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ダンテ「学園都市か」9(学園都市編)

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151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/26(水) 01:54:42.89
ID:SfkefR7uo

―――

ニュージャージー州、マクガイル空軍基地。

エプロンにひしめく多数の輸送機、大きな背嚢を背負った、出撃態勢ととのった兵士達の長い長い列、
それらの隙間をひっきりなしに往来するトラックや作業車。

恐らく全米中の基地が今はこんな状況であろう、この基地もその例にもれず騒然としていた。
いや、それどころか特に慌しくなっている方か。

東海岸の主要な輸送拠点の一つであり、欧州へ向けての便も多数飛び立っているからだ。

そうして格納庫もまた、
一時的な物資の集積場やミーティング場、兵の待機所や作戦指揮所として使われており。
今その一つに、百人近くの少年少女達が陣取っていた。

学園都市からやってきた、世界初の能力者によって編成された『組織的戦闘力を有する部隊』が。

土御門「…………どういうことだ?」

その一画にて、土御門は怪訝な表情を浮べていた。
米軍の携帯食を流し込むように口にしながら。

今ここでは誰も行儀など気にしていない。
米軍が厚木行きの超音速輸送機を一機手配してくれるとのことで、
それを待つ間、みな急いで態勢を整えている最中だ。

土御門「その『音』は、俺以外は皆聞こえているのか?」

土御門は更に大きく一口、パウンドケーキをほお張りながら、
近くにいる二人へと問い放った。

152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/26(水) 01:57:08.74
ID:SfkefR7uo

結標「そうみたい。能力レベル関係無しに」

御坂「うん。浜面くんと佐天さんもだってね」

通信機を弄りりながら答える結標、続き、
弾薬箱から大量の弾をバッグへと詰め替えながらの御坂。

作業の傍ら彼らが話しているその内容。
それはつい先ほど、この空港に向かっている間に起きたことだ。

突然ミサカネットワークが応答しなくなり、結標と滝壺がその演算支援を受けられなくなり。
その直後、土御門を除くこの部隊のメンバー全員に『異様な音』が聞え始めたのだ。

土御門「……」

ネットワークの接続が切れた原因として考えられるのは一方通行だ。
御坂曰くフィアンマが現れた時も同じ状態になったという事から、彼の身に何かが起きたのだろう。

『音』については、聞える条件は諸々の話を聞いてすぐにわかった。
能力開発を受けた者、つまり強弱関係なくAIMを有している者だ。

それでレベル0の浜面からレベル5の御坂まで皆聞えているが、
AIMを捨てた自身や周りの米兵達が聞えていないのも筋が通る。

ただ。

あまりにも材料が少なすぎて、
いくら考えてもこの音については結局、今はその正体を推測することすらできなかった。

153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/26(水) 01:59:03.38
ID:SfkefR7uo

今現在、学園都市で何が起きているのか、それを知ることは非常に困難になっていた。

土御門「どうだ?」

首を横に振る、通信機を手にしている結標。

ネットワークがこんな状態になったと同時に、
事態を把握しているであろうアレイスター側とは全く交信できなくなってしまったのだ。

親船が中心となっている暫定理事会には繋がるがやはり時間の無駄、
彼らは何が起きているか全くわかっていなかった。

そうなるとやはり、できるだけ早く学園都市に戻りこの目で状況を把握するしかない。

土御門はそんなもどかしい気持ちを何とか押さえて。
相変わらず片手のパウンドケーキを口に持って行きながら、もう片手で手際よく装備を整えていった。

とそうしていたところ。

申し訳無さそうに少し身を屈めて、
彼らのところに佐天がやってきた。
彼女は御坂と結標に小さく会釈したのち、土御門に向けて。

佐天「あのう、今いいですか?」

土御門「何だ?」

佐天「できれば私も……ここの皆と一緒に学園都市に行かせてもらえませんか?」

154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/26(水) 02:00:57.48
ID:SfkefR7uo

学園都市への第一便、つまり今待っている超音速輸送機には、
部隊の全員が搭乗するわけではなかった。

今も医療施設にて集中的な治療を受けている者、作戦能力を喪失した者や非戦闘員は、
少し遅れて通常の輸送機で運ぶ手はずになっている。

もちろんこの佐天もだ。

御坂「佐天さん……気持ちはわかるけどやっぱり……」

結標「第23学区に着陸できるとも限らず、場合によっては高高度から降下するかもしれないわけで、」

結標「『学習装置』も受けて無ければ能力も無いってなると、ねえ。とにかくある程度自分の身を何とかできる力が無いとどうにも」

と、結標はそんな全うな意見を述べたところで。

結標「……って、私は考えてるけど……」

自信が欠落していくかのようにみるみる声を小さくしながら、じろりと目を横に移した。
もぐもぐと口を動かしながら、不敵な笑みを浮べている『指揮官』へ。

そして彼女が肌で感じていたことは的中した。

土御門「構わない。わかった」

土御門はあっさりと承諾したのだ。

土御門「だが。こっちもできる限り手を貸すが、忘れるな。向こうで何があっても、ここで決断したお前の自己責任だ」

佐天「は、はい!!」

土御門「じゃあ準備を済ませておけ」

佐天「わかりました!!」

155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/26(水) 02:03:07.71
ID:SfkefR7uo

そうして。
佐天は大きく礼をして、急いでその場から走り去っていった。

御坂「―――ちょっと!!何で?!」

当然、御坂は土御門に詰め寄った。
佐天の身を案じるからこその食いつきだ。

土御門「連れて行っても損は無いと思うぜい。きっと運がノってくる」

対して土御門は、パウンドケーキの最後の一欠けらを口に放って、
大したことでもないという調子でそう返した。

御坂「運?!何よそれ!!そんな適当な理由で私の友達を―――」

土御門「適当なんかじゃない。実績があるだろ。彼女がいなければ、彼女の働きが無ければ、キリエ嬢は助からなかったんだ」

土御門「わかるか?彼女もこの『流れ』の中にいるんだ。もう無関係とは言えない」

土御門「第一便に乗れない他の者達とはわけが違う。彼女は俺たちも『中心よりの役者』かもしれないんだ」

御坂「で、でも……」

土御門「少なくとも俺はその可能性を感じたから承諾した。お前が反対しようとも、俺は俺の権限で許可する」

御坂「………………う、…………」

納得しきれることではないが、そこまで言われてしまうともうぐうの音も出ない。
どうやっても土御門の判断を覆させることが出来ないと、ここで御坂はわかってしまった。

156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/26(水) 02:04:02.31
ID:SfkefR7uo

それならば、と。

御坂「じゃあ佐天さんには私が付―――」

土御門「ダメだ。お前は本物のレベル5だ。世話係りに使っていいようなコマじゃない」

御坂「…………は、はい」

と、そう口を開いたのも束の間、
言い切る前に土御門にこれまた正論で却下されてしまった。

土御門「心配するな。結標にやらせる」

結標「私が?冗談でしょ?」

土御門「いいや本当だ。演算支援復旧の目処がつくまでは彼女の護衛だ。頼んだぞ」

結標「……ま、命令なら仕方ないわね。了解」

と、その時であった。
通信魔術の起動を知らせる、きん、と甲高い音が土御門の脳内に響き。

オッレルス『―――土御門!!』

かなり張り詰めたオッレルスの声が聞えてきた。

157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/26(水) 02:05:33.23
ID:SfkefR7uo

アックアはキリエをフォルトゥナに送り届けるために飛び去り、
シルビアは先ほどこの基地からイギリス行きの便に、
そしてオッレルスは、あのまま一人デュマーリ島に残り『核』の解析を行っているのだ。

そうして作業していたら何かがあったのだろうか、オッレルスは酷く慌てていた。

土御門『―――どうした?』

オッレルス『大変だ!!とんでもないことが―――!!』

土御門『落ち着け。落ち着いて話すんだ』

オッレルス『たった今だ!!ああ……くそ!!すまん!!順を追って話す!!』

オッレルス『さっきこの「核」の中におかしな部分を見つけたんだ!!』

オッレルス『―――アリウスが死んでから起動するよう記述されてた術式だ!!』

土御門『―――なに?』

ぞくっ、と。
これも慈母が残してくれた力の一端か、思考でその言葉を理解する前に、
鋭い嗅覚が強烈な『不穏』の香りを捉えたのだ。

アリウスが死んでから、ということはあの男の『置き土産』なのだろうか。
だがこの悪寒はその程度のものではない、と仄めかしていた。

158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/26(水) 02:07:22.11
ID:SfkefR7uo

オッレルス『当然だがもう起動されている!!』

オッレルス『それでやっと俺も見つけられて把握できたんだが、おかしいんだよこれが!!』

オッレルス『アリウスが布いた全ての暗号化を解いた後でもまだ暗号化状態だった!!』

土御門「どういうことだ?」

オッレルス『これを組み込んだのはアリウスじゃない―――第三者だ!!』

オッレルス『「誰か」がアリウスに気付かれないように仕込んでたんだよ!!』

土御門『その術式の作用は?』

オッレルス『それはわからない……内部構造がまだ解読できない。アリウスのものとは全く違う未知の書式なんだ……!!』

土御門『……』

作用はわからない。
となると、問題は他にもあるということだ。
確かにこれだけでも驚きの情報だが、それだけだとオッレルスをここまで動転させるには弱すぎる。

何せアリウスの中に真っ向から飛び込んだ、鉄の精神力を持つ男なのだから。

そしてその通り。

オッレルス『だが―――更に重要なことが判明した!!』

これは序章だった。

159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/26(水) 02:08:08.26
ID:SfkefR7uo

土御門『何だ?』

オッレルス『これが本題だ!!』

オッレルス『こいつが起動して少しした後。たった今のことだ!!』

オッレルス『俺が解析してる真っ最中に、この術式に「外部」から接続があったんだよ!!』

土御門『ということは逆探知を?』

オッレルス『向こうの位置は全く探れなかったが―――「身元」は!!』

オッレルス『魔界言語で作られた「紋」が出てきたよ……!!』

土御門『つまりは悪魔か。誰だ?』

オッレルス『とても信じられないが…………この核がこう判定したんだ―――』

そうして、オッレルスの声に乗せられてきた名は。

土御門『―――…………ウソだ―――有り得ない―――』

この土御門ですら、思考が一瞬で真っ白にまってしまうほどのものだった。
そう、こんな名が出てくることなんて有り得ないのだ。

オッレルスが口にした『存在』は既に―――『滅んでいるはず』なのだから。

160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/26(水) 02:11:09.06
ID:SfkefR7uo

土御門『冗談が過ぎるぞオッレルス!!見間違いだ!!もう一度確認しろ!!』

信じられるわけが無い。
誰が何と言ってもこれは覆りようが無い事実なのだ。

オッレルス『この印の意味は何度も確認した!!間違いない!!』

土御門『だったらアリウスの構文自体がおかしい!!単語の割り当てが間違ってるに違いない!!』

有り得ない、絶対に有り得ないはず。

オッレルス『―――ならば―――君の慈母の目で確認しろ――――――!!』

だが。

土御門『―――』

次の瞬間、オッレルスから送られてきた問題の『紋』が意識の中に浮かび上がり。
慈母の目は確かに読み上げた。

『ムンドゥス』

『アルゴサクス』

そして。

『スパーダ』

と。

土御門『―――…………ウソだろ…………おい…………』

しかも、一体いかなる意味を表しているのだろうか。
それら三つの名は―――。

重なり―――『融合』し。

『一つ』になって、そこに新たな意味を明示していた。

『全』、と。

―――

166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/26(水) 22:21:32.46
ID:yHnmTEoV0
創造主に勝てるパーティが合体かよ・・・
これは右手の人と無関係なのかどうなのか

171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 22:51:21.17
ID:I/28j2Hpo

―――

上条「―――ダメだ!!来るな!!こっちに来ちゃだめだ!!アクセラレータ!!」

上条は叫んだ。
宙に磔られているその体を少しでも前へ、一ミリでも近くへと乗り出して。

友は全く反応を示さなかった。
そのオレンジの瞳には上条など映ってはいない。
声も届いてなどいない。

上条「―――おい!!アクセラレータ!!」

それでも上条は腹の底から声を放つ。
届かないとわかっていながらも、そう、またこれもわかっていたのだ。

友の前にあるアレイスターへと続くたった10数mの道。
絶対にそこを進ませてはならない。

その終着点に待ち受けるのは―――とてつもない凶事なのだから、と。
このとてつもない男、アレイスター=クロウリーの罠が待ち受けいているのだから。

上条「アクセラレータァッ!!」

だが―――やはり無駄だった。

瞬き一つしない、その空虚な目は真っ直ぐとアレイスターに向き。
不気味な光沢の闇を纏わせながら歩みを進めてくるのだった。

徐々に、ゆっくりと。

上条「―――止まれええええッ!!」

173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 22:52:40.61
ID:I/28j2Hpo

アレイスター『さあ、来るんだ』

上条の声と相反しての誘い込む言葉。

それは平坦で単調で、上条のものよりもずっと小さな声なのに、一方通行は反応を示す。
ぴくり、と目の周りを痙攣させるように動かして、身に纏う闇を振るわせたのだ。

上条「ダメだ!!聞くな!!」

アレイスター『今の君なら、私など軽く捻り潰せるぞ』

アレイスター『今の君の力の前には、私など虫けらに等しい』

アレイスター『君は人間界の新しい「王」だ。さあ、私に裁きを下してしまえ』

上条「耳を貸すな!!全て戯言だ―――!!」

と、そこで上条が放った『戯言』という言葉、
その表現が引っかかったのか、アレイスターはふと彼の方へと振り向き。

アレイスター『全て、ではないぞ。むしろ今は、私は真実しか口にしていない』

上条「―――っ?!黙れ!!」

今更どの口でそんなことを言うのか。
上条は一際憤りを覚えたが、アレイスターは全く気にする様子も無く。

アレイスター『では、彼の力を試してみるか―――?』

174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 22:55:10.52
ID:I/28j2Hpo

その瞬間だった。
突然アレイスターの前の空間に。

白い無地の装束を纏った、長身の女性『らしき何か』が出現した。

上条「―――」

いや、上条にとっては『何か』なんて表現を使わなくても良かったか。
彼は一目でその正体を把握したのだから。

アレイスター『私はエイワスと呼んでいる。説明はいらないだろう』

エイワス『私を構成する一部には、君と面識があった者も大勢いるからね』

その通り、説明はいらなかった。

上条「な……なんだよ……『コレ』は……!!」

アレイスターは一体いくつ隠し玉があるのだろうか。
これもまた己の知覚を疑う存在だった。

それは人界の神々の因子が無数に混ざり合う力の塊。
古き世界の記号が寄せ集められた残像。

それは―――『亡霊』。

175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 22:57:01.71
ID:I/28j2Hpo

上条「な……なっ……!!」

エイワス『ああ、彼はまだ「ミカエルだけ」のままか。竜王の因子は稼動させてないのだな』

アレイスター『焦るな。これからだ』

エイワス、そうアレイスターが称した存在は彼と一声交わしたのち、
5m先にまで歩んできていた一方通行と向き合った。

エイワス『ということは、先に彼を「味見」をさせてくれるのかな?』

アレイスター『ああ。試してみてくれ。もちろん―――最高出力で構わんよ』

と、そこでアレイスターが杖でこん、と床を叩いた瞬間。
エイワスの背後の空間から、煌く光の翼が出現した。

いや―――それは翼とするよりは『大樹の根』か。

無数に枝分かれた光の筋が瞬く間に周囲に広がり、空間に不規則な網目状の根を張っていく。
その光景は、肉に絡む毛細血管に似ているか。

上条「―――!!』

発されるとてつもない規模と濃度の力。
死した残骸からなる『ただの塊』とはいえ、それはそれは尋常ではない量だ。

アレイスター『これが、私の手にある最大の力だ』

アレイスター『見てろ。これを今から彼にぶつけてみせる』

そして小さな子供が自分の工作を自慢するかのように。
アレイスターはただ純粋な笑みを浮べて、上条へ向けて微笑んだ。

176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 22:59:03.53
ID:I/28j2Hpo

本能はまだ残っていたのか、その戦気を悟ったのだろう、
一方通行はそこで足を止めた。

と、その直後だった。

空間に根を張っていた光が一斉に―――彼目掛けて伸びた。

上条「―――」

大悪魔の域に踏み込んでいる今の上条ですら、認識できないほどの勢いで。

そしてただただ乱暴に、小細工無しに真っ向から。
死しても尚、諸神諸王の域たる圧倒的な力が一方通行へ叩き込まれた。

しかし。

そんな力が放たれたにも関わらず、結果は随分と地味なものであった。
爆轟も衝撃も生じず、ただ一瞬の光の明滅だけ。

それだけだった。

上条「―――ッ……!!」

次の瞬間には。
周囲を満たしていた光の大樹は、幹と言える部分か、
エイワスの背に近い部分までしか残っていなかった。

対して一方通行は―――傷一つ無し。

闇の不気味な光沢には淀みなどどこにも無く、
姿勢は先と同じまま、何かの動作をとった形跡すら無い。

空間や界どころか、物質領域の床や周囲の大気にすら、
エイワスの力の爪痕は一つも残っていなかった。

177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 23:00:48.02
ID:I/28j2Hpo

アレイスター『さて、この証明で満足かな』

上条「…………」

満足もなにも、これは反証の余地など無いだろう。

一方通行は現生人類から人界の神へ、つまり『真の人』へと変じ、
原初の人類と同じくその魂に己自身の『力』を持つ存在となり。

エイワス『―――素晴らしい』

根こそぎもぎ取られた自身の翼を見て、呟くエイワスの言葉通り。

その領域は―――。

エイワス『これはもはや一柱の神の範囲ではない―――まさに「王」たるに相応しい』

―――人界の主たるものだった。

上条「……っ……」

そう、先ほどのアレイスターの言葉は嘘ではなかった。
今の君なら、私など軽く捻り潰せるぞ、
今の君の力の前には、私など虫けらに等しいよ、それは真実だ。

だがアレイスターがここで一方通行に倒される気が無いのも、もちろんのこと。

上条「―――」

それを踏まえると、アレイスターが一方通行を具体的にどうしようとしているのか、
そのやり方が自ずと浮かび上がってくるものだ。

――いや。

それはわざわざこうして確認するまでも無かった。
今更なことだ。
今までと同じやり方だったのだから。

178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 23:02:30.85
ID:I/28j2Hpo

何も今に始まったことではない。

力で勝負はしない。
腕ずくで屈服させるつもりはない。

直接的な手段は執らない。

アレイスターはあくまで環境の整備と誘導だけに留まり、自発的変動を促すだけ。
そのやり方はこの最終段階でも変わりは無かった。

今の一方通行相手に正攻法で挑むと、アレイスターの力など当然及びはしない。
最高出力のエイワスをぶつけてもこの通り、とても干渉できる差ではない。

しかしそこは言わずもがな、彼はそんなやり方などしない。

憎い、愛しい、破壊したい、手に入れたい、殺したい、守りたい。
特に強いこれらの衝動の『振り幅』を調整することで事足りるのだから。

それに今の一方通行でも、
存在が昇華しようとも思念は現生人類のまま、それも―――成長過程は全てアレイスターに管理されていたもの。

アレイスターにとって、
感情を揺さぶりその人格を容易に―――破壊させるのはお手の物なのだ。

そして、既にアレイスターの最後の一手は終っていた。
一方通行がここにこうしてやってきた時点で決していた。

あとは待つだけだ。
一方通行という人格が、極度のプレッシャーと自らへの疑心の果てに―――自壊し。

その器を明け渡すのを。

179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 23:03:41.32
ID:I/28j2Hpo

上条「―――」

このアレイスターのやり方は今までも繰り返されてきたこと。
先ほど嫌となるくらいの驚愕に苛まれたのだから、今更のことだ。

しかし。

確認するのが何度目であろうが―――許し難いのは変わらない。

そうして三度憤りを覚える彼の内面が『見えている』にもかかわらず、
アレイスターはむしろ逆撫でするかのように。

アレイスター『彼は君みたいに図太く鈍感ではない 』

アレイスター『誰よりも純粋で繊細なのだよ』

アレイスター『生真面目で、素直で、親の言いつけは絶対に守るような無垢で幼い子供だ』

火に注がれる油のごとき補足を付け加える。

アレイスター『だから非常に扱いやすい』

エイワス『ふふ、えげつない。えげつないよアレイスター=クロウリー』

そしてこれまた愉快そうな声を発するエイワス。
亡霊は小さく笑い声をあげて。

エイワス『ホルスでさえ、その「目」をそこまで使いこなしてはいなかったぞ』

エイワス『見ていて面白いよ。君は本当に飽きさせない男だな』

180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 23:06:54.01
ID:I/28j2Hpo

上条はそこで一声、いや、
何度でも怒号を吐きたくなったが何とか堪えて。

上条「アクセラレータ!!下がるんだ!!」

その代わりとばかりに、これでもかというくらいの声を友に放つ。
無駄だとわかっていても、それでも何度でも試みる。

きっと、きっと彼の理性があの中にまだ残っているのだから、と。

しかし。
やはり無常にも、彼は上条の声になどには全く反応せず。

アレイスター『―――さあ来るが良い』

静かなアレイスターの声に応じて、再び歩を進め始める。

上条「止まれ!!ダメだっつってんだろ!!来るなッ!!」

アレイスター『そうだ。何もかもをかなぐり捨てて、ただ怒りに身を委ねてしまえ』

そしてエイワスの横をすれ違い。

上条「考えろ!!こいつを殺したところで何も解決はしない!!」

4m、3m。

上条「なあ聞えてるんだろ!!」

2m、そして1m。

上条「―――来るなァァァァ!!」

181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 23:08:45.84
ID:I/28j2Hpo
上条の言葉、それは『知っている』からこそのだった。
ただ激情に身を委ねてしまったらどうなってしまうのかを。

上条「『あの時』はお前が俺を止めてくれただろ……!!なのに何で……お前がこんな…………」

そしてあの時、この上条当麻を止めてくれたのは他の誰でもない、この一方通行だ。
それなのになぜ、なぜこんな―――。

上条「逃げるな……!!目を逸らすなアクセラレータ!!」

今まで知る由の無かった、深淵の『自分』と向き合う行為、
それは確かにとてつもなく怖くて、恐ろしくて、そして想像を絶する自己嫌悪に苛まれて。

だがそれがどれだけのものだろうが、
絶対にそこから逃げてはいけないのだ。

こんな途上で今、進むことをやめてしまったら―――その手で守ろうとしていた存在はどうなるのだ?

上条「―――考えるのを止めるんじゃねえッッ!!向き合え!!」

ここまで来て全てを放り投げてしまうのか―――。

大切な存在を、何もかもを放棄するのか―――。

上条「俺ですら出来たんだ……お前が乗り越えられない訳が無いんだよ……強いお前が―――!!」

だが。

そんな想いも、届きはしなかった。
もう何もかもが遅かった。

182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 23:10:44.31
ID:I/28j2Hpo

上条「―――アクセラレータ―――頼む……」

現実は一方通行が一つ一つ歩を進めるたびに。

また一つ、と。
一方通行と言う人格から、大きなパーツが割れ落ちていき。

アレイスター『さあ―――その手で、私の首を捻じ切るが良い』

ついにアレイスターの前、手を伸ばせば届く距離にまで来た『彼』は。
右手を大きく引いて、そして。

上条「よせ―――」

アレイスターの顔面目掛けて。

上条「―――やめろォォォォォォォォォォォオオオオオ!!」

黒き一撃を振り抜いた。

そうしてその右手は打ち砕くた。
一瞬にして貫き、跡形も無く粉砕してしまった。

アレイスターの頭部ではなく―――己の人格を。

振られた右手は、アレイスターの鼻先僅か数㎝のところで止まっていた。
彼はその拳と、凍ったように硬直している一方通行を見て。

動じる様子も無くただ一言、淡々と事務的に。

アレイスター『ふむ―――「削除」完了だ』

宣言した。

183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 23:13:05.88
ID:I/28j2Hpo

上条「あ……あぁ…………あ……」

目の前で起きたことが信じられなかった。

何を考えればいいのか。
アクセラレータのこの結末は、どんな言葉で言い表せば良いのか。

何も浮かばない、真っ白だ。

上条「………………あ……」

今の上条を満たすは、驚愕や憤りとはまた違う感情。
果てしない喪失感と悲しみだ。

抜け殻になった友の体は、糸が切れた操り人形のようにがくりと膝を突き。
その場で、身に纏わりついてた闇が繭のように体を覆い隠した。

アレイスター『なに、彼は死んだ訳ではない。「ただ」、思念が抹消されたされただけだ』

「ただ」、と。
一方通行という人格が何を思い、何で苦しみ、何で悦び、何で笑ったか、それらを全て知っていながら。
アレイスターはまるで、それがただのデータでもあるかのように言う。

続けて同じように。

アレイスター『もちろん、君も死にはしない』

上条にも向けて。

上条「…………」

上条は一言も返さなかった。
虚ろな目で、ただアレイスターを見返すだけ。

184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 23:14:07.60
ID:I/28j2Hpo

そんな彼を物足りなそうに見上げてはアレイスター。

アレイスター『…………何か言いたい事は無いのか?」

上条「……………………今更なんて言って欲しいんだ?」

上条「…………『気に食わないが理には適っている』か?」

上条「…………それとも『お前には負けた』、か?」

対し上条は乾いた笑み混じりに口を開き。

上条「良いさ、俺の言葉が欲しければ言ってやるよ。どっちも確かに事実ではあるからな」

上条「だがこれも一緒に言わせて貰うぜ」

上条「てめえが抱くそのクソッタレな幻想は―――俺がぶち殺す」

宙に磔になっているその口で、そう宣言した。
成す術など無い、自分も一方通行と同じ結末を迎える、そう頭では理解していても。
それでも攻めの姿勢は崩そうとはしなかった。

それがミカエル、そして上条当麻の生き様。

愚かで馬鹿らしい戦士は、この期に及んでも頑固に、
その自身の有り方を曲げようとはしなかった。

上条「―――必ず…………必ずだこんチクショウがッッ!!!!」

185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 23:17:38.52
ID:I/28j2Hpo

それを聞いたアレイスター。
その美麗な女性の顔に、小さく可笑しそうな笑みを浮べて。

アレイスター『やはり君は予想通りの反応しかしないな』

アレイスター『ここまできても、不可能と可能の分別をつけないか』

上条「あたりめーだろうが!!」

上条「―――んなもん持ってたらココまで来てねえよ!!」

アレイスター『……確かにな。君がこうじゃなかったら、そもそも私もこんな事などしていなかった訳だ』

アレイスター『これから何が君に起こるか説明しておこう。これも尊敬する君への礼儀だ』

と、そこで「さて」と言って、声の調子を変えるアレイスター。

アレイスター『まず、君をエイワスと融合させ―――竜王の枷となっているミカエル、つまり君の思念を初期化する』

そして声を続けながら、彼が再び杖で床を叩くと。
エイワスから無数の光の筋が伸び、瞬く間に上条の体に巻きついていく。

アレイスター『そして―――竜王の顎を完全起動させてもらう』

そうしてついに準備が整ったところで。

アレイスター『ではこれで最期だが、何か遺す言葉はあるかな?』

上条「…………クソッタレが……!!」

アレイスター『直情的で面白みの欠片も無い言葉―――まあそれも君らしい』

あっけなく。

上条「―――はっ…………」

そしてゆっくりと。
上条の意識は、緩やかに沈んでいった。

186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 23:19:33.63
ID:I/28j2Hpo

その直後。
いや、時間感覚すら定かではない中ではそうも言い切れないが。

とにかく『彼』はまどろみの中、その思念を遥か時空の彼方へと運ばれていった。

まずは同じ人間界のデュマーリ島にある『核』。
予め『彼』が、協力者の目を欺き仕込んでいたそのルートを通過して。

その先の現実と虚構の境目。
有と無を跨ぐ、きわめて『あやふや』な領域へと向かう。

―――『収穫物』を確認するために。

「(―――何だよこれは―――)」

だが事情を知っているのは片方、『手を持っていた彼』だけ。
もう片方の『顎を持っていた彼』はまったく身に覚えが無い。

『やあ。上手くサルベージできて良かったよ』

「………………なるほどな。『コレ』を仕込んでいたのか」

「(―――?!何だ、誰と何の話をしてるんだ俺は?!)」

だがそんな『彼』になどお構い無しに、
もう『片方の彼』は『収穫物』を有する協力者と言葉をかわしていく。

「―――…………とすれば……今のお前は、『竜王』と呼ぶべきか?」

「(竜王―――って―――)」

『好きにしてくれ。「俺様」にとっては、名前に然したる意味なんてないからな』

「……ではこう呼ぶか?―――『ミカエル』」

『………………ふん。確かに、俺様にはそう呼べる「部分」もあるがな』

187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 23:21:50.99
ID:I/28j2Hpo

「(―――!!)」

と、そこで『顎を持っていた方の彼』は気付いた。
この高慢な口調と一人称で悟ったのだ。

確かにこれは自分の声なのだが、今までのものではない、と。

『上条当麻』の声帯を元にしたものではない、これはあの男の―――。

そう認識した瞬間、魂に遺されていた古い記憶がまた解放されて。

「(なっ……こんなことが―――)」

「―――…………そうか…………それでは待たせたな。聞きたいことは全て聞いた」

『ああ、心配しなくても良い。お前の思念は残らんよ。綺麗さっぱり消滅する』

「それは嬉しいな」

『……ただ、俺様の内部に残す事も一応できるが。今後の事、興味あるか?』

「無い。さっさと終わらせろ」

「(――――――ウソだろ!!こんな―――!!)」

ミ カ エ ル
彼、『上条当麻だった方』もようやくこの状況を把握した。

アレイスターの筋書きは最後の最後で破綻していたのだ。
竜王は顎だけではなく、その『行使の手』をも取り戻し―――いや、『逆』だ。

行使の手しか無かった竜王は、『ミカエルもろとも顎』を取り戻したのだ。

そして竜王が飲み込むのは、アレイスターが言う人間界なんかじゃなく。
更に竜王がその腹の中で構築するのは、新世界なんかでもない。

『そうか、では頂こう』

飲み込み、腹に揃うのは―――三神の力。

『破壊と具現、お前達は―――どんな味がする?』

そうして構築されるは――――――『全』。

―――

192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/28(金) 00:10:13.27
ID:Dpr7gY7DO
『全』かぁ……つまりジュベレウスみたいなもんか
今更だけど上条さんの覚醒っていつもインデックスが絡んでるな

199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/30(日) 01:03:49.72
ID:7tWDu52DO
作者さん、少し質問なんだが、スパーダ一族の能力である『破壊』とは基本的にどういう能力なんだ?世界を消滅させるほどのパワーというわけではないだろうし(そんなこといったら他の奴らだって出来る。ムンドゥスとか)

200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/30(日) 02:19:19.86
ID:G2tWDFuno
いたってシンプルな戦闘力ってことで前に書いてたぞ。能力なしの戦闘力においては魔帝、覇王を圧倒するってな感じで
でも能力で殺しきれないから封印したと丁寧に説明までしてくれてたな

201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/30(日) 05:47:58.01
ID:vVM0Nswco
>>199
>>200さんの通り、いたってシンプルなものです。
スパーダがここまで突き抜けて『完全無敗』の『総合的な史上最強』になった、
大まかに言えばそれが『破壊』です。

ただ決して、彼のパワーを全盛ジュベレウス並みと比喩しているものではなく、
実際に「ジュベレウス以外の存在全てにかかっていたリミッターを自分だけ外せる」、という機能が働いており、

それは○○も壊せる・○○も切れる、などの外界への具体的な効果ではなく、
内から無尽蔵の力を引き出し続けるというHPMPスタミナ無限化のような、
見た目地味ですが実にハイパーなチートです。

『最大出力が互角であるはず』の魔帝がただの一度もスパーダを殺せなかった一方、
スパーダは魔帝を数えきれないほど、封印が完了するまで延々と殺し続けた点などに、
この圧倒的な地力が現れています(もちろん彼の鍛え上げられた戦闘技術もその要因ですが)。

ただ、この『破壊』は【MISSION 07】スレ700の通り、
『スパーダの血』に『魔剣スパーダ』のセットでないと真価を発揮できません。

『破壊』が強く作用すれば作用するほど、無尽蔵の力と引き換えに伴うとんでもないリスクに、
スパーダでさえ追い詰められて最終的に魔剣という形で分化させてしまったためです。

もちろん魔剣スパーダ無しでもある程度効果はありますが(スパーダ自身がもう半分の『破壊』であるため)、
セット運用時には遠く及びません。

またダンテやバージル・ネロは、魔剣スパーダを手にしても『破壊』は100%には達しません。
スパーダの要素が魂を占める割合はダンテ達は半分、ネロは四分の一であり、
『破壊』もそれに準じる程度しか受け継いでいないためです。

205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/10/30(日) 22:17:37.11
ID:yNjMGh/Q0
>>201
これ見ると、人間に味方したのがスパーダでよかったと思うわ。
人間界侵攻の際に仮に反逆したのが魔帝や覇王だったとして、何とかなったイメージが湧かない。

207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/10/31(月) 01:58:43.91
ID:AUEPPTnso
破壊の力は半減してんのにそれでもダンテは親父超えたって言われてんのか

208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 02:12:28.51
ID:oM/uczJVo
―――

神儀の間。

莫大な力を流し込まれて震えるこの聖域が奏でるは、
悲鳴とも賛歌とも表現できる、不安を掻き立てるもなぜか居心地が良く思えてしまう音。

神裂『……』

神裂はそんな『芸術的な不協和音』に耳を傾けながら、
このオーケストラの指揮者を身を堅くして見つめていた。

広場の中央にて、床に突き刺した閻魔刀の柄を握っているバージル。

一体どれだけの力を絶え間なく注ぎ込んでいるのだろうか。
まさにこの最強の男が己の生命力、文字通りその寿命を削っていく業。

バージルの表情は特に変わらぬも、こめかみには血管が浮き上がり、
その全身には『力み』がはっきりと滲んでいた。

そして空間を満たすは、鉛の海の底にいるかのごとき重圧。

そんな空気に不安にさせられたのか、思わずといった風に。

神裂『……』

手を握ってくるすぐ右隣のインデックス。
神裂はその細くて柔らかな手を包み込むように握り返した。
そっと優しくかつしっかりと、ちょっとやそっとでは絶対に解けないように。

209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 02:14:08.58
ID:oM/uczJVo

二人は今、己達の仕事の準備が整うのを待っていた。
託された作業はもうすぐにでも始まるのだ。

固唾を呑んでバージルを見つめながら、
神裂は何度も何度も頭の中で、セフィロトの樹の切断手順を確認していく。

セフィロトの樹。

それは70億もの人間の監視、管理、操作、力の供与から、
人間界の基盤として理を維持する役割までをも担う、天界が作り出した一大システム群。

人間を縛り付ける鎖でありながら、人間を生かす命綱でもある存在。

そんなものに手を出す、ましてや切断するとなれば、当然そのリスクはとてつもないものとなる。
順序や切断部分を一つ間違えれば最悪の場合、
存在基盤を失った70億人が消え去ることになりかねないのだ。

アイゼン『よいか? 極力慎重に、な』

二人の前に立ちそう再度確認するアイゼン。
インデックス次いで神裂と、その頬に手を当てて、
彼女達に施した視覚共有の術式の最終確認をしつつ声をかけていく。

アイゼン『時間は考えるな。とにかく精度を優先しろ』

神裂『はい』

禁書『……うん』

アイゼン『心配するでない。虚無といえど、セレッサが「観測」している』

アイゼン『そなた達はただ己の仕事に集中しておればよい』

210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 02:16:05.10
ID:oM/uczJVo

虚無。

そう、これから神裂とインデックスが向かうのは虚無であった。

セフィロトの樹、その全体像を一度に捉えるには、手段は二つしかない。
天界側からか、それか遠く『外側』から俯瞰するか、だ。

だが天界側から捉えるのはまず困難だ。
なにせメタトロンらに率いられたセフィロトの樹を守護する軍団が常に監視しているからだ。
見つからずにその本拠に潜入するのはまず不可能。

人界の70億はそのまま人質でもあるため、
攻め込むといった強攻策ももちろん取れない。

そこで選択肢は一つ。

人間界と天界の外であり、更に影が映りこむプルガトリオでもない、
完全な『透明度』を有する領域―――つまり『虚無』から俯瞰するのだ。

ただ、だからといってそう簡単に行ける領域でもない。
いや、行くことはある程度の力量さえあれば簡単だ。

問題は入った後だった。

魔帝や覇王の監獄として使われるとおり、そこは一度入り込めば内側では『何もできない』。
自力で抜け出すことなど不可能な領域。

こちらの生と死が営まれる世界が『有』ならば、その外であるこれはまさに『無』。
あらゆる存在も変化も『制止』する領域、それが虚無だ。

211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 02:17:27.97
ID:oM/uczJVo

―――だがもちろん。

こうして神裂達が行こうとしている通り、
虚無の中でも安定して作業を行える手段がある。

アイゼン『うん、セレッサ。配置につけ』

二人を確認し終えたアイゼンの言葉、
それを受けてベヨネッタがバージルの方へと足早に歩み寄っていく。

そして閻魔刀を挟んで彼と向かい合う位置に立ち、
そっと右手をその魔刀の柄頭に載せて。

一度、静かに目を閉じて―――そして再び見開いたその瞬間。

ベヨネッタ『―――ふっ―――』

彼女の全身から、真っ赤な光が放たれ始めたのだ。
激しく燃え盛ってる炎のような、悪魔が纏う衣とはまた違う異様な輝き。

ベヨネッタ『「観測点」を―――ここに「定義」。OK、見えてる』

そして彼女は呟いた。

そう、これが神裂達が安全に虚無に行ける手段。
その内容は単純、『無』を『有』に定義してしまえば良いのだ。

ただそれをできるのは、道理や因果などお構い無しに―――存在をそこに定義できる『観測者』。

ベヨネッタ、すなわち―――『闇の左目』のみ。

212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 02:18:54.95
ID:oM/uczJVo

禁書『……わぁ…………』

またもや思わずといったものか、
インデックスの口から今度は驚きの声が漏れた。

神裂『…………』

彼女の目には、
あの闇の左目とやらの『何か』が見えているのだろうか。
果たして、その『何か』とやらは一体『何』なのだろうか。

実は神裂、ここまで来ても未だ、
あの『闇の左目』という力をいまいち把握しきれていなかった。

いや、ジュベレウスが有していた『世界の目』の片割れ、
というのはわかってはいるが果たしてそれが何なのか、
例えばどんな力を行使できるのかという具体的な事がわからないのである。

もちろん以前に、任務に影響する要因の把握のためと単純な好奇心もあって、
闇の左目とは、とジャンヌに聞いたことがある。

その時返って来た答えはこうだ。

少なくとも、『存在が有か無かの定義』に干渉できる力、と。

更にジャンヌはこう続けた。

ただ影響範囲やその限界などは、実際に使って確かめてみなければわからない。

そもそもこれが正しい使い方なのかもわからないし、
他にも機能があるかどうかさえわからない、セレッサさえあの力の全貌なんか把握してなどいない、と。

213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 02:22:29.97
ID:oM/uczJVo

実はこの今の使い方も、ベヨネッタの父の手法を元にしているだけのものらしい。
故にこれが正しい使い方すらかもわからないのだという。

そう、つまり『闇の左目』とは、『未知の力』と言ってもいいくらいに謎に包まれているのだ。

もちろん、その闇の右目と光の右目を合わせた『世界の目』もだ。

これまたジャンヌ曰く、二つ揃った状態の『世界の目』は、文字通り『何でもアリ』の力であるらしい。
ただその具体的な内容を把握しているのはジュベレウスのみであった、と。

続けて神裂は、破壊や具現についても彼女に問うた。
ジュベレウスの因子と言うが、実際はジュベレウスとどんな関係なのかと。

これには、ジャンヌはすっぱりはっきり答えてくれた。

創造や具現といったものらは、
『世界の目』という何でもアリの力の中から一部の要素を『模倣』したもの、と。

ここでジャンヌは更に、国語教師らしい物語仕立ての例えでこう続けた。

『ジュベレウスの「机」の上にはAからZまでの「字」が置いてあり、
彼女はそれらを好きに並べて自在に物語を生み出せることができた。
そのようにして、「机」の周りは次第に彼女が作った物語とその登場人物で埋め尽くされていく。

彼女の他には物語を書ける者など誰もいなかった。
なぜなら、彼女が生み出した登場人物はみな彼女よりもずっと小さく、
机の上にまでは手が届かなかったからだ。

だが、そのようにして物語を作っては壊してを繰り返し続けたある時だった。

なんと「机」に届くまでに大きくなった登場人物が現れたのだ。

そのような者達は手を伸ばしては机の上をまさぐり、
ある者はYを、ある者はEを、また中には複数の「字」を勝手に使い始めたのだ。

そうなると当然。
物語は、彼女の好きなようにはならなくなってしまう。
あちこちが勝手に書き換えられ、または滅茶苦茶にされて、物語は想定外の方向へとどんどん突き進んでいく。

そこでついに怒った彼女は実力行使を選び、その拳を振り上げたが。

物語を書き換えることで更に体の大きくなった登場人物たちに押さえつけられてしまい、
なんと逆に彼女が机から引き摺り降ろされてしまったとさ』

214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 02:24:24.14
ID:oM/uczJVo

この例え話の『机』は創世主の領域、
AからZの『字』は『世界の目』と呼ばれるもの、

登場人物が机に届くほどに大きくなった、というのは一部の強者がついに創世主の領域に届いてしまったということ。

そうして彼らが勝手に使い始めた一部の『字』は、
『世界の目』の要素の一部であり創造や具現と名付けられることとなる力。

そして彼らは手を伸ばしてまさぐってそれらを入手したのに対し、

ジュベレウスは机の全体を俯瞰できて、AからZ全てを完全に把握している、
故に『世界の目』を理解しているのはジュベレウスだけということだ。

神裂はこの例え話を聞いて、ふと怖くなってしまった。
ジャンヌは特に何でもないように創世主の力のことを口にし、
その内容もまるで御伽噺のようだ。

だが―――それは虚構ではなく現実。

現実だと改めて確認すると、なんてとんでもないことなのだろうか、と。
ベヨネッタは、なんととんでもない力をその身に宿しているのだと。

そんなことをして―――危険ではないのか、と。

創世主では無い者が、理解しきれない創世主の力を持って―――リスクはないのだろうか、と。

そして。
これが神裂が一番、言い知れぬ不安を抱いた疑問。

今、その『机』には――――――『誰』が座っているのだろうか。

もし誰も座っていないのならば―――管理者を失った 『机』の上は一体―――どうなってしまっているのだろうか。

215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 02:26:16.96
ID:oM/uczJVo

ベヨネッタ『―――OK。いいわよ、始めて』

その時だった。
そんな神裂の回顧を断ち切るベヨネッタの声。

闇の左目の安定の確認が終ったのだろう、
彼女は柄先に手を乗せたままアイゼン、そして神裂とインデックスを見た。

神裂『―――は、はい!!』

再び思い返した不安を掃い、神裂は意識を眼前の仕事へと切り替えた。
そもそもこれはどう考えたところで、己程度がその答えを知ることができるものでもない。
ベヨネッタやバージル、ダンテのような、『机』に届く者達でやっと何とかできる領分なのだ。

それに、と。

神裂は今、ある一定の安心を覚えていた。
その理由はもちろん、バージルと繋がっているからだ。

あの最強の主にはこの感情も思考も全て伝わっているはず。
この疑問を知っていてさえくれれば、これに関して神裂がすることはもう無い。

彼女は表情を再度引き締め、握るインデックスの手を優しく引いて。
バージルとベヨネッタから2m程の場所にまで進んだ。

そしてそこでアイゼン、
正面の像の台座のところに座しているジャンヌとローラ、と今一度順に目を合わせていき。

神裂『インデックス。いいですか?』

禁書『うん。行こう。かおり』

そうして無表情のバージルとベヨネッタを見やり。

神裂『では、お願いします』

ベヨネッタ『いってらっしゃい』

216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 02:26:59.06
ID:oM/uczJVo

―――次の瞬間。

二人の目に映る周囲の光景が解けるようにフェードアウトして、完全な闇に染まった。
そして覚える、底の無い海に沈んでいくような感覚ののち。

全感が途絶えた。

五感も、悪魔の知覚さえも何も捉えない。
それは彼女達が麻痺したわけではなく、周囲が正真正銘の『無』だからである。

そのため、全感が無くともそれにはただ一つ例外があった。

互いに握る手の温もりだ。

神裂『大丈夫ですか?』

禁書『大丈夫なんだよ。かおりは?』

神裂『問題ないですよ』

と、その時。

禁書『―――……あっ……―――』

神裂『……どうしましたか?』

禁書『―――あったよ!!すごい……こんなの…………!!』

217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 02:28:22.95
ID:oM/uczJVo

『あった』、ということは『目的のもの』か。

神裂にはただただ闇しか見えないが、
彼女の瞳はしっかりとを捉えているのだろう。

神裂『何が見えていますか?』

答えはわかっているが、
再確認の意も篭めて神裂が問うと。

禁書『―――せ、セフィロトの樹!!―――すごいよ!!』

予想通りの返答。
ではあるが、どうやらそのセフィロトの樹の姿は予想していなかったものらしい。
それも彼女の声色から見て、よからぬ方向にという訳でもないか。

神裂『――ーでは、視覚共有を』

禁書『うん!!』

そうしてアイゼンが施した魔女の技を起動し。

インデックスの視界を共有した瞬間。

神裂『―――………………』

神裂は言葉を失った。
目の前に『広がる』そのセフィロトの樹の姿を見て。

あまりにも―――それこそ許しがたいほどに―――美しかった。

218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 02:29:01.54
ID:oM/uczJVo

人間界と天界の外縁部にあるセフィロトの樹の全貌。

それは複雑に入り組んだ、巨大な網の目状の『光』の構造体だった。
大樹の根のように無数に枝分かれし絡み合い、何重にも重なり合って透き通る煌きを放っていた。
しかもその規模はとてつもない。

ここは虚無なのだから、そもそも何らかのものさしでその大きさを測るのも馬鹿馬鹿しいが、
それでも例えると。

まるで銀河系を真上から見下ろしている感覚、とでも言えばよいか。

神裂『……こ、これは…………』

問答無用で感情がざわつき、ぞわりと全身を衝動が走る感覚。
何かを見て、ここまで美的感覚が刺激されたことなど無い。

だがそう長く、その美しさを純粋に味わってなどいられなかった。
次に神裂の頭を過ぎったのはこんなこと。

これが―――こんなものが。

70億もの人間の監視、管理、操作、力の供与から、
人間界の理の維持までを行う存在なのか、と。

まさに許し難い美しさだった。

219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 02:29:33.24
ID:oM/uczJVo

そんな怒りと、これを破壊することへの悲しみを覚えながら。
神裂は七天七刀の鞘を、魔術で目の前の空間に固定し。

その柄に手をそっと添えて。

そして最終確認の声を放った。

神裂『―――始めても?』

『主』へ向けて。
意外なことに、主の声はすぐに返って来た。

バージル『一々許可を仰ぐな』

声色は相変わらずの冷徹なものであったが。
だがそれでも神裂にとってはまさに天の声であった。

許可を仰ぐな、つまりは「お前に一任する」という、そこには絶大な信頼が表れており、
それが彼女に絶対的な自信を与えてくれるのだから。

神裂『はい!!では―――いきます!!』

彼女は高らかにそう返事をし、
そしてインデックスの手を固く握り締めながら。

左手で―――蒼き光を放つ七天七刀を抜いた。

一世一代のその大任を果すために。

―――

223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/31(月) 06:52:59.97
ID:WEuwW/1f0
神裂さん、完全にバージル信者

224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/10/31(月) 17:38:05.15
ID:7SCwx41W0
いよいよクライマックス乙乙乙

226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 22:24:30.28
ID:oM/uczJVo
―――

あるデータを見て。

アレイスター『―――どう……なっている………………?』

彼は凍りついた。

それは己が目を疑うものだった。

感情を排し常に冷静沈着で徹底した合理主義、
そんな彼の思考が一瞬―――『完全』に空白になってしまうほど。

実は彼が『これ』を見つけたのは、今が初めてではなかった。

最初に見つけたのは―――右方のフィアンマがこの街で滅んだ数日後だ。

充分に許容範囲内に見えたこと、そして調査の時間的余裕が無かったこともあり、
目を瞑っていた小さな小さな『誤差』だ。

学園都市を覆うAIM拡散力場上に見られた、ごくごく小さな『揺らぎ』。

計算上は問題ない、プラン成功の確率には変化を及ぼさない、
そう判断したあの『ほんの僅かな誤差』、それが今。

アレイスター『―――何だ?…………何なんだこれは……?』

みるみる肥大化し始めていた。

それこそもう『誤差』と呼べる規模ではないほどだ。
絹布に墨汁を垂らしたかのように、AIM拡散力場に原因不明の―――『振動』が瞬く間に染み広がっていく。

それも一点から拡大しているのではなく、
あちこちで同時多発的に発生して。

アレイスター『―――どうなっているんだ―――これは?!』

この瞬間、今や虚数学区、そしてこの上条当麻のAIMにまで既に影響が見え始めていた。

227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 22:25:48.50
ID:oM/uczJVo

人間でも誰しもが抱く嫌な予感、悪寒、というものに少しでも彼が意識を向けていたら、
彼もこの問題に何らかの策を講じることもできたかもしれない。

だが彼は『そんなもの』など信頼してなどいなかった。

悪魔などならともかく、たかが人間の勘。
そこに確実性など欠片も無く、役に立つわけなど無い、と。
なにせ、そのような曖昧な衝動に従ったせいで一度目は失敗しているのだから。

だからこそ彼は人間の充てにならない感覚は全て排除し、
データに示される事だけを信じるというやり方を貫いたのだ。

そしてそれが不可能を可能にし、彼はこのようにここまで勝ち続けるに至り、このまま―――。

―――完全な勝利を収めるはずだったのに。

その絶対的なやり方は、この最後の最後の段階で――――――彼の信頼を裏切った。

アレイスター『―――ッ!!』

もう今は、悠長に原因の正体を探っている場合ではなかった。
最優先すべきは、とにかくこの『振動』の拡散と激化を止めることだ。

このままでは、修正不可能な状態になってしまう。
材料不足で計算はまだできなくとも、そう確かに推測できるくらいに、
拡散の勢いは増し続けていた。

228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 22:27:11.32
ID:oM/uczJVo

エイワス『おや―――随分と大変なことが起きたな』

アレイスター『―――黙っていろ!!』

相変わらず、どことなく愉快な色を滲ませるエイワスに声を荒げながら、
彼はこの拡大を止める手段を探してホログラムに目を通してく。

アレイスター『…………』

画面を流れていく大量のデータ、
それを見て彼の思考はすぐにある点に気付いた。

どうやらこの『振動』は、一方通行が火付け役であり燃料であると。

AIM拡散力場上の中に紛れていた原因不明の種、いや、ある特定周波数のAIMが、
一方通行の『生』と繋がったことにより突然『生き返った』かのごとく活性化したようだ。

となれば。

一方通行との繋がりを切断