別の形で莫大なストレスが噴出す。

その噴火口に飛び込み、突き進んだ先にこそ―――ぶっ壊すべき『何か』があるのだ。

311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/10(木) 00:45:17.88
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そして噴火は今や秒読み段階。

ダンテ「―――」

瞬間、ダンテは異様なざわつきを覚えて跳ね起きた。
今までには無い衝撃が電撃のように全身を走ったのだ。

それは彼のような領域、『筋書き』の存在を認識した者にだけ聞こえる、
この現実と呼ばれる『生』の世界が軋む音。

筋書きの『修正』が開始される音。

たった『今』、その始点として『何か』が『どこか』に現れたのだ。

その衝撃はもちろん他の超越者達にも到達していく。

魔界の深淵。
煉獄にて作業の傍ら、互いに顔を見合わせる―――。

バージル『…………』

ベヨネッタ『…………』

―――最強の魔剣士と最強の魔女。

そして。

プルガトリオの魔界に近い階層にて。

ネロ「……何だ……今のは……?」

アリウスを倒した後、
アスタロトの軍勢の残党狩りを再開していた『最強の人間』にも。

312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/10(木) 00:47:55.14
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そうしてダンテは立ち上がり。

ダンテ「ハッ―――ハッハ!!」

鋭い笑い声を発しながら、
確認するかのように両手両足の魔具と魔銃を軋ませる。

これまでは準備体操、さあここからだ、と。

巨大な流れは今、重要な局面を迎えたのだ。
それは最終ステージへと繋がる大きな布石。

『筋書き』と複雑に絡み合っているスパーダの血の宿命と、バージルの判断と魔女達との行動、
対する己の考え方とネロの選択。

そして今現れた―――『何か』。

役者と舞台は全て揃った。

ダンテ「―――トリッシュ!!準備は良いか?!」

この先には一体、
どんなクソッタレな展開が待ち受けていることか。

繋がりの向こうで見ている相棒へ声を飛ばしながら、
ダンテは嬉々としてビルから飛び降りた。

―――

313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/10(木) 00:49:12.28
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―――

ミ カ エ ル
上条当麻は戦慄していた。
この身その魂の主導権を握る人格―――豪胆かつきわめて聡明な王を。

なぜ上条は戦慄しているのか。
それらの特徴を有しているのならば『優れている王』の範囲では、と普通は捉えられるであろうが。

実は王の特徴はそれだけでは無く、以下のことを更に有していた。

―――欲深く、嫉妬深く、傲慢で、倫理観は完全に欠如―――。

すると賢王は一転、『知性豊かな暴君』という最悪の君主像となり。
ここにもう一つ、『無邪気』というある特徴を加えると。

誰しもが戦慄する暴虐の君主、竜王となる。

かの暴虐なる王は、知性と力を持った『子供』そのものだった。

彼は崇高な目的意識など有してはいない。
更なる力の入手や勢力拡大といった、具体的な願望も無い。

彼の行動を掌握しているのは、ただ純粋な―――『娯楽欲』だ。

そしてとことん無邪気であるが故に、
それは今の人間の価値観からすれば常軌を逸しているほどだった。

興味惹かれ意外性があり刺激が強ければ、『何でも』構わないのだ。

314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/10(木) 00:51:26.08
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喜びなどといった快楽は当然、
怒りや悲しみ、恐怖といった絶対的な負の感情、
更には己の死でさえ、彼にとっては娯楽欲を充足させる『嗜好品』。

怒りや恐怖を抱かないというわけではない、
彼らもまた、生命の危機に瀕したり圧倒的な存在を前にすれば、その顔を引きつらせて恐れおののく。

そんな負の感情を彼らは娯楽として認識し求めるのだ。

俗な表現をすれば、とんでもなく恐ろしいホラー映画を見て怖がりたがるようなものか。
これだけならば今の人間にだって良くある傾向で、特におかしなものでもないが。

その娯楽を空想虚像ではなく、現実に『際限なく』求めるとなれば間違いなく異常であろう。

フィアンマという人間として、戦い、そして学園都市で予期せぬ敗北を味わったのも、
彼の根底の思念にとっては『意外性のある刺激的な展開』なのだ。

そんな狂った価値観と聡明な思考が組み合わさればどうなるか、その結果は自明の理だ。
問題を十二分に理解しながら、解決しようとはせずに更に効率よく油を注ぎ、
更なる『刺激的』な出来事を引き起こそうとする。

竜王は愚鈍ではない。
己にどうしようも無いほど酔狂していながらも、決して盲目ではない。

現実は嗜好品の塊、故に周囲にある小さなありとあらゆる存在が、彼の娯楽になり得るのだ。
瞬間の己の一挙一動、更には仄かな一風から雨の一雫までも。

彼は己の根底にある『娯楽欲』に忠実に従い、その力と知能をもって周囲全てを『嗜好品』にしようとする。

少し見方を変えれば―――『機械的』とも言えるくらいに。

315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/10(木) 00:53:44.21
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かつては、魔界による侵略が目前に迫っても尚、
圧倒的な魔の力に恐怖し絶望する、それも『楽しみ』。

カ ル コ ス
最下層の人間、『青銅の種族』の中から魔女・賢者という集団が台頭してきた際も、
彼らの力が巨大化するまで敢えて放置し事態を複雑化させて『楽しみ』。

魔界に抗うどころか敢えて優柔不断な姿勢でその綱渡りを繰り返し、
更に状況を悪化させて、それによって生じる人々の苦痛や争いを『楽しみ』。

そしてその先にある滅亡をもすら『楽しもう』とした―――狂気の王。

だが当時の人間界内における価値観では、
そんな竜王の人格も別段異常なものとしては特に認識されてはいなかった。

竜王とは、太古の人間界のあらゆる面を凝縮し抽出した『パンドラの箱』的存在。

つまりこの竜王から垣間見えるは、
天界によって解放される前までの『本当の人間界』の姿。

当時の人間界の中では、秩序だって明確な目的を掲げた魔女や賢者の方が異端であり、
他の大多数の神族は、竜王ほどでは無いにしてもこのような『狂った』価値観のもとに動いていたのだ。

そんな当時の人界が、天界の目にはどう映るか。
それはまさに狂気に満ち溢れた世界だ。

天界の価値観からもってすれば、
その世界は目を覆いたくなるほどに何もかもが狂っていた。

魔界が『暴力』ならば、人界は『混沌』の世界だった。

316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/10(木) 00:56:54.67
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善悪、正否、白黒を明確にしようとする天界にとって、
その情景は魔界以上に見るに耐えない世界であった。

故に天界はそれを問答無用で『悪』と断じ、武力介入を決意し、そうして一人の戦士が―――。

ミ カ エ ル
―――上条当麻がその任の要となり竜王に挑むこととなった。

混沌に苦しむ下層の人間達を解き放つ、その大義の下に。

無論、後世の人類にとってもその存在は『悪』にほかならない。
天界によって界の基盤を再構築され、
天の倫理観・価値観の元に現代世界は成り立っているためそれは当然である。

また現生人類は、魔女賢者から一般人までその全てがかつて虐げられていた最下層の人間、
『青銅の種族』の末裔であるのだから、例え天界に植えつけられた倫理観が無くとも、

古の神族が絶対的にして永遠の『悪』であることには変わりないのだ。

それは決して災害なんかのような、『仕方ないもの』ではない。

苦痛・絶望・死を楽しむために求めて、そして無邪気に笑う。
それを最下層の人間から見て『悪』以外に何と呼べるのだ。

己が負の感情や死までをも娯楽と判定する、そんな機械的な―――ただ『純粋な悪』、それ以外に何と。

317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/10(木) 00:59:06.64
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ミ カ エ ル
故に上条当麻は戦慄する。

そんな古王の復活に。

楽しむために人間界を潰すのも厭わなかった竜王が、
創造、具現、破壊、その三つ創世主の因子を有して再誕することに。

それがどれだけ危険なことなのか。
三つの因子を統合し、かの創世主に並びそして超える『真の全能』と成った時。

この怪物は、全ての現実をどんな『嗜好品』に換えてしまうのだ?

ミ カ エ ル
そして上条当麻は絶望し、憤怒した。
絶対に力が渡ってしまってはならない者に、究極の力が集ったこの皮肉な現実に。

一体何の『因果』でこんな―――こんな上手い具合に『最悪の展開』になるのだ、と。

「―――」

と、そう上条当麻の思考が至った―――その瞬間だった。

三つも創世主の因子を有したからか、『彼』はそこで認識してしまう。

フィアンマ
竜王がその領域に到達するということは、一心同体である彼の思念もまた同じく。
本来、何人も知ることの無い存在を上条は知ってしまうこととなった。

『現実』を構成する因果の連なり、それを支配する―――『筋書き』を。

318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/10(木) 01:00:46.22
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それは、いち個体の何者かの意志によるものではなかった。

無数の者の願望が集っては流れを形成して、
誰かが統率せずとも同じ方向へと向かう大河。

川筋を決められるジュベレウスが存在しない今、
その流れを支配しているのは、全宇宙、無数の生者の『無意識下』の本能的思念だ。

とはいえ、その集合体は明確な方向性を定めることは無い。
それぞれ世界やその中での立場でまさに千差万別で、統一など成されるはずもない。

その無数の願望の中で特に共通すること、
それが更に単純化されたものが、その時その時の流れの向きを決定していく。

そして今、ジュベレウスも魔帝も滅びこの混迷きわまる情勢。
先の見えない不安の中における流れの向きは。

―――三度、『絶対的英雄』を求める。

一度目、魔界とその他全ての世界の間で行われた、終わりの見えない戦争の終焉させる英雄を。
二度目、他全ての世界を飲み込む勢いの魔界の拡大、それを終焉させる英雄を。

そうして今もまた同じく、この『不安定な状況』を終焉させる英雄を。

「―――」

その英雄とは誰か。

それはもちろん―――スパーダの血族だ。

319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/10(木) 01:05:06.13
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誰しもがそう考え、そう望む。
上条自身も例外ではなくそう願う一人だ。

ダンテ、バージル、ネロ。
皆が皆、彼らスパーダの血に絶対的な英雄性、
もしくはいかなる存在にも打ち勝つ最強性を、彼らの姿に見ているものだ。

人界側の者達にとってはもちろん、
他の世界の者達からしても、魔界の拡大を防ぎ魔帝覇王を打ち倒した英雄の血族であり。

魔界の者達からしてみても、
裏切りに対する怒りよりも前にまずスパーダの力への最強性の認識と、それへの崇拝があった。
だからこそ、裏切られたことに対して異常なまでの怒りを覚えるのだ。

―――そう。

これが、この『最悪の展開』が生み出された原因だった。
どの世界の者達の願望にも共通している点は、

スパーダ血族の英雄がここでまた躍り出て、
『どういった形』であれ、この混迷する状況を終焉させること。

つまりは、いかなる思いであれ、今この状況において『全ての意識』がスパーダの血族に集中しているのだ。

―――そんな願望は、『願望のまま』であったのならば特に問題は無かった。
こうして上条当麻が衝撃を受けることも無い。

しかし実際は、願望はその範囲には留まらず一人歩きして。
絶対的な影響力を有する『筋書き』となって現実に作用していたのだ。

このように。

英雄を、絶対的な英雄たらしめるためには――――――小さな希望の欠片一つすらない『絶望の舞台』と。

―――『最強の敵』が存在しなければならない―――、と。

320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/10(木) 01:08:09.70
ID:YXw5gbk1o

「―――」

ミ カ エ ル
上条当麻はこの筋書きの存在に只ならぬ恐怖を覚えて拒絶する。

その『筋書き』とは、もう理解を超えてしまっている概念域だった。
それまでの価値観を持ち出すのも場違いな領域であるため、
これが正しいのか間違っているのかも判断がつかない。

しかし。
ありのままの上条当麻の感情だけは、素直に―――きっぱりとこの筋書きを拒絶した。

ふざけんな―――んなもん納得できるわけがねえ―――何余計なことをしてやがる、と。

『どうしようもないからこそヒーローを求める』のと、
『ヒーローを出すために世界をぶっ壊しにかかる』はまるで意味が違うのだから。

ただそんな上条当麻に対して、『もう一人の彼』は真逆の反応を示した。

フィアンマ オ モ チャ
筋書きは『 竜 王 』にとっては―――最高の『嗜好品』に見えたのだ。

『―――我が真名を魂に刻め。今宵から全宇宙の不変の真理となる言霊を―――』

彼は知っていながら。

『その輝きは、旧世界を焼き払う黄昏の光であり―――新世界を鋳造する暁の光』

あえて筋書きに沿い、
むしろこの騒乱をより複雑に、かつ巨大化させようとする。

フィアンマ
『その響きは―――――――――「 焔 火 」だ』

なぜか、それはもちろん、
こうして乗りに乗ってその『役』になりきっている通り。

筋書きに沿った方が――――――――――――『楽しそう』だから。

理由はただそれ『だけ』だ。

―――

322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(大阪府) [sage]:2011/11/10(木) 01:10:31.28
ID:mYvt0pbro
フィアンマさんマジ暴君

324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/10(木) 01:11:16.39
ID:tFb3+BODO
スパーダの一族はどのような判断を下すのか

342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:05:12.57
ID:xxUCz63jo
―――

一方『何しやがった?!何をッ―――』

皆で倒したはずのあの男の姿を目にして、一方通行はアレイスターに詰め寄った。
足蹴にしていた彼の体をベクトル操作で宙に放り、
その胸倉を黒き腕で掴みあげて。

一方『―――なンであのカマ野郎が?!上条はどォした?!アイツはどこに行った?!!』

乱暴に揺さぶりこの理解し難い状況の説明を求めるも。

一方『―――答えろアレイスターァァァッ!!』

アレイスターは呆然としたまま。
瞬き一つせずに目を見開いては、あの中性的な男を見つめ続け、
まるで一方通行の言葉など届いてはいない様子だった。

そんな時。

『―――上条当麻ならここにいるぞ』

『ご親切』にそう告げてくる高慢な声。

一方通行はアレイスターの胸倉を掴みあげたまま、その声の源へと顔を向けた。
一閃するかのごとく鋭い視線を飛ばし、横目に睨みつけて。

その視線の先4m程の位置、そこには例の中性的な男。
一方通行の鋭い視線に彼は不敵な笑みを返し、己が胸に指先を当てこう言い放った。

『―――俺様が上条当麻だ』

343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:07:47.12
ID:xxUCz63jo

からかっているのか、と。
常識の範囲内ならばその言葉を聞いて一蹴するであろうが。

たった今あの男の一連の登場の仕方を見、
その力の動きも観測した一方通行にとっては、ただの妄言なんかには到底聞えなかった。

一方『―――…………』

そう言い放ったあの男は、こちらの言葉を待っているのか、
高慢さが滲む薄ら笑いを浮べたまま黙っている。

一方通行は一度大きく深呼吸しては興奮した気を沈め。
アレイスターを、あの中性的な男とは反対の方向に放り捨てるように降ろして。

一方『…………フィアンマ、つったか?オマエの中にアイツがいるのか?』

今度こそその身も振り向かせて、正面から向かい合った。
と、そこで彼が放った声、その問いの内容よりもまずは『呼び方』に引っかかったのか、

相手は露骨に不機嫌そうな表情を浮べてこう続けた。

『フィアンマ、か。確かにそれは俺様の今の真名ではあるが』

『お前のその言霊は、「青銅の種族」として生きた最後の一世しか指していない』

もはや面目など気にならないであろう、
聞いている方も清々しくなるほどに突き抜けた酔狂っぷりで。

『真の俺様を指すのならばこう呼べ。「焔竜神王フィアンマ」、と』

一方『はッ……相変わらず口が減らねェ野郎だ。いンや、それどころかウザさ五割り増しか』

竜王『フン、まあ、「竜王」でもいい。お前等の乏しい記憶力でもこれならば大丈夫だろう』

344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:09:39.72
ID:xxUCz63jo

一方『……知るか。オマエの「ただしいおなまえ」なンざどォだっていいンだよ』

一方『それよりも質問に答えてくれねえェか?竜王さンよ』

嫌味を篭められても一応『竜王』と呼ばれたことに満足したのか、
竜王は再び笑みを浮べながら「そうだったな」と髪を掻きあげて。

竜王『俺様の中にいる、という考え方は少し間違っている』

竜王『俺様が上条当麻、その言葉のまま受け取ってくれ』

一方『あァ?』

竜王『大昔にちょっとした事があってな。その際に彼と同化してしまったのさ』

竜王『その頃から俺様達は「同一人物」であり、この「青銅の種族」として生きた千世代の間が「片割れ」同士であっただけだ』

一方『…………』

竜王『だから、上条当麻を構成していた人格は俺様自身でもあるのだ』

一方『―――オマエそのものが上条当麻だァッ?』

とそこでこれ以上言葉を続かせないとばかりに、
耐えかねた一方通行が強く声を発した。

竜王の言葉は、どうやっても納得できないものだ。
竜王がもし上条の姿のままであっても、これだけは間違いはしない。

この竜王という人格が、
己の知っている上条当麻という男であるわけがない、明らかに別人だ。

345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:12:51.92
ID:xxUCz63jo

一方『―――黙って聞ィてりゃ好き勝手言ィやがってよォ』

その下種な姿と口、そして明らかにあの『フィアンマ』として覚えている人格が、
己が上条当麻だと自称するのは不愉快極まりない。

竜王『おいおい、そんな言い方は無いじゃないか。インデックスを取り戻すために「共」にバージルに挑んだ仲だろう?』

一方『………………………………おィ。いい加減にしろよ』

インデックスを攫おうとした人格が、インデックスを守った男を自称するなんて。
許し難いにも程がある。

そんな風にして怒りに滾る一方で、彼は冷静にこの竜王の言葉も分析していた。

竜王の声、表面的な言葉には真実も含まれているのであろうが、
その根底にある意図は明らかに『冷やかし』だ。

挑発し茶化しているだけ。隠そうともしていないので明らかだ。
ここから更にこちらを逆撫でするために、誇張や嘘を平気で混ぜてくるとも考えられる。

となれば。

この竜王の声は今、真剣に耳を傾ける価値など無いに等しい。
そこから上条を『取り戻す』方法のヒントを得るのは困難だ。

そうして状況を分析した彼の考えは、このような結論に至った。

やはり―――まずはアレイスターから聞くしかない、と。

それはつまり。

一方『……チッ……』

なんと『胸糞悪い』展開か。

アレイスターはまだ『殺すわけにはいかない』。

この背後にいるどれだけ憎んでも憎み足りない『クソ野郎』を―――『絶対に守らなければならない』ということだ。

346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:15:01.79
ID:xxUCz63jo

そして同じく。
これまた癪なことに、この竜王を殺すことも出来ないのだ。

上条とフィアンマが『同一人物』、
それがどんな仕組みで成り立っているのかわからない以上、あの男を殺すという選択など有り得ない。

一方で、アレイスターを連れてここから離脱するという選択も危険だ。
これまた何もわからない以上、最初から竜王を完全に放置する選択をするわけにもいかない。

今ある選択肢は一つ。
この男をできるだけ傷つけないように素早く制圧すること、それだけだ。

一方『(……クソッタレ)』

なんとも面倒極まりない状況か。
更にこの竜王も、一筋縄ではいかないのは明らか。

ただの『フィアンマ』として相対した前回とは、人格と表面的な姿形は同じであるが、
同一なのはその点だけだ。

他の要素は全くの別物、規格外もいいとところだ。
こうして対峙しているだけでも、その存在や力の異質さを肌に覚える。

しかもその存在を構成している要素は単一なものではなく、
様々なものが混ざっているように見えた。

一方『……』

悪魔のものから、能力者や己と同じ力の他、
海原から覚えていたまた別系統の匂い、

そしてそれら『三つの系統が融合している』―――独特な上条当麻の匂いも、確かに存在している。

だが最も色濃く、その割合の多くを占めていたのは、

去年の『あの日』、異世界上で繰り広げられた魔帝とスパーダの一族の戦い、
その戦場を満たしていたのと同じ強烈な『匂い』。

そう、魔帝やダンテ達と『同一』にして飛びぬけて圧倒的な力だ。

347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:16:32.67
ID:xxUCz63jo

なぜこの男からダンテ達と同じ匂いがするのか。
その理由なんか想像すらつかなかったが、それでもこれだけはわかる。

この竜王は紛れも無い―――『怪物』だと。

竜王『―――まあ、お前の話は後で聞いてやる』

と、ここで。
気を張り詰めらせる一方通行とは対照的に、これまた潔いくらいに高飛車な表情と声で。

竜王『その前に、「彼女」と話をさせてくれないかな?』

竜王は彼の背後のアレイスターを指差した。
その肉体は『美しい女性』である彼を。

竜王『―――おっと失礼。その「麗しい姿」でついつい』

続けて『わざとらしく』そんな言い訳をして。

竜王『では改めて。そこの「彼」、アレイスターと話をさせてくれないか?』

一方『…………』

その言葉に応じる理由など無かった。
具体的な用件はどうであれ、動機が悪意に満たされているのは明らか。

一方通行は声にしてではなく、その身に纏う張り詰めた戦意で返事を示した。
そんな彼を目にしては、竜王はため息混じりにこれまたわざとらしく苦笑いを浮べて。

竜王『おやおや、お前達はどうしてそうすぐ野蛮な方向に物事を考える?』

一方『隠してるつもりか?プンプン匂ってるぜ。雑な殺意がなァ』

そして次の瞬間。

竜王『なるほど、前回よりも随分と―――感覚が洗練されているようだな』

―――『オレンジ色の光』が瞬いた。

348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:19:38.77
ID:xxUCz63jo

両者の間は僅か4m。
彼らほどの存在にしてみれば、
物理的には『距離』なんて言葉で表すのも馬鹿馬鹿しい程度の空間。

しかしそれは物理的な観点のみの捉えだ。

人界の古王と、人界の新たな王に相応しき領域の者。

そんな両者の圧倒的な力がひとたび放たれれば、
その空間は途方も無く危険で濃密な領域となる。

刹那。

竜王のすぐ頭上の空間から放たれた―――夕日色の光の筋。

一方通行の頭部、ちょうど眉間目掛けて真っ直ぐに伸びていく。
いや、放たれた時には既に『着弾していた』。
見切ることなど不可能とも思えるほどの速度だ。

しかし。

物理領域においてどれだけ速かろうが、例えそれが光速に等しかろうが、
物理領域から飛び出してしまっている今の彼らにとっては大した意味を成さない。

『速い』か『遅い』か、この神の領域でそれを決める要素はただ一つ。

『力のあり方』だ。

どれだけの量を篭められるかのパワー、どれだけ集束させて高密度を維持できるかのテクニック、
そしてその攻撃に的確な『意思』を載せられる精神力と判断力、
それらによって形作られる力によって全てが決まるのだ。

そうして開戦の狼煙たるこの初撃については。

一方『―――』

一方通行に軍配が上がった。

349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:21:46.01
ID:xxUCz63jo

光が着弾したのは、彼が己が顔の前にかざしていた左手の平。

その蠢く闇を貫くことはできず、
光は斜め後方へと強引に向きを変えてられて、壁にバスケットボール大の穴を穿った。

弾きいなされても尚その集束は維持されたまま、
一切の余波も衝撃波も生じさせずに、不気味なまでに滑らかな切り口の穴を。

そのように捻じ曲げた光を横にすれ違うようにして、
一方通行は前へと瞬時に踏み込む。

全身の漆黒の闇から、真っ赤な火の粉を散らしながら―――。

ここで―――距離は3m。

と、それとほぼ同時にして、竜王の掲げた右手先に新たな光が出現、
莫大な力が一気に集束しては、オレンジ色の『光剣』を形成し。

それを手にしては、そのまま振り下ろすべく竜王もまた前へ―――距離は2m。

一方通行はそれを見ては更に姿勢を落とし。
次いで竜王の首元を掴み押さえ込むべく、引いて『溜めていた』右手を―――凄まじい速度で突き出した。

しかし。

この二合目で勝ったのは。

一方『ぐッ―――!』

今度は、振り下ろされた竜王の刃であった。

350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:24:22.69
ID:xxUCz63jo

それは一瞬のタイミングの遅れと、
『速度』を決定付ける力の僅かな甘さが招いた敗北だった。

次の瞬間、一方通行の右手首から先は―――切り落とされていた。

一方『―――』

更に彼の目が捉えるは、竜王の左手に出現していた光剣。

その切っ先はまっすぐにこちらへと向いており、
今にも喉元へと突き上げられる直前だった。

だが。

状況的に必殺であったはずのその三合目は、竜王の思惑通りにいかなかった。

振り下ろされたばかりの竜王の右手、
その手首を一方通行が上から押さえるようにして掴み。

一気に引き寄せたからだ。

―――瞬時に再生させた『右手』で。

竜王の刃、その力の密度は確かに凄まじいものであったが、
一方通行から右手の存在を奪う水準にはあと少しのところで達していなかったのだ。

その右手で一気に引き寄せられ―――両者の距離は1m。

突き上げられた竜王の左の切っ先は、一瞬の差で一方通行の喉を捉えきれず。
彼の耳の後ろ、その黒く変質している髪先を掠り落としていくことしかできなかった。

竜王『―――ッ』

この時の竜王は、左手は振るわれたばかり、右手は押さえ込まれているという状態。

そう、一つの攻撃の失敗が、この無防備な瞬間を生み出してしまっていたのだ。
彼には、周囲からの『光』による対応という選択も確かにあったのだが、

この瞬間を見逃さずにして一瞬にして伸びてくる―――漆黒の左腕には到底間に合うものでは無い。

だが―――かの竜にはまだ別の選択肢があった。

一方『―――!』

その瞬間。
一方通行が掴む彼の右手首が突然、「ばちん」と『弾け切れた』のと同時に。

竜王の体が―――消失した。

351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:27:01.61
ID:xxUCz63jo

それは『前回の戦い』でも多用していた―――『瞬間移動』。

いや、あの時よりも更に洗練されているか、
魔術や能力による『まがい物』ではなく正真正銘の空間移動だ。

竜王は消失しのたと全く同時にして―――彼の背後に出現していた。

その左手の刃で、彼の首を切り落とす瞬間の体勢で。

だが前回とは格が違うのは、一方通行もまた同じであった。

瞬間、彼は一瞬にして今の竜王の行動の把握し。
進化した知覚を最大限に稼動させて、相手の力の動きを感じて、
そこから『飛行先』の先読みを行い―――難なく読み切る。

故に、竜王が飛んだ先で目にしたのは―――翼で弾き上げられ、軌道を逸らされる己の刃。

この闇の主の首を落とすはずだった光剣が、
またしても、同時に屈んだ一方通行の髪先を掠るだけに終り。

次いで、振り向きざまに放たれてきた黒き裏拳が彼の視界を覆った。

竜王『がッ―――』

顔面に拳を叩き込まれ、
足が宙に跳ね上がるまでに仰け反りかえる竜王の体。

だが、彼の体がその莫大な衝撃で吹っ飛んでいくことは無かった。

次の瞬間、彼が弾き飛ばされていくよりも速く。
更に身を翻した一方通行が半ば殴るようにして竜王の胸倉を掴み。

そのまま床に―――叩き落したからだ。

一瞬にして割れて陥没する床、
しかしそこから破片が飛び散る事すら始まらないうちに、
間髪入れずに一方通行の翼が踊り。

そして一気に竜王の全身へと絡まっていき。

竜王をその場に固定し―――制圧した。

352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:28:55.92
ID:xxUCz63jo

圧倒的な力の炸裂によって界が軋んだものの、
物理領域まで届いた衝撃は、大地とビル全体をやや強く震わす程度のもの。

床は大きく割れ陥没してしまったものの、顕在化した破壊の跡はそれだけ。

半ばぶっつけ本番で、しかも打ち止めが同じ学区内にいるという状況で、
これほどの力を振り回すことにはいくらかの懸念もあったが、
どうやらほぼ完璧に統制し切ったか。

最初から最後まで力の集束は維持でき、ほとんど余波を生じさせずに済んだようだ。

一方『―――…………ッふゥッ』

腰を落とした姿勢でその竜王の胸倉を押さえ込んだまま、
一方通行はその安堵の意味も篭めて、一区切りを示す息をついた。

そんな彼を見上げて。

竜王『ッは……殻を破ったばかり、その力を到底扱いきれるとは思っていなかったが』

苦痛を滲ませながらも、
未だに不敵な表情のままの竜王が声を放ち。

竜王『十二分に使いこなしているじゃないか。「竜王として」の俺様をここまで圧倒するとは』

そして高らかに叫んだ。

竜王『―――なあエドワード!!本当に良い「駒」に仕上げたな!!』

奥にて、膝をついているアレイスターへと向けて。

竜王『―――その「駒」に守られる気分はどうだ?!はははは!!』

竜王『それも「その体」の「仇」からな!!』

353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:31:47.65
ID:xxUCz63jo

一方『―――』

そんな竜王の言葉が放たれた途端、
一方通行は確かな気配の変化に気付いてその顔を向けた。

アレイスターへと。

瞬間、抜け殻のようになっていた彼の気配に、
いや、それ以前に元から『中身』の無いまるで機械のようなあの男に。

微かに―――ほんの微かに、『生々しい熱』が生じたのを敏感に察知したのだ。

しかもそれはどす黒くて強烈な、
こうして僅かな分だけでも瞬時に把握できる、一方通行が良く知っている『熱さ』。

そう―――『憎しみ』だった。

竜王『これは傑作だ!!聞えているのだろうエドワード!!どんな気分だ?!』

竜王『是非聞かせてくれ!!礼として俺様は「ローズの歯ごたえ」を聞かせてやるぞ!!』

明らかに挑発し侮辱している竜王の言葉、
当事者ではない一方通行ですら耳障りの忌々しい声、それが連なっていくたびに。

竜王『お前の「妻」の魂を引き裂いた俺様の爪から、「駒」に保護される気分は?!ははははは!!』

一方通行ははっきりと感じ取った。
俯いているアレイスターのその背に、全身に、色濃く重なっていく『憎悪』の影を。

今まで一度たりとも、
人間性の欠片も覚えなかったこのアレイスター=クロウリーに。

一方『…………ッ!』

生々しすぎる程に煮え滾った感情を。

354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:33:29.41
ID:xxUCz63jo

―――そして。

その体の仇。

お前の妻。

魂を貪った俺様。

それだけの言葉で、
竜王とアレイスターの間にあった過去の因縁はおおまか予想が付いてしまう。

一方『―――…………つ……ま……』

素直で純真な一方通行、
そんな根が露になっている今の彼としては、絶対に知りたくも無かった過去が。

竜王『知りたいか?聞きたいか?この男の哀れで無様で罪深き所業の全てを―――』

一方通行の反応を見て、ここぞとばかりといった調子でニッと笑い、
これまた明らかに冷やかしの声を放つ竜王。

その時―――これはマズイ、一方通行は瞬時にしてそう状況を分析した。

ここはあのまま『動かないで』いて欲しかったアレイスターが。

面を遂に挙げて―――竜王を真っ直ぐに睨んでいたからだ。

―――その瞳を血走らせて。

竜王『あの男は昔―――』

そして彼は、そう口を開きかけた竜王の言葉を。

アレイスター『――――――――――――黙れ―――』

静かながらも、鋭いその一声で封じた。

355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:34:55.51
ID:xxUCz63jo

竜王『ほお……これはこれは……』

そんなアレイスターの声に、
これまたわざとらしく嬉しそうな声を漏らす竜王。

対して一方通行は真っ直ぐにアレイスターを睨み、強烈な威圧感を放つ。

一方『―――アレイスター。黙ってろ』

しかし。

その制止の声にアレイスターが応じる気配はなく、
床に転がっていた銀のねじくれた杖を手に取り。

一方『やめろ―――止せ』

一方通行が他の翼を大きく広げ、
武力行使の意思を示しても、彼は留まる気など微塵も見せず。

一方『―――おィ、こィつは最後の警告だ』

そして立ち上がった。
その瞬間、容赦なく一方通行の翼が伸び、
アレイスターを再制圧―――。

―――するはずだったのだが。

一方『―――』

伸びていくはずの翼が―――根こそぎ『切り落とされていた』。

いつの間にか周囲の宙に出現していた―――『真っ赤』な光の筋に。

竜王『さてと、そろそろ俺様も―――「新しい力」を試させてもらうぞ』

356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:36:15.03
ID:xxUCz63jo

何が起きたのか。

それを把握するどころか、
こうなる僅かな兆しすら全く知覚出来ず。

一方『―――』

続けて更に間髪入れずに。

彼がわき腹に強烈な衝撃を覚えた瞬間、
その身が一気に吹っ飛ばされてしまった。

何が起き何で攻撃されたのか、彼がようやく知ったのは、
そうして壁に磔にされてからであった。

一方『―――ッかァァァア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!』

腹部を貫通していたのは―――『赤き光の槍』だった。

今の今まで竜王が行使していたものとは明らかに違う、
そして桁外れの力が篭められている凄まじい刃―――。

その刹那。

一方通行の思考は、この『赤き槍』の姿を過去の記憶の中にも見出す。

―――どこかで、どこかで見たような。

いいや、はっきりと覚えている。
あんな代物を忘れるわけも見間違えるわけもない。

あの赤い、赤い光の『矢』。

一方『なッ―――』

去年のあの騒乱の際。

あの異世界の決戦の時―――かの魔帝が使っていた―――。

一方『―――なンでコレをッ―――オマエがァァァァ゛ァ゛ッッ!!!!!!』

ダンテ達に雨のように放っていた―――無数の赤い『光の矢』だ。

357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:38:46.88
ID:xxUCz63jo

響く、苦悶に染まりあがった一方通行の怒号。
そして彼の問いに返されたのは言葉ではなく。

立て続けに放たれた―――同じ六発もの『赤い矢』だった。

それらが一気に、彼の腹、胸、そして首へと突き刺さっていく。

一方『―――ァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!』

その魔帝の力による激痛と衝撃は、まさに今まで味わったことのないもの。
あまりの刺激に耐えかねた彼の咆哮は、内臓が口から飛び出してしまうか、というまでの勢い。
そんな、磔になっている彼の様子を見て、

竜王『はは、これまた驚いた。馬鹿みたいに頑丈だな』

いつの間にか自由の身になっていた竜王が、呆れがちに笑った。

竜王『これは魔帝の矢だぞ?そこらの大悪魔なら一撃で即死しかねない代物だ』

竜王『いくら俺様でも、「竜王だけ」としてだったら、立て続けに七発も浴びれば声すら出ないものなのだがな』

竜王『さて……お前に昔話を聞きかせるところだったかな?』

そうして再度、『昔話』を始めようとしたところ。

アレイスター『―――黙れと言っただろう』

またしてもアレイスターがその声を遮った。

358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:44:34.03
ID:xxUCz63jo

竜王はそんなアレイスターの顔をまじまじと眺め、「ふむ」とわざとらしく声を発しながら、
お馴染みの酔狂しきった高慢な笑みを浮べて。

竜王『一端の責任感はまだ健在だったか』

竜王『真の大罪を背負うのは己のみ、如何なる形であれ、他者の記憶に残り偲ばれる事は拒絶する―――』

一方『―――やめろアレイスタァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ!!』

闇や翼をいくら伸ばしても赤き光の筋に切り掃われ、両者には欠片も届きもせず。
その咆哮も、もうアレイスターには届いていなかった。
彼がどれだけ大きく叫ぼうが、憎悪に滾る男の熱は冷めず。

それどころか、ますます激しく荒々しく噴き上がっていく。

竜王『―――そんなところかな、お前のケジメは。全く、非業の魔術師であり親であり夫であり一人の男だな。泣かせるよ』

アレイスター『黙れと言っているのだがこの腐れ竜が。私に用があるのだろう?』

竜王『ああ、そうだ、お前に用があったんだ。エドワード』

一方『―――――――――逃げろッッ!!逃げやがれッッッ!!』

ダメだ、これではダメだ―――上条を取り戻すためには、あの男が必要なのに。
万回殺したとしてもまだ殺したり無い、そんな男でも。

絶対に―――絶対に生きていてもらわなければならないのに。

アレイスター『…………………………………………』

それこそ今この瞬間においては―――打ち止めたちと『同じくらい』に、失ってはならない命であるのに。

一方『――――止せェエェェェ゛ェ゛ェ゛ェ゛!!』

そんな一方通行の叫びも虚しく。
竜王とアレイスターの姿は次の瞬間。

彼の目の前から消失した。

―――
361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(茨城県) [sage]:2011/11/13(日) 03:47:53.77
ID:L71GXJ8y0
しかし赤い矢6本ってスパーダ血族レベルじゃないと無理だな

362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) :2011/11/13(日) 05:06:30.27
ID:13ObDqDR0
つか一方さんどんだけ頑丈なんだよwwwwww
ダンテたちでさえ耐えられるのは5本が限度とか言ってなかったっけ?

364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [sage]:2011/11/13(日) 12:59:06.78
ID:xxUCz63jo
紛らわしくてすみません。
ダンテ達でも危険なのは『赤い大剣』の方で、四発以上直撃すれば死ぬという代物ですが、
フィアンマが今回使ったのはそれではなく、魔帝がバッシバシ大量にぶっ放してきてた小さい光の矢です。

385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/17(木) 03:04:26.36
ID:ex0W4kCWo
―――

19世紀末、ある魔術結社に二人の若き魔術師がいた。

片方は物静かで紳士的、もう片方は活発で傲岸不遜と、
その人格は似ても似つかない正反対のものであったが、

一つだけ、彼らの間には『彼ら同士』にしかない共通点があった。

非凡なる頭脳を有していたことである。

これもまた不思議な縁か、
それとも『何か』が明確な意志の元にそうしたのか。

1000年に一人、いいや、その程度では収まらないほどの才が同じ時代に生まれ、
魔術界へと入り、同じ結社に属し、そして肩を並べていたのだ。

そうして、対等に知的共有できる相手が互い以外にはいなかった彼らの間に、
他には無い特殊な関係が形成されるのも当然の成り行きか。

それは実に奇妙な『信頼関係』。

生活スタイルも価値観も、
付き合う人の種類もまるで違うにも関わらず、
彼らは互いを最も理解し唯一の『親友』であり『ライバル』と認め称え合う。

そして互いに理解しきっているが故に相容れず、
彼らの間は常に一定の緊張感で満たされる、というものだった。

それだから、結社の同士達の目にはまさに犬猿の仲に映り、
そんな二人の一触即発の緊張に周囲は常に気をもんでいた。

当の二人にとっては最も気兼ねなく接することができる相手であるのだが、
喧嘩腰に聞える魔術談義が白熱し、実際に殴り合いにまで発展することもしばしばあっては、
周りからは到底『親しく』見えるわけも無いのである。

386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/17(木) 03:05:57.56
ID:ex0W4kCWo

ただ彼らのこの奇妙な関係は、その密度に反比例するかのように短いもの、
僅か二年の間だけであった。

いいや、近い内に別の道を歩むことになることを互いに感づいていたのかもしれない。

だからこそ、周囲からは犬猿の仲と認識されるくらいに、
その思考をとにかく吐き出しては激しくぶつけ合っていたのかもしれない。

そうして二人が出会って二年が過ぎた頃、彼らの道は遂に別れることとなる。

活発で傲岸不遜であった一人は、次第に『魔界魔術』に傾倒していき、
その力に魅せられては天界魔術に見切りをつける形で突然離団。
更には魔術界の表舞台からも姿を消し。

人間の―――『力』を証明するために、ただそれだけに己が才と人生の全てを賭す。

そして物静かで紳士的であったもう一人もまた、
唯一対等な者がいない結社には、これ以上身を置く意味も無いと結社を離れ。
その才を惜しみも無く発揮し、魔術界を席巻し、革命を起こす―――そんな『隠れ蓑の裏』で。

一人の特別な女性と出会い、そして彼女の力から『真実』を知り。

古の天の英雄に共感し心酔し、かつその手段を否定して。

人間の―――『未来』を手に入れるために、ただそれだけに己が才と人生の全てを賭すようになる。

387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/17(木) 03:08:40.12
ID:ex0W4kCWo

―――ただ、と。

『今』になって『彼』は再認識する。

人間の未来を手に入れる、
その理想をただただ純粋に追い求めることができていたのは、60年前までだったのだ、と。

一度完全なる敗北を喫したとき、
エドワード=アレグザンダー=クロウリーなる人物は、
もう素直に前に進めなくなってしまっていたのだと。

アレイスター『……』

その人間性は全ての喪失に耐えられるほどに強くは無く、
中身はどす黒くなってしまったのである。

だからこそでもある。
二度目のプランを進めるにあたって、己から人間性の全てを除外したのは。

だが。

ここでもまた彼はようやく気付いた。
そのような人間性から完全に逃れること、絶対になどできないのだと。

いくら外装を取り替えても、
こうして根源の魂から絶え間なく噴き上がってくるのだから。

ミカエルに心酔し、そして―――ある女性を愛した『人間の男』のままの魂から。

アレイスター『…………』

怒りが。

憎しみが。

抗いようも無いほどに強く。

389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/17(木) 03:12:09.92
ID:ex0W4kCWo

意識内にて、最後に交わしたあの友の声が再び木霊する。

『―――お前の真の目的は「――」だ』

その言葉に今の彼は「そうだ」と返す。

そうだジョン―――その通りだ。

その点については君が正しかったよ、と

60年前のあの日から、この魂を突き動かしていた最大の原動力は理想を遂げることではなく―――

―――怒りだ。

ローズ
―――『彼女』を奪った全ての存在への、と。

今まで対していた敵は天界。
彼女の仇とはいえ、その関与はあの状況を整えたという『間接的』な範囲に留まっている。
それ故だろう、魂の奥底に渦巻いていた憎悪は、理性による封印を破ることは無かった。

アレイスター『……』

しかし今や違う。

対面している存在は―――『直接的』に手を下した者。

その『行使の手』で彼女を噛み砕いた神の右席。
彼女を侮辱しその死をあざ笑う古の怪物だ。

彼の激情は今や、理性で抑えきれる範囲を遥かに超えていた。

390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/17(木) 03:15:16.86
ID:ex0W4kCWo

彼はもう諦めていた。
己を律することは止めた。

プランも終わりだ。

敗北したのだ。
この『二度目』もまた、完全に敗北し失敗した。

もう良いのだ。
もとより生に執着は無く、後悔はあれど未練など一欠けらも無い。
二度も敗北して、もう三度目に挑む気力も無い。

どうしようもなく疲れて、どん底まで絶望して、
二度と色を落とすことが出来ないくらいに憎悪に染まってしまった。

そして感情に再び身を委ねてしまったからこそ認識する―――これまでの行いに対する、桁違いの『罪の意識』と。

とてつもない『失望』。

元から人の命など全く気にしていない人格だったアリウスとは、決定的に違う。

本来のアレイスターは、古の英雄に思いを馳せ、一人の女性を愛し、
そして人間の未来を救おうとした『馬鹿正直な理想家』なのだ。

そんな彼が耐えられるわけも無い。

この60年の間に犠牲にしてきた存在―――大勢の子供達の『命』が、全て『無意味』だったことに。

己の行いはただ―――事態をかき乱し―――

救うはずの人類を―――更なる窮地に追い込んでしまったのだと。

391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/17(木) 03:16:47.43
ID:ex0W4kCWo

そうして絶望と失望に打ちひしがれて、憎悪に身焼くアレイスター
そんな彼に今できることはただ一つ。

それは些細な『後始末』であり、今や己にしかできないこと―――竜王を廃することである。

竜王『―――ッ』

アレイスターと竜王、次の瞬間に彼らが立っていたのは、
学園都市の薄暗いビルの中ではなかった。

黄昏色の光に満たされた大気、空。
黄金の縁取りが施された、延々と続く白亜の石畳。
そして崩れかかった、金銀煌びやかな装飾過多の列柱。

アレイスター『―――覚えているな?』

そこは古の人界に存在していた神族の界域、
その中でも最上層の『人界王』の間であり。

そして―――――――――竜王とミカエルが共に滅んだ地であり。

アレイスター『―――この場所を』

60年前、先代の右方と―――ローズが死んだ地。

392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/17(木) 03:18:59.85
ID:ex0W4kCWo

そこはアレイスターによって、
かの『界域』が学園都市の『中』に限定的に『再現』されたもの。

そう、『再現』だ。

それもアレイスターが再現しているのはこの風景だけではない。

かつてある時、そこで行われた出来事―――。

―――ミカエルが竜王に喰われ、融合し、そして竜王の思念を破壊して自滅させるに至るかの決戦。

その過去の『事象』をまるごと『今』に重ね合わせているのだ。

竜王『―――』

これこそ60年前に『行使の手』を打ち破った、
竜王の力に対するアレイスターの究極の切り札。

『彼女の目』が竜王の力から正確無比なる記憶を引き出し、
アレイスターの業で偶像となり『再現』される。

効果はもちろん文字通り―――過去の正確な再現。

かつてと同じようにして、
『竜王役』の思念は破壊されその力で自滅するのである。

そしてこれまた同じく。

代償として『ミカエル役』の魂も―――飲み込まれて共に死ぬことになる。

393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/17(木) 03:20:21.90
ID:ex0W4kCWo

だがそんな代償も、
今のアレイスターにとっては何の障害にもならない。

むしろ彼はある種の悦びを覚えていた。

竜王『―――これは―――』

なぜなら。

一度目、人界を救うためにミカエルが。

二度目は、己を生かすためミカエルをローズが演じ。

この三度目にて。

アレイスター『……これも覚えているだろう?』

己が演じるのだから。

どういった形であれかの英雄、
そして妻と同じ『時間』と『苦痛』を体感できることは、

この瞬間の彼にとって唯一の―――そして最期の光であった。

アレイスター『―――この―――「右剣」を』

394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/17(木) 03:23:41.18
ID:ex0W4kCWo

竜王は突然切り替わった周囲を見、
そしてアレイスターの『右手』を見て、その目を大きく見開いた。

煌々と輝く彼の右手―――そこに握られている白金の『光剣』を。

ツルギ
それはミカエルの剣の偶像である。

かつて、かの偉大なる英雄が振るった十字教最高の刃。
更にあの決戦の際には、大任を果すべく天界のあらゆる力が集積されていた極限なる『右剣』。

この刃をもってミカエルは竜王に挑み、
喰われると同時にその魂を貫き、竜の思念を破壊したのだ。

そんな刃が、アレイスターの魂と意識と―――類まれなる『業』が許す限り、最大限にまで再現される。

アレイスター『―――ぐ―――がッッ―――!!!!』

その身を震わせるのは想像を絶する負荷。
しかし彼の意識が鈍ることなど無かった。

―――果てしなく強い憎しみと怒りが、その命続く限りは眠ることなど許してはくれなかったのだから。

彼は己の魂や体の悲鳴などお構い無しに、
全ての力をこの術に注ぎ込んでいく。

墓所はもちろん魔界からも、
もう隠れる必要も無いのだから天界からさえも、力を強引に引き出して。

395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/17(木) 03:25:23.77
ID:ex0W4kCWo

そうして。

彼の類まれなる技術と、莫大な力が集束したとき。

この術式の『強制力』は、
まさしく大悪魔・神の域と称される『世界への干渉権』をも手に入れて。

たちまち周囲の現実に―――偶像を上書きしていく。

竜王『こ―――』

竜王が何かを言おうと口を開きかけた瞬間、
その『前世』のフィアンマと言う人間の姿が―――剥がれ―――飛び散っていき。

かつての決戦の時と同じ、『竜』の真の姿へと変じさせられる。

黄昏色のたてがみのある竜の顔に、体表を覆うはさながら黄金の如く煌く鱗。

隆々とした胸板に、鉤爪のあるたくましい腕。
しっかりと床を踏みしめるこれまた屈強な獣脚。

そして後方に大きく開き伸びる―――翼と長い長い尾。

力図強く悠然としているその立ち姿は、まさに『竜人』とも言えるか。

心奪われる神々しさに満ち溢れながらも、
装飾過多の域に達している煌びやかさは、一方で形容し難い嫌悪と不安を抱かせる―――。

―――混沌の竜王。

396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/17(木) 03:27:45.27
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刹那。

黄昏色の光の衣を、炎のように揺らめかせながら。
力ずくで真の姿を暴かれた竜王は、
同じく光が篭る『竜の目』でアレイスターを真っ直ぐに見た。

かの時に抱いた驚きと怒りもまた、正確に『再現』されているのであろう、

アレイスター『―――はッはははは―――!!!!』

異形の瞳にそれらの感情を見て、アレイスターはたまらず笑った。
苦痛に顔を歪めながら、憎悪と絶望を滲ませて。

ミ カ エ ル
上条当麻。

彼の思想に共感して、彼の英姿に心奪われ、
そして彼に成り代わってその理想を現実にしようとこの生涯を費やした。

志半ばで敗北し、掛け替えの無い存在を失っても、