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ダンテ「学園都市か」8(学園都市編)

    :

1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/14(金) 18:04:17.19
ID:Frj+rhn1o
「デビルメイクライ(+ベヨネッタ)」シリーズと「とある魔術の禁書目録」のクロスです。

○大まかな流れ

本編 対魔帝編

外伝 対アリウス&ロリルシア編

上条覚醒編

上条修業編

勃発・瓦解編

準備と休息編

デュマーリ島編

学園都市編(デュマーリ島編の裏パート)←今ここの終盤(スレ建て時)

創世と終焉編(三章構成)

ラストエピローグ

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/14(金) 18:04:44.98
ID:Frj+rhn1o
―――注意事項及び補足―――

※当SSはかなりかなり長いです。

※基本シリアスです。

※本編後のおまけシリーズはパラレルとなっており、外伝以降の本筋ストーリーとは全く関係ありません。

※DMC(ベヨネッタ)勢は、ゲーム内の強さよりも設定上の強さを参考にしたため絶賛パワーインフレ中。
それに伴い禁書キャラの一部もハイパー状態です。

※妄想オリ設定がかなり入ります。
ダンテ・バージル・ネロを始めとする各キャラ達の生い立ちや力関係、
幻想殺し等『能力』や『魔術』等の仕組み・正体などは、多分にオリジナル設定が含まれます。

また、世界観はほぼ別物となっております。

※禁書側の時間軸でイギリスクーデター直後(原作18巻)、DMC側の時間軸は4の数年後から始まっています。
ネロは20代前半、ダンテとバージルは40代目前、ルシアの身体成長度は10歳前後となっております。

※また、クロス以降の展開は双方の原作に沿わないものとなります。
その関係上、禁書原作21巻以降に明かされた諸設定は基本的に適用されてません。
ただ例外として、天使の姿・攻撃技等は反映させて頂く場合があります。
(ベヨネッタと禁書の天使の、配色・デザインの系統がそれなりに似ている感じなので)

※投下速度は大体週二回~三回、週50レス以上を目標としています。

※主なカップリングは上条×禁書、ネロ×キリエ(これ当然)となっております。

――――――――――――――

5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/10/14(金) 22:36:29.21
ID:qdb2lUKvo
新スレ乙です。あ、すっげぇ今更ながらネロのDT状態について少し。
成人式した後、姿形の描写はスパーダ持ったネロ・アンジェロってなってましたが、プルガトリオ大暴れなうでもそのままですか?
個人的にはアンジェロ7:スパーダ2程度のハイブリッドを妄想してるんですけども。

6 : ◆tSIkT/4rTL3o [sage]:2011/10/15(土) 00:55:37.94 ID:nGwYW+74o
>>3
必要性は今まで特に感じませんでしたが、
良い機会ですのでとりあえず何かあった時のためにと作っておきます。

>>5
全体はネロアンジェロそっくりですが、
細部はかなり魔剣スパーダの影響も受けているイメージですので、まさにその7:2という具合です。
ちなみにデュマーリ島決戦後の『最強の人間』になった今は、魔人化しても本質たる真の姿ということで人の姿のままです。

7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 00:56:23.96
ID:nGwYW+74o

―――

一方「要はオマエ、ダンテの仲間だったのかよ」

学園都市の一画。
魔の冷気に変わり、冬の冷気に支配されている瓦礫の原の中。

瓦礫の上に腰を下ろしている一方通行が、白い吐息と共にそう言葉を返した。
正面は伏せっている三頭の巨狼、ケルベロスに向けて。

ケルベロス『うむ。人界時間にして20年来の友だ』

対する巨狼、その口から漏れるは青みかかった吐息。
伏せっているにも関わらず、高さ3mの位置にある大きな牙の隙間からは、
魔界の冷気が漏れ出していた。

一方「…………」

あの獅子を葬ってから、『守り番』としてここに留まって数十分。

あれから学園都市内では騒動は起きていないが、
ケルベロスの話によるとデュマーリ島やヨーロッパ・ロシアの他にも、
異界で複数の戦いが同時進行しているとのことだ。

一方「……これからどォなるンだ?天界とやらは?」

ケルベロス『我にもわからぬ』

一方「…………チッ。」

ケルベロスのその言葉からも伺える通り、
今や想像を遥かに超えるスケールの騒乱が起きているのは確実か。

8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 00:58:22.27
ID:nGwYW+74o

となると、こうしてただ黙って受身に甘んじていることなどできない。
一方通行は立ち上がると、
能力を起動した状態の手で己の上着そしてポケットをまさぐった。

しかし落としてしまったのか、それとも持ってきてすらいなかったのか。
目当てのモノは見つからなかった。

ケルベロス『……探し物か?』

一方「あァ。すぐ戻る」

そうして少し思案気に佇んでは巨狼に一瞥し、一跳び。

砲弾のように一気に飛翔し、彼が降り立ったその先。
そこは先ほど、一人の少女を保護したあのジャッジメント支部であった。

上階が吹き飛んでいるその支部の中、彼は視線を静かに巡らせて。
瓦礫の中から倒れ転がっている堅牢なロッカーを見出しては、ねじ切るようにして開けていく。

そうやって三つ目を開けた時、
彼はようやくそこに目当てのモノを見つけた。

このようなところには必ず、予備の携帯やら通信機が複数置かれているものだ。

ロッカーの中には官製とも言えるか、ジャッジメント備品の通信機がいくつも入っていた。

その一つをこれまた握り潰さないよう、
能力で充分に制御している手で掴みあげて。

一方「おィ。聞えてンだろ」

電源を入れてすぐさま、チャンネル設定もせずにまず声を放った。

9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 00:59:22.92
ID:nGwYW+74o

普通ならばもちろん、これに声など返って来るはずが無い。
ただ一方通行は、アレイスターやその下にいる者達が常に己を監視しているのを知っていた。
そして向こうも今となってはそれを特に隠そうともしていない。

『―――用件は?』

案の定、通信機から響いてきた事務的な男の声。
特に一方通行は驚きもせず。

一方「……シスターズに預けたあのガキはどォなった?」

まずは先ほどここで保護した少女の件を問うた。

『10032号と19090号が芳川桔梗のシェルターに届けた』

一方「…………」

芳川、そして打ち止めがいる第一学区地下深部のシェルターか。
一般のシェルターは既に封鎖済みであることも考えると、当然の判断になるか。

それに他のシェルターに比べればずっとマシな所だ。

確かに悪魔相手に『安全』と呼べる地など存在しない。

しかしあそこは、恐らく垣根帝督の脳といった、
アレイスターの『私物』も納められている不可侵の領域であるのだから
少なくとも学園都市内では最も生存率が高い場所なのだ。

それを聞いた一方通行、
安堵の意を篭めて小さく目を細めては、次なる問いを向けた。

一方「……デュマーリ島は?」

『デュマーリ島における作戦は成功した』

10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:02:09.35
ID:nGwYW+74o

これもまたあっさりと答えは返って来た。

一方「……」

こうもすんなり喜ばしい答えが返って来るとは思っていなかった一方通行、
今度は少々不意を突かれた形で再び目を細め。

一方「成功、か。どの程度に?」

『少し待て』

そうしてまた返って来た言葉も、少し意外なものであった。

『土御門元春と繋げられるが、直接聞くか?』

一方「―――……あァ。頼む」

直接聞けるに越した事は無い。
少なくともアレイスター側のフィルターが通っていないだけマシと言うものだ。

そして少しのノイズ音ののち。

土御門『―――アクセラレータか』

聞きなれた男の声が響いてきた。

11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:03:38.83
ID:nGwYW+74o

向こうでは航空機が複数飛んでいるのか、けたたましい音が響いてくる。

一方「よォ。生きてたか。上手くいったみたいだな」

土御門『まあな。厳しかったことに変わりないが、終ってみれば当初の想定よりもずっと上出来な結果だったぜい』

歯切れがよく快活であるも、どこか冷ややかで心読めぬ声。
相変わらずのそんな土御門の声も、『普段どおり』目的は達されたことを示していた。

一方「アリウスとやらはどォなった?」

土御門『アリウスはネロが潰してくれたよ』

一方「おォ、つゥことは天界が開くこともねェのか?」

土御門『それについてなんだがな……』

と、そこで土御門の声に少し『詰まり』が生じた。
これもまた一方通行にとっては聞きなれた詰まり方。
想定していなかった事案、結果になった時には、土御門はいつもこのような声色になるのだ。

土御門『天の門は開く。あと魔界の門も開く』

一方「―――はァ?」

そして土御門にとって想定外となれば、
そちら側には疎い一方通行にとって―――まさに予想だにしない、
その意味を正確に理解することさえ難しいことであった。

一方「おィ……どォいうことだ?魔界のモンってなンだよ?」

土御門『俺も良くはわからない』

土御門『だがダンテには何か考えがあるらしい。ネロからもそう頼まれたんだ』

一方「……で、オマエはろくに知らねェままホイホイ応じたわけか」

土御門『―――そうだ』

と、ここで即答した土御門の声は再び、確かな自信を帯びたものに変わった。
他にどうしろと、お前もこの立場なら同じ判断をするだろ、と暗に向けてくるように。

12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:04:58.89
ID:nGwYW+74o

一方「……ハッ」

そしてその点については、一方通行も大いに同意する。
ダンテやネロの指示を拒否できるわけも無い。

己程度の考えよりも、彼ら言葉の方が遥かに信頼に足るものだ。

土御門『だから状況は終ってはいない。そっちも充分に警戒しててくれ』

一方『あァ。わかってる』

ケルベロスから聞いた言葉、それから推測できる状況を今一度確認しながら、
一方通行は頷いた。

そして。

一方「そっちの女帝サマにもよろしく伝えておけ」

そう何気なく続けるも、その返された―――

土御門『ああ、そのことなんだがな―――』

―――この土御門にしても異常なまでに冷え切った声は。

土御門『――――――麦野は死んだよ』

一方『―――……………………………………』

それは、まさに矢に頭を射抜かれたかのような鋭い響きを有していた。

13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:06:35.65
ID:nGwYW+74o

―――麦野沈利。

彼女とは親しかったどころか、
その性格を知るほどの時間を過ごしたわけでもない。

ここ一週間、少し関わっただけの女。

あの女が死のうが、それを知って鼓動が早まることも体が火照ることも、
目頭が熱くなるなんてことも実際にこの通り無い。

だが―――ただ一つ。

一方「………………………………」

―――ぽっかりと。

この胸から、この心から大切な『何か』が抜け落ちていくような気がした。
『ソレ』じゃなければ絶対に埋められない穴から。

瞬間、一方通行は外界からの情報を途絶してしまった。

続く土御門の声が聞えるが、その言葉の意味も思考に反映されてこない。
声どころか冬風が抜ける音も、目に見える崩れた学園都市の街並みも。

その理由は、彼の意識が全て内側に向いていたからだ。

―――鮮やかに蘇るあの女の姿、声、表情に。

緩やかな髪を翻してエプロンに向かっていく、最後に目にした彼女の後姿に。

昨晩、酒の席で見せた彼女の表情、そして口にした―――

―――『生きたい』という言葉に。

14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:07:56.53
ID:nGwYW+74o

土御門『―――レータ。アクセラレータ。聞いてるか?』

一方「…………」

変わらぬ、感情が完全に廃された土御門の平坦な声。
それがようやく意味を有して浸透してきたのは十数秒後のことであった。

一方通行は、返すための言葉を探すかのように声無く口を動かして。

一方「……………………どォ……やって死んだ?」

何とか繋ぐ『返し』を見つけて、
ぎこちなく絞り出す。

土御門『大悪魔と相打ちだ。最期はアイテムの元部下達が看取った』

一方「……………………そォか。そいつは…………」

そしてそのことについて一言何かを言おうとするも。

一方「……………………」

今度こそ言葉が出なかった。

脳裏にはっきりと浮かぶあの女の姿、
その彼女にどんな言葉を向ければいいのか、それがまるでわからなかったのだ。

まるで舌が抜かれてしまったよう。

一方通行はこんな心模様に相応しき言葉を、
彼女の姿に手向けるべき言霊を―――『知らなかった』。

15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:09:27.41
ID:nGwYW+74o

土御門『…………』

一方「……………………」

沈黙は十秒近く続いた。
彼の言葉を邪魔しないよう、素直に待っているのか、
それとも電話越しの空気から彼の心情を察しているのか。

土御門も一言も返しては来なかった。

そうした沈黙の後、ようやく動いた一方通行の口。

一方「…………………………………………オマエ等が戻るのは?」

懸命に言葉を捜したその口から出てきたのは、
話を変えてしまう別の問いだった。

彼は結局、相応しき言霊を見出せず。
彼女には一言も発せられなかった。

土御門『…………超音速機を手配できれば……そうだな、三時間以内には』

一方「…………そォか。気をつけてな」

土御門『ああ。そっちも頼んだぞ』

一方通行の口から響いた素直に気遣う言葉。
普段ならば驚いたであろうその返しだが、この時ばかりは土御門も特に反応を示さず。

土御門『…………じゃあな』

そして静かに通信は終了した。

一方通行「…………」

16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:11:05.62
ID:nGwYW+74o

通信機を無造作に上着のポケットに突っ込むと、
一方通行は来た時と同じく跳躍し、ケルベロスの近くへと降り立った。

そして座っていた瓦礫へと歩んでいく。

その間も脳裏に蘇るあの女の姿を見つめながら。

一方「……」

あんな表情で『生きたい』と言ったあの女は、
一体どんな表情で逝ってしまったのだろうか。

あんな表情で『生きたい』と言ったあの女は、
一体最期に何を思ったのか。

あんな表情で『生きたい』と言ったあの女は一体―――どんな気持ちでそう口にしたのだろうか。

あの女の鋭くも透き通る瞳に、この世界は一体―――どのように映っていたのだろうか。

結局何もかも、わからずじまいであった。

一方「…………」

―――知りたかったのに。

―――『麦野沈利』をもっと知りたかったに。

17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:13:05.56
ID:nGwYW+74o

一方「―――――――――……ッ……!!カッ……!!クソッ…………」

―――とその時だった。

そこまで思い至った瞬間、彼は突然その場にどかりと腰を下ろして、
悪態を天に吐き出した。

彼は気付いてしまったのだ。

この己が今抱いている『感情』の正体に―――『痛み』の原因に気付いてしまった。

性格上、それは絶対に認めたくない事実であったが、
一方で聡明な思考がはっきりと確信してしまっていた。

己はあの女に対して、
『興味』と言えるものよりも更に強い感情を抱いてしまっていたのだ、と。

少し―――。

そして生まれて初めて―――『魅せられていた』のかもしれない。

初めて出会った、共感できる『同類』に。

そして同類でありながら、己とは違い『生きたい』と愚かしいくらいに堂々言えるあんな女に。
その言葉の原動力となった、己には無い『モノ』を持っていた彼女に。

底なしに罪深く、愚かしいまでに強く、
忌々しいほどに美しく、そして途方も無く『わがまま』な――――――麦野沈利に。

18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:15:21.82
ID:nGwYW+74o

ケルベロス『…………大切な者を失ったか』

天を仰ぎ白い吐息を吐き出していると、
その様子から敏感に悟ったのか、魔狼がぶっきら棒に声を放ってきた。

一方「…………………………そンなご大層なもンじゃねェよ……」

彼は表情も視線も変えぬまま。

一方「……ただ……………………『約束』をすっぽかされただけだ」

静かにそう返す。

不思議な事に、胸痛むのに居心地は特に悪くも無かった。
むしろ妙に暖かい。

一寸先の未来も定かではないこの状況の中で今、
あの女が占有しそして奪っていった領域が、まるで一時のオアシスのように機能している。

一方「…………カカッ」

その己の精神状態を冷静に分析して彼は小さく笑った。
全く大した女だ、と。

このイカレて壊れてしまった『クソ野郎』に、誰かの死をここまで見つめさせるなど。
妹達への行いに対する『己』の行い、それに向ける『憤怒』ではなく――――――

―――『他者』に向ける純粋な『悲嘆』を人並みに抱かせるなんて。

たった一週間の記憶だけで、ここまでこの『腐り果てたクズ』に『静けさ』を与えるなんて。
ただ、そのように居心地が良い一方、それはそれはたまらなく癪で。

一方「…………クソアマが…………」

そして―――なんと言えばいいのか――――――寂しかった。

せめてもの弔いだ。

しばらくあの女の姿に浸ろう。
すぐ先にあるかもしれない次なる困難まで。

鼻腔を抜けて肺を満たす冬の冷気。
夜も更けてより一層冷えてきたのか、文字通り骨身に凍みる鋭さを帯びてきていた。

―――

19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:16:41.44
ID:nGwYW+74o
―――

プルガトリオ。
学園都市を映すとある階層にて。

レディやネロが離れていった後も、ダンテはその階層に一人。
いや、今や友であるアグニ・ルドラと共に残り続けていた。

双子の兄弟はその巨躯を解き放ち、調子を確かめるように大通りでゆっくりと演舞を行っており。

そんな彼らを見下ろす位置、ダンテは適当なビルの屋上に半ば寝そべるように座し、
片目閉じてはリベリオンの刃を検分してた。

ダンテ「―――それで調子はどうだ?」

そしてその傍ら、手首に装着されている拳銃へと声を放つ。

トリッシュ『ええ最悪。特に変わらないわ』

返って来るのは、ネヴァンと共に事務所にいるであろう相棒の声。
ダンテが見聞き感じることをそのまま受け取っている彼女は。

トリッシュ『それにしても。さすがのその剣でも、結構堪えたみたいね』

リベリオンを『見て』そう告げてきた。
100柱斬りを行ったこの魔剣、その白銀の刃はところどころ欠けていたのだ。

それを聞いてこんっ、と軽く魔剣を叩いたダンテ。

ダンテ「なあに。あと5分もすりゃ元通りさ」

ダンテ「それどころか、『こいつ』はまだ足らなねえらしいぜ?困ったもんだ」

はっ、と小さく肩を竦めながらそう返した。
あたかも自分のせいではないとでも言うように。

20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:18:58.11
ID:nGwYW+74o

そんな変わらぬ調子の彼に、
トリッシュは呆れがちに息をついて。

トリッシュ『それは主もそうだからでしょ全く……飽きないわねあなたも』

ダンテ「トリッシュさんよ、わかってるんだぜ。お前も楽しんでたろ?お前からの視線、ギンギンだったぞ」

トリッシュ『……ふふ、まあね。スカッとしたわ』

そして笑った。
少し疲労と―――『陰』を滲ませながら。

と、その時だった。

ロダン『―――ダンテ』

虚空から響くのは、先ほどネロと合流したらしいロダンからのもの。
ダンテはリベリオンを脇に突きたてては天を仰ぎ見て。

ダンテ「お、もう終ったか。向こうはどうだった?」

ロダン『こちらの期待通りの結果だ。ネロは良くやってくれたぞ。学園都市の連中もだ』

ダンテ「ハッ!そいつは良かった!」

ロダン『だがちょっとばかし……いやかなり信じられねえことがあった』

と、そう喜ばしい報告も束の間。
突然ロダンが声を曇らせた。

ダンテ「ん?」

そして彼は一言一言確かめるようにゆっくりと。

ロダン『……ネロがな…………―――魔剣スパーダをへし折りやがったんだよ』

まるで親の機嫌を見る子供のように、恐る恐るといった具合でそう告げた。
一方、対するダンテの返答は。

ダンテ「―――へぇ。どうやって?」

これまた、不気味なまでにあっさりとしたもの。

21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:20:30.30
ID:nGwYW+74o

ロダン『―――ッ……!!』

そんな変わらぬダンテの調子に、
さすがのロダンも驚いてしまったのか暫し声を詰まらせて。

ロダン『魔剣スパーダを奪ったアリウスごと、レッドクイーンと言ったか、あの自分の剣で叩き斬っちまった』

これまたゆっくりと確かに告げると。
それを聞いたダンテ、今度は―――不敵に笑った。

ニヤリと、目を細めて声を漏らさずに。

彼はこの簡単な説明だけで理解したのだ。

ネロが示した―――『答え』を。

あの青年が突きつけた意志はまさに見事なものだ。
彼は『予定された英雄』になることを真っ向から拒否したのだ。

ダンテ「―――上出来だ。ネロ」

そんなあの青年を称えて。
彼は静かながらも、良く響く声でそう呟いた。

ロダン『―――おいおい、いいのか?どういうことだ?どうなってる?』

ネロが折るという行為、いや、
そもそもスパーダが折れてしまうということすら信じられぬ様子のロダンだが。

ダンテ「なぁに構いやしねえ。あいつの剣だ。あいつがどうしようが別に良いだろ。気にするな」

ロダン『……お前さんがそう言うのなら…………まあ…………良しとするか』

へらへらと笑いつつも『強引』なダンテに彼は屈してしまった。
明らかに納得していない様子であったが。

22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:23:09.53
ID:nGwYW+74o

そうしてとりあえずと、ロダンは話を換えて。

ロダン『……今の各界の状況だ』

ロダン『まあ予想は出来ていたんだが、魔界の口が開いたのを知ってやすぐ―――残りの十強が休戦協定を結びやがった』

ダンテ「へえ」

ロダン『明らかに侵攻のために急ピッチで体制を整え始めてる。特にベルゼブブとコロンゾン』

ロダン『この二柱は前から人間界にかなり興味持ってやがったからな、確実に来るぞ。全軍を率いて』

ロダン『更に内戦に消極的だった他の諸王共も動きを見せてやがる』

ロダン『そして天界では既に。ジュベレウス派の出撃準備は整っている』

そこでロダンは一度区切る形で間に沈黙を挟み。
強調してはっきりと。

ロダン『ダンテ。始まるぞ』

秒読み段階にまで迫った全面戦争を確認した。

ダンテ「―――ああ、いよいよな」

それ以上、今交わす言葉は無かった。
この最後の確認すら本来は無用、互いに理解していることなのだ。
二人とも、己がこれから何をすればいいのか十二分に把握しているのだから。

ダンテ「……」

ロダン『……』

そうしてこれで無言のまま、会話の糸は切断された。

23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:26:36.44
ID:nGwYW+74o

その後。

トリッシュ『―――ねえ』

ネロの件を聞いても沈黙を守っていたトリッシュが声を向けてきた。

トリッシュ『―――「どこ」まで行くつもりなの?あなたは』

ダンテの不敵な笑みの遥か下。
決して表に出さない、何人にも明かさぬ深層で一体何を考えているのか。

それを今唯一見ている『他者』、トリッシュのそんな問い。

ダンテ「『どこ』までもさ」

ダンテはこれまた包み隠さず、思ったとおりに素直に応えた。
声とともにその思考もまた直で送りつけて。

トリッシュ『……そう』

そうした赤裸々な返答に、相棒は示すは。
明らかに『不服』ながらも、一方で申し立てる気も無い反応―――。

それを知りながら、ダンテは平然と言葉を続けていく。
普段の調子でかつ『嬉しそう』に。

ダンテ「まだまだこれからだ。見せてやるぜトリッシュ」

トリッシュ『……ええ』

トリッシュも、成す術無く彼の言葉に続くしかなく。
そして再確認せざるを得なかった。

ダンテ「誰も見たことの無い世界をな」

相棒であり恩人であり最良の友であるこの男を―――ただ見守るしかできない、と

トリッシュ『――――――期待してるわ。ダンテ』

彼の生き様を―――ただその瞳に刻むことしかできないと。

―――

24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:27:14.47
ID:nGwYW+74o
―――

束の間の平穏は終る。
更にここからこの大きな『うねり』は加速し、あらゆる役者を引き摺り込んでゆく。

今、学園都市にて『同胞』の死に浸っている一人の少年もまた、
もちろんそこから逃れることなどできやしない。

ささやかな彼の『弔い』は唐突に、そして残酷に打ち切られた。

ケルベロス『―――ッ』

まず反応したのは魔狼であった。
突然その身に力を纏わせては起き上がり―――。

一方「―――」

次いですぐ、
一方通行もこの場の『異常』に気付き跳ねるようにして立ち上がった。

突然出現した―――強烈な『圧迫感』に。

その源へとまるで吸い寄せられるように振り向くとそこには。

大きな――――――『コウノトリ』が立っていた。

一方「―――」

瞬間、彼の意識を満たすは―――ただ純粋な『絶望』だった。

力をはっきりと認識してしまうからこそ、瞬時にわかってしまう。
勝てる可能性があるかどうかの次元ではない。

先ほどの獅子も大概であったがこの『鳥』は―――桁が違う。

―――格が違うと。

25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:32:11.83
ID:nGwYW+74o

ケルベロス『―――――――――シャックス』

明らかに驚き動揺している魔狼。
その揺らいでいる声でそう呼ばれた『コウノトリ』―――シャックスは。

シャックス『なるほど。イポスも滅びたか―――』

細い鳥足で一歩、また一歩と歩みながら。

シャックス『大公、そして将らが全滅したとなると』

シャックス『まさに我々は敗北した、その通りでしょうな。だが―――』

瞳から赤き光を零しながら、
そう不気味に異界の声を響かせて。

シャックス『ネビロス殿、サルガタナス殿に次ぐ大将である我が、ここで手柄無しに生き永らえるわけにはいかん』

シャックス『気高き者達へのせめてもの弔いですな』

硬直している一頭と一人に向けて、残酷に告げた。

シャックス『スパーダの息子が贔屓にしているこの街を―――破壊してやろう』

26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:34:14.01
ID:nGwYW+74o

そうして示された魔鳥の力は―――圧倒的であった。

刹那。

ケルベロス『―――』

見えぬ衝撃波がまず魔狼を襲った。
諸神たるシャックスが放ったその力はどうしようもなく強烈で。

このケルベロスにもさえ、回避どころか何かしらの防御策をとる暇すら与えなかった。

一方「―――なッ―――」

そして一方通行は感知すらできなかった。
瞬間、溢れる凄まじい衝撃と―――力の衝突。

彼がそれを認識できたのは、
氷の破片を撒き散らせながら、魔狼が遥か後方へと吹っ飛んでいく時にようやくだ。

一方「ウソ―――だろ―――」

目の前の光景が信じられなかった。
この余りにも残酷すぎる現実が。

突きつけられた現実があまりにも強烈過ぎ、戦意すら『忘れてしまう』ほどだ。

聡明な彼の思考は一瞬で悟ってしまったのだ。

己は虫けらのように殺され―――この街はあっけなく破壊されると。

だが―――。

―――真の『現実』はもう少し―――『入り組んで』いた。

27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:37:10.57
ID:nGwYW+74o

『幸い』にも今、彼を絶対に失うわけにはいかない者がいた。
いや、ある意味では『不幸』か。

とにかくその者は絶大な影響力を持っており、当然この瞬間も彼を見ていて。
『ちょうど良い』とばかりに、この脅威に対応する。

一方「―――」

その時、彼は独特の感覚を身に覚えた。
過去に一度だけ経験したことのある、そして絶対に忘れられない感覚を。

それは間違いなくあの日―――悪魔の存在を知り―――バージルに再戦を挑んだ時の―――。

そう――――――垣根帝督に接続されたのだ―――。

今を『見て』、アレイスター=クロウリーが『稼動』させたのだ。
それはまさしく今の一方通行には救いの一手だった。

だが―――『これ』が稼動した瞬間、
彼の意識からは眼前のシャックスの問題など吹き飛んでしまった。

彼は知っていたのだから。
『これ』が妹達に、そして打ち止めにどんな影響を及ぼすかを。

脳裏に過ぎる、夢の中で出会った垣根の言葉。

それに、―――まさか本当に―――、と驚愕し。

―――こんなに早く―――、と絶望し

――――よせ――やめろ―――、抵抗し。

そして、――――――やめてくれ―――、懇願しても。

もう遅かった。

背から、そして全身から噴出した闇は―――彼の背後に―――。

一方『―――ウォォォォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛―――!!!!!!』

黒曜石に似た質感の―――六枚の―――『翼』を形成した。

28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:39:38.16
ID:nGwYW+74o

それは。

シャックス『―――なんだ―――お前は―――』

かのバージルに血を流させた―――『史上最強の能力者』の姿。

その力の前には、一介の諸王『程度』が立ち向かえるわけも無かった。

ケルベロスを一撃で戦闘不能にさせてしまったあの衝撃波も―――少年に届く前にあっけなく霧散。

その髪の毛を一本ですら揺らすことも出来ず。

対して目障りだとばかりに伸びる翼、その伸びた一枚目が―――シャックスの胸を貫き。

シャックス『馬鹿な―――今の世に―――こんな「人間」が存在するはずが―――』

二枚目が―――シャックスの頭部を瞬時にもぎ取って行き―――。

三枚目と四枚目が『取り残された胴体』を包み込み―――魂ごと一瞬ですり潰し。

―――存在を『抹消』した。

哀れなシャックス、彼の死はこの一方通行の記憶にすら残らない。
彼の意識は今、すべてが打ち止めとアレイスターに向けられていたのだから。

29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:41:46.41
ID:nGwYW+74o

魔鳥をあっけなく虐殺した傍ら。

一方『―――』

びきり、みきり、と軋むその頭の中で響くは、
今回の件で打ち止めも使用すると説明した際のアレイスターの言葉。

『何も命を頂こうという訳では無い。自由と安寧への少しばかりの奉仕をラストオーダーにもしてもらう』

一方通行は、この流してしまっていた言葉の真の意味をようやく理解した。

実はその言葉の裏にはこう続いていたのだ。
『命を奪うつもりは無いが、結果として失われる』、と。

なんと愚かなことか、なぜ気付かなかったのか。
アレイスターの行いが結果的に学園都市を救う、という点に目が眩んでしまったのか。

彼はここで今一度―――『呪った』。

一時でも、あの男を信じて打ち止めを預けてしまった愚か過ぎる己を。

それしか選択肢が無かった、
そんな状況にしか導けなかった―――どうしようもなく無力な己を。

そして―――あの『怪物』―――アレイスター=クロウリーを。

30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:43:28.61
ID:nGwYW+74o

あの魔帝の騒乱の時を更に越えて、その身は『昇華』していく。

噴出した闇が渦となり周囲を穿ち、そして再びその身に纏わり付き―――

―――肉を食い荒し、臓腑、骨、脳、そして髪や皮膚にまで徐々に置き換わり。

噴出す血液すら、地に落ちるよりも前に漆黒の影の飛沫へと変貌する。
そしてその瞳に宿るは―――人界の神々が纏っていた『オレンジの光』。

ただその変容による痛みなど、今の彼にとっては全く意識する水準ではなかった。
それよりも。

それよりも遥かに。

一方『―――――アァァ゛ァ゛ァ゛ァ゛レィ゛ィ゛スタァァァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ―――!!!!』

身の内で爆発した『憤怒』が苛烈だったのだから。
天を仰ぎ見て発せられたその『地獄の底から響いた咆哮』は、まさに学園都市全体を揺るがし。

この街にいる全員の耳へと届き―――その『人の魂』に恐怖と―――ある種の歓喜を抱かせた。

そう、なにせこれは。

長き時を越えてこの世に発せられた――――――人界の神の『産声』なのだから。

―――

37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県) :2011/10/15(土) 10:49:34.43 ID:KIFBF7Cx0
ぱねええええええええ

45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 14:21:53.40
ID:Wk3upE3Y0
以前アラストルが一方通行程度魔界にはゴロゴロいるって言ってたけど
それは垣根と接続されてない状態を指していたと見ていいのかな。
そうでなくともアラストルは一方通行の戦いを実際目の当たりにしてないから
バージルに傷を負わせたレベルってのを知らないだけかもしれないけど。

49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/17(月) 23:04:04.61
ID:1bjtULLAo
垣根接続モードの一方通行は前スレ>>475の特上、
維持無しのアスタロトに匹敵する力の規模で、魔界の最上位層に食い込む水準です。

50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:06:45.51
ID:1bjtULLAo
―――

聞える、壮絶な『産声』が。

怒りに満ちたその魂の咆哮は―――

上条「―――……ア……クセラレータ……なのか……?!」

―――もちろん人でもある彼の耳にも届く。

覚えのある、それでいながら明らかに異質な彼の声に、
上条は驚きを隠せなかった。

一方通行のこの声には、これまた信じ難い要素が含まれていたのだ。
アレイスターの言葉によるショック状態から、否応無くその意識を引き上げてしまうほど。

一方通行のもの、とは別の意味でもう一つ、上条はこの声に『聞き覚え』があったのだ。

アレイスター「覚えは無いか?」

忘れるわけが無い。
この魂の古き記憶の中にはっきりと『彼』の姿は残っている。

この声は、かつて人界に存在していたティタン神族クロノスの―――息子。

上条「…………ハデス……」

上条は放心した面持ちのまま、まるで独り言のようにその名を口にした。

51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:10:29.10
ID:1bjtULLAo

だがその口から続けられたのは、今度は一転して否定の言葉。

上条「でも、違う。あいつじゃない……」

アレイスター「そうだ。きわめて似てはいるも『別人』だ」

対してアレイスター。
その顔に仄かに満足げな色を滲ませては。

アレイスター「私が『再設計』した存在だよ」

ホログラム映像に目を通しながら得意げに、自信溢れる声で言った。

上条「……設……計……?!」

アレイスター「一方通行だけではない。この街の人工能力者は皆、私が作った」

アレイスター「この理論自体は、2700年前の偉大な先人ホメロス、そしてヘシオドスが確立させたものだ」

上条「……」

ホメロス、ヘシオドス。
その名を聞いて引き出された記憶は非常に新しいもの、世界史の授業で習っていたことだ。

前者はイリアスやオデッセイア、
後者は神統記などを記したとされる古代ギリシアの叙事詩人の名だ。

アレイスター「私はそれを形にし、そして科学と結びつけることで『大量生産』を可能とした」

上条「……『大量生産』……」

そうして次々と発される、信じ難くそして不愉快きわまりない言葉。
まるで「人形」に対するものの如く癇に障る物言いに、上条は憤りの滲む声で繰り返した。

上条「大量生産……だと?」

52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:13:18.70
ID:1bjtULLAo

アレイスター「確かに自然発生体、原石は古来から一定数存在していた」

だがそんな彼の反応など気にも留めず、アレイスターは平然と言葉を続けていく。
上条がどう受け取っているかそれを理解している上で。

アレイスター「しかし自然発生する性質上、当然だが都合よく私の求める系統のものとはならない」

アレイスター「研究材料には良いがプランには使えない」

アレイスター「更に神の『種』となる水準、つまりレベル5クラスとなれば百年に一体」

アレイスター「私が求める系統のレベル5が出現する確率は、実に100億年に一度というものだったのだよ」

アレイスター「君もわかるだろう。『作る』方が遥かに良いと」

アレイスター「能力とは、封印されし力場、つまりは『竜の胃』の中から引き出されている力だ」

アレイスター「となればその性質は当然、古の神々の派生となる」

アレイスター「そこに人の魔術体系の基本である偶像の理論を用いることにより、望む性質を有した能力者を作り出すことが可能となる」

上条「…………」

一言どころか相槌、瞬きすらせず、
その光を失った視線を真っ直ぐにアレイスターに向ける上条当麻。

アレイスターの許し難い言葉を一つ残らずその耳に刻み込もうとしていた。
確かにきわめて不愉快であるが、
この男の言葉の中に、今の状況を打開するヒントが含まれているかもしれないのだ。

相手が一筋縄ではいかないということを充分わかってはいるも、
上条はとにかくあらゆる情報を集めようとしていた。

どこからでもいいから、とにかくここから抜け出す隙を見出すべく。

そしてもう一つ、耳を傾ける大きな理由があった。

それはただ純粋に『知りたかった』からだ。

いや、己が『始まり』である以上これは―――『知る義務』があったから。

53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:16:33.93
ID:1bjtULLAo

アレイスター「もちろん、この方法が楽と言うわけでも無い」

ホログラムを確認しているアレイスター、
彼もまた、その志の祖となった上条に聞かせたいのであろう、声を続けていく。

アレイスター「原石を使用する場合よりも早いというだけで、要するむしろ労力はこちらの方が遥かに多い」

アレイスター「230万の中で『種』に成り得る基準を満たしたのは僅か五人。更にその内、昇華の可能性を見せたのは二人」

アレイスター「そして辿り着いたのは一人。それもこうして、手遅れになる直前になんとかといった形だ」

そう言葉を続けながら彼は、
今しがたまで見ていたホログラムを手で撫でるようにして消し、
傍らにあるもう一つの方へと目を向け。

アレイスター「彼らの傾向は当然、ホメロス達の記述を基にしているため、俗に言うギリシア神話の存在が基となる」

アレイスター「例えば、カオスからは未現物質、ゼウスからは超電磁砲と原子崩しが」

そしてぱちり、と指を小さく鳴らすと。

上条「―――ッ!!」

ちょうど上条の顔の前にもう一つ、
大きなホログラム画面が浮かび上がった。

アレイスター「『映像として』は見えなくとも、『認識』はできるだろう?」

そこに映し出されていたのは、廃墟の中で咆哮を挙げる少年。

アレイスター「そしてハデスからは彼だ」

壮絶な変異を遂げている最中の一方通行だった。

54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:20:29.65
ID:1bjtULLAo

上条「―――アクセラレータッ!!」

その姿を『見て』思わず、上条は
届かないとわかっていながらも彼の名を口にしてしまった。

と、身を乗り出した上条からその画面を取り上げるかのように。

アレイスター「ただ彼らの傾向は、今の最終段階においてはもう特に重要でもない」

再び指を鳴らしては、今度はそのホログラムを消去しながら、
アレイスターはそう口にした。

アレイスター「必要なのは虚数学区を維持可能な規模のAIM拡散力場と、セフィロトの樹を一手に掌握できる巨大な力、器」

アレイスター「人格といった『中身』は用済みだ」

上条「……ッ……!」

またしても聞き捨てならない物言い。
ただ、そこで怒鳴りたくなるのを懸命に堪え。

上条「……聞きたい事がある」

冷静を保ちながら、ここで静かに口を開いた。
実は先ほどから一つ、アレイスターの話の中で引っかかる点があったのだ。

それは。

上条「セフィロトの樹に繋がれている人間にどうやって、神々の偶像を刷り込んだ?」

天界に、今に至るまで悟られなかったその理由だ。
セフィロトの樹に繋がれている人間に手を加えるなんて、しかも能力者に仕立て上げるなんて、
まさに天界の目の前で堂々と物を盗んでいくようなもの。

だがその困難をこうして遂げている以上、そこから上条はこう確信していた。
アレイスターは、まだこちらに明かしていない『何か』を持っている、と。

55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:25:07.69
ID:1bjtULLAo

アレイスター「少なくとも彼ら自身に『魔術的』な手は、一切加えていない。もちろんセフィロトの樹にも干渉はしない」

その上条の疑問に、アレイスターはこれまた平然と答えた。

アレイスター「セフィロトの樹が察知できない、科学的刺激は与えたがな」

アレイスター「物質領域に縛られている一般の人間の思念は、神経細胞の状態に大きく左右されるものだ」

アレイスター「その方法で深層心理の概念に少しばかり『欠損』を生じさせると。それが能力発現のトリガーとなる」

上条「……でもそれだけでじゃ―――」

アレイスター「そう、トリガーは自然に絞られるものではない。そこにはまた別の、何らかの原動力が必要となる」

そこで彼は再び、
宙にあるホログラム画面に目を映しながら。

アレイスター「アウレオルス=イザード」

唐突に、とある男の名を口にした。

上条「……っ」

それははっきりと覚えのある名。
忘れるはずが無い、姫神とインデックスを巡り、三沢塾で相対したあの錬金術師。

アレイスター「彼が如何なる魔術を使用したか覚えているかな?」

上条「……」

覚えているとも。
『黄金練成』、錬金術の到達点。
世界そのものをシミュレートし現実に反映させるという、常軌を逸した術式だ。

56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:29:33.29
ID:1bjtULLAo

そう上条が意識した瞬間。

アレイスター「それと基本原理は『同じ』だよ」

まるで頭の中を見透かしているのかのように、
彼が言葉を返す前にアレイスターは『答え合わせ』を行い、そして続けていく。

アレイスター「もっとも私のは、彼のものよりも遥かに洗練されているがな」

アレイスター「環境を改変するのだ」

上条「……!」

アレイスター「周囲に『偶像』、つまり神々が生まれそして成長した環境を再現すれば、」

アレイスター「その中に置かれている彼らは自然と神に似、そしてトリガーが絞られていく」

アレイスター「もちろん、全て同じと言うわけではない。それだと気の遠くなる時間がかかるからな」

アレイスター「現代世界に馴染むよう手を加え、更に短縮化のために『誘導しやすい材料』を付加」

上条「付加、だと?」

アレイスター「そうだ。憤怒、絶望、悲劇、抑圧、といった特に強くそして単純明快なストレスを」

上条「……ぐっ……!」

アレイスターの言葉はまさに、このおぞましい街の実像を示していた。

この学園都市は実験場、ここに集められた者達はモルモットだ、と。

怨嗟渦巻く場にあえて押し込め、潰し合わせ。
そして傷まみれでで這い上がってくる者を冷めた目で観察し―――利用する。

このアレイスターの不快な物言いに、上条の限界はもうすぐそこまで迫っていた。
だがそれでも彼は、懸命に歯を食いしばって何とか己を抑え込む。

もっと情報を引き出さねば、そして知らねばならないのだ。

57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:31:41.99
ID:1bjtULLAo

しかし。

アレイスター「もっとも改変と言っても、大々的に作り変えるわけではない」

アレイスター「既存の物体の配置を僅かに変える、基本的にはそれだけだ」

アレイスター「そして物理法則こそ全てのこの人間界おいては、それだけで充分効果があるのだ」

更に連なっていくアレイスターの言葉の耐え難さは増して行く。
まるで彼を試しているかのように。

アレイスター「事故や災害から、個々人の細かい親交や確執まで。『幸せ』か『不幸せ』かまでも、全て誘導できる」

上条「―――」

『不幸せ』、その単語を耳にした瞬間、この今の話が己自身にも重なっていく。
アレイスターの言葉によって、まるで引き摺り出されるかのように記憶が蘇ってくる。

アレイスター「改変状態を常に維持する必要は無い。一瞬だけ、僅かなところに手を加えれば良い」

学園都市に来る前の『災難』の日々の記憶が。
運が無い事例はきりが無い、中には命にかかわる事さえ。

アレイスター「例えば、改変である走行中の自動車のディスクブレーキを外す」

例えば、自動車に―――。

アレイスター「すると『人を撥ねる』、もしくは『衝突する』という結果が必然的に生じる」

上条「―――……ッ」

―――轢かれ大怪我を負ったことなども、『複数回』。

58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:33:52.45
ID:1bjtULLAo

あまりの『不幸』具合に周囲も恐れ、
疫病神だと迫害され、そして家族の保護も限界でどうしようもなくなっていた時。

ちょうど学園都市への入居試験に『なぜか』合格して、逃げるようにこの街にやって来たのだ。

アレイスター「そう。このやり方は、程度に差があれど人間であれば例外なく効果がある」

と、そんな上条の回顧を、
やはりこれまた『覗いている』かのような口調で。

アレイスター「君のような特殊な個体でもな。『幻想殺し』」

そう残酷に、あっさりと告げた。
その『不幸体質』は私が作ったものだと。

上条「―――なっ……なっ……―――!!」

それは人として至極全うな反応だろう。
今まで苦しめられてきた『不幸』、それが全て誰かの意志によるものだと理解したら―――怒りを覚えぬ者はいない。

アレイスター「最初はテレズマを、連中から力を盗み出すことは特に難しくない。ローラ=スチュアートと同じ方法だ」

アレイスター「能力者の数が揃いこの街がAIMに満たされてからは、その力を使用し更にプランを最適化した」

アレイスター「天界からすれば、この能力者の増加原因は未だ不明のままであろう」

アレイスター「ただ悪魔達が介入するようになってからは、その効果が安定しなくなった」

アレイスター「ダンテ達の影響は、さすがに制御可能なものではないからな」

アレイスター「君が、禁書目録へ対する自身の感情に気付いたのも、その―――」

上条「―――――――――うるせえッッ!!」

59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:36:29.46
ID:1bjtULLAo

それは耐えに耐えかねた怒号。
上条はその腹に溜まっていた熱を吐き出してしまった。

アレイスター「限界か?『上条当麻』」

そしてアレイスターの口ぶりはやはり試していたかのような、
見透かした挑発的なもの。

アレイスター「君はやはり短絡的だな」

上条「……ぐッ……!!」

これは明らかに不覚だった。
そう、『話』はまだ途中だったのだ。
言い返したいけれどもも返す言葉は無く、そして感情に任せて言い返してもならない。

幸いにも、アレイスターはこの『不覚』を見逃してくれるようだ。
無言でホログラム画面に目を通したまま、明らかにこちらの言葉を待っていた。

この明らかな余裕には警戒するべきなのだろうが、
そもそも磔にされてしまっているのだから、いちいち避けていては埒が明かない。

とにかく情報を得る、知ることが先決だ。

上条は何度も深呼吸し、熱暴走しかかった思考を冷やして。

アレイスターの不愉快な言葉を反芻し、その話を再確認していく。
こちらが受け取った意図は正しいか、そこに矛盾は無いか、欠けているところは―――。

上条「……」

と、そこで上条は見つけた。
一つ引っかかる『欠け』を。

60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:38:07.36
ID:1bjtULLAo

アレイスターは先ほど、セフィロトの樹には干渉しないと言った。
それが文面どおりなら、ここに一つの疑問が生じる。

セフィロトの樹を介さないまま―――どうやって人間の魂の状態を『隅々まで完全』に確認しているのだ、と。

魂だけじゃない、精神、思念、感情、記憶、それら全てをどうやって?

それも230万、いや―――それは単に集められた数で、それらを選別したことも考えると、
アレイスターが確認していた人間の数は更に多い数になる。

それだけの大勢を一体どうやって。

更に普通の人間と変わりなかった段階の『上条当麻』を見つけ出している。
それも『生まれる前』からだ。

これはセフィロトの樹、いや、更にそこから天界が有する記録に潜らないと到底不可能なはず。

ミ カ エ ル
少なくとも彼、『上条当麻』の考えでは、だ。
そしてその認識は正しかったらしく。

アレイスター「―――それだ。それが正しき疑問だ」

アレイスターが上出来だとばかりにそう告げた。
上条がその疑問を口にする『前』に、だ。

61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:40:06.34
ID:1bjtULLAo

アレイスター「君の考える通り、全人類を探り『幻想殺し』を見つけ出すには、」

アレイスター「セフィロトの樹とその先にある『アーカイヴ』を参照することが不可欠。だが一方で天界に発見されるのも不可避」

と、そこで彼はふと。
ホログラムから目を上げては、何もない宙空へとぼんやりと目を向けて。

アレイスター「恐らくホメロス達も同じだったのだろうな」

遠くを眺めているような面持ちで言った。

アレイスター「私は『一度』、その手段を用いたことで失敗し『大きな代償』を払った」

上条「……」

これまでには無かった、
僅かだが確かに『感情の影』が滲み出ている声で。

アレイスター「だが、二度目の今はこの通りセフィロトの樹を使わずに済んでいる」

アレイスター「ある原石が『いる』おかげでね」

上条「……げ、原石?つまり『能力』を使っているのか?」

アレイスター「そう、俗世の言い方ならば―――『占い』が妥当か、」

アレイスター「『彼女』の能力は、人間を―――『完全観測』できるというものだった」

62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:42:54.91
ID:1bjtULLAo

上条「完全……観測?」

これは少し意外な答えであった。
このアレイスターの口から、虎の子は『能力』、と返されるとは思ってもいなかったのだ。
『彼女』と言うには普通に考えて女性か、そしてその『完全観測』とは。

そんな上条の思考を『明らか』になぞり、
アレイスターの言葉が続いていく。

アレイスター「彼女の能力は人間を対象として、その状態の全て把握できる」

アレイスター「その居場所から肉体、魂、深層心理、感情、思考、記憶、生い立ち」

アレイスター「そしてセフィロトの樹によって決定されている未来――――――『寿命』までも」

上条「寿命……」

その単語を彼が口にした時。
上条はその声に、影とは別にもう一つ微かな色を見出した。

それはこちらの感覚が正しければ―――『怒り』、と呼べる感情を。

アレイスター「彼女が自身のAIMを辿ることで、古き神々の封印されし『思念体』とも私は接触でき、」

アレイスター「そして真の歴史を知る手がかりにもなった。君が私の目標ならば、彼女は私の『きっかけ』だよ」

しかし。
上条が悟っているのを知りながらも、変わらぬ調子で言葉を紡いでいくアレイスター。

アレイスター「ただ初期の頃は、とてもプランに使える強度ではなかった」

アレイスター「それに私も愚かにも辛抱足ら無くてな、知的欲求にも急かされる形でセフィロトの樹に手を出してしまったのだ」

アレイスター「その代償として、私は『肉体』を失い―――彼女も『死んだ』」

上条「―――……」

アレイスター「だが幸いにも、彼女の能力は『存続できた』」

アレイスター「その失敗の後の30年間、私は主に彼女の力を拡張することに研究を費やし、そして今にこうして至る」

63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:46:21.52
ID:1bjtULLAo

ぞわり、と。
上条はこの時、アレイスターの言葉から今度は妙な寒気を覚えた。

悪寒ではなく、なぜか胸が締め付けられるような悲壮な色を。

アレイスター「とはいえ彼女は出会った当初から、まさにレベル5クラスの強大な能力者であった」

アレイスター「私と彼女は偶然にして出会ったわけではない。天界による必然のものだ」

その色を滲ませながら続けていくアレイスター。

アレイスター「当時から『魔神』であった私は、天に仕える『狩人』の任を担っており、彼女は『獲物』だったのだからな」

アレイスター「面白い女だったよ。何から何まで興味深く、共にいても飽きず、聡明ながらも愚かで。そして『人間的』で」

口ぶりは、まさしく思い出を語るものに微かに変化していき。

アレイスター「初めて相対した際、私を『見て』彼女が何と言ったかわかるか?」

そして彼は上条の方へと振り向いた。

長い髪をふわりと揺るがせて。

アレイスター「いきなりこう言ったよ―――」

そして女性的な―――いや、纏う雰囲気等を省けば、
物質的な造形は完全に―――『美しい女性』である、その顔で真っ直ぐに見上げて。

アレイスター「―――『あなたが私の夫ですか』、と」

64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:48:17.54
ID:1bjtULLAo

上条「―――」

儚げながら力強さもあり、目元や鼻筋が凛々しくも、
面持ちには少しあどけなさが残る顔つき。

そう告げたアレイスターの顔、それは『美麗』の一言に尽きるものだった。
一瞬、わかっていながらも上条の鼓動が高鳴ってしまうほどだ。

そう、上条は『わかってしまった』。

この男が、いや、『彼ら』がここまで歩んできた過程に、
具体的にまでとはいかないものの、大まかに何があったのかを。

その『物語』は不吉で、凄惨で、陰鬱で、冒涜的で、そして果てしな