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蛇足 とあるフラグの天使同盟 7-4

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738 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/07(土) 10:48:02.24 ID:zprqjvmho

――――――――――――――――――――――

――学園都市・第七学区 ゲームセンター メダルゲームエリア

打ち止め「来い、来い、来い! ってミサカはミサカはミサカが
賭けた①番の『シロイコイビト』を必死で応援してみる!」

番外個体「このミサカの読みにハズレはないよ。 このレース、
間違いなく⑥番の『ロストナンバー』が制覇する!!」

ヴェント「ここまで三レース連続で外してる……。 でも今度こそ、
私が賭けた②番の『イケメルヘン』が勝つはずよ!」

実況『さあ最終コーナーを通過、トップは依然として④番の「ブチコロシカクテイ」、
それを追うように③番「ビリビリッテイウナ」、①番の「シロイコイビト」が
猛追を――――あーっとここで①番「シロイコイビト」がまさかの転倒ー!!
⑦番の「コンジョウイチバン」がここぞとばかりにラストスパートをかけたー!!』

739 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/07(土) 10:48:56.73 ID:zprqjvmho

打ち止め「あ、あー!!! ってミサカはミサカはゴール直前で起きた
ハプニングにがくぜんとしてみる! ていうか転倒とかそういう
システムあったのこれってミサカはミサカは納得いかねえええ!」

番外個体「ぎゃははははご愁傷さまぁ!! ……でも⑥番が伸びてこねえ」

ヴェント「ってオイ!! ①番の転倒に巻き込まれて私の②番まで落馬してんぞ!!」

実況『一着は⑦番「コンジョウイチバン」、二着に③番「ビリビリッテイウナ」、
三着は④番「ブチコロシカクテイ」、続けて⑤番「ソウサシチャウゾ」、
⑥番「ロストナンバー」。 えー今、遅れて①番「シロイコイビト」も
ゴール、②番の「イケメルヘン」は再起不能です。 続いて⑧番の……』

740 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/07(土) 10:49:50.05 ID:zprqjvmho

打ち止め「ああ……ミサカの最後のメダルが搾取されたって
ミサカはミサカは膝をついて絶望してみたり……」ガクッ

番外個体「ちぇっ、やっぱ『6』なんて不吉な数字選ぶんじゃなかったかなぁ」

ヴェント「再起不能だと……。 これだからどこの世界でも二番手はクズなのよ……」

打ち止め「もうみんなメダル無くなっちゃった? ってミサカはミサカは確認してみる」

番外個体「ミサカはあと二枚残ってるけど、これだけじゃもう遊べないねえ」

ヴェント「メダル落としだっけ? あれで最後の賭けに出てみない?」

番外個体「二枚じゃ望み薄でしょ。 ここは潔く諦めようぜ」

打ち止め「一時は三〇〇〇枚くらい稼げたのにねってミサカはミサカは
空っぽのバケツを眺めながらしょんぼり肩を落としてみる」シュン

741 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/07(土) 10:50:56.50 ID:zprqjvmho

番外個体「ま、所詮メダルゲームだしねえ。 本場のギャンブルで現金とかなら
ミサカの血も騒ぐってもんだけどさ、メダルじゃ名残惜しくもないね」

ヴェント「……っていうか、私達かなり熱中してたけど、今何時?」

番外個体「えっと……、げ。 もう夜一〇時を過ぎちゃってるよ」

ヴェント「昼からずっとゲーセンに入り浸ってたのか……」

打ち止め「うわっ、ヨミカワからたくさん着信がきてるってミサカはミサカは
ゲームセンターの騒音で着信に気付かなかったという言い訳を準備してみる」

ヴェント「あの女、警備員なんでしょ? 何でアンタらを迎えに来ないのよ」

742 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/07(土) 10:51:51.94 ID:zprqjvmho

番外個体「そういや今日は帰り遅くなるとか言ってたっけ。 多分芳川桔梗に
ミサカ達の面倒見るのを一任してるんだろうけど、芳川の事だから
すっかり忘れて寝こけちゃってるだろうね、冷たい冷たい」

打ち止め「で、でも今から帰れば誰にも怒られずに済むかも……って
ミサカはミサカは速やかな帰宅を推奨してみたり」

ヴェント「ところで、ここのゲーセンってこんな遅い時間まで営業してんのね」

番外個体「学園都市の娯楽施設って大半は完全下校時刻と共に店閉めるんだけどさ、
今は一端覧祭中だから『外』から来た客のために夜遅くまでやってるって
黄泉川が言ってたような……。 ほら、ミサカ達以外にもまだ客残ってるし」

ヴェント「なるほど。 ……ん、待てよ?」

打ち止め「どうしたのってミサカはミサカは尋ねてみる」

743 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/07(土) 10:52:26.76 ID:zprqjvmho

ヴェント「…………いや、でも、もう……今しかないか?」

番外個体「?」

ヴェント「アンタら、ちょっと私に付き合ってくれる?」

一方通行「…………」

店員「お客様……、お客様」ユサユサ

一方通行「…………ン……」クカー

店員「お客様、起きてください。 お客様……」

一方通行「……あ、あァ? ンだよクソったれが……」ムニャムニャ

744 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/07(土) 10:53:04.91 ID:zprqjvmho

店員「申し訳ございませんお客様、もう今更にも程がありますが
店内で寝るという行為は他のお客様の迷惑になりますので」

一方通行「……は?」パチ

店員「すみません」

一方通行「あ……やべ、え? 俺寝てたのか?」

店員「それはもう、豪快に」

一方通行「店内で? つかここ床じゃねェか」

店員「お昼頃から寝てたと他のお客様から……」

一方通行「起こせよ!」

745 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/07(土) 10:53:44.50 ID:zprqjvmho

店員「申し訳ございません……(だってあの第一位だもんなぁ……。 声をかけるだけでも寿命が縮む思いだ)」

一方通行「クッソ……。 ……そォいや、他の連中は?」

店員「お連れ様の事でしょうか?」

一方通行「あァ、目付きが悪い女二人とガキ一人が居たはずなンだが」

店員「その方々でしたら夕方頃からメダルゲームコーナーに……、あ」

打ち止め「あなたお待たせー! ってミサカはミサカは飛びついてみる!」バッ

一方通行「うぐゥ、ていうか起こせよオマエら! なに俺を放置して遊ンでンだ!?」

番外個体「あなたが勝手に寝てただけじゃん」

ヴェント「アンタ、寝てなかったんでしょ? 起こしちゃ悪いと思って」

746 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/07(土) 10:54:31.70 ID:zprqjvmho

一方通行「って、おいィ!? もォ一〇時じゃねェか!」

打ち止め「ちょっと遊びすぎちゃったってミサカはミサカは少しだけ
悪い子っぽい夜更かしに内心ワクワクしてたりするんだけど」

一方通行「するンだけど、じゃねェよ。 もォ帰れよオマエら」

番外個体「そうしたいところなんだけどさ、」

一方通行「ンだよ、まさかオマエらがここでなンかしでかして、
今この店の周囲を警備員が囲ンでるとかじゃねェよな?」

番外個体「いやそれはそれでミサカ的には愉快なんだけど、そうじゃなくて
この魔術師さんが愛しの第一位様に何かお願いがあるそうだよ?」

ヴェント「な、何ワケわかんねえ事言ってんだテメェ!」

747 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/07(土) 10:55:22.11 ID:zprqjvmho

番外個体「えー? だってあなた達、同じ屋根の下で暮らしてるんでしょお?
しかも今日はヴェントからのお誘いでここへデートに来たそうじゃん、
このミサカと格ゲーで対戦するための修行とかいう"らしい"口実で」

ヴェント「殺すぞテメェ……」

一方通行「……これ、デートだったのか?」

ヴェント「違うわよ!」

番外個体「いやいやいや、今更そこを否定されてもねえ?」ニヤニヤ

一方通行(デートか……。 そォだよな、デートになるンだろォな)

打ち止め「そこんとこハッキリしなさいってミサカはミサカは問い詰めてみる」ズイッ

748 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/07(土) 10:56:07.57 ID:zprqjvmho

一方通行「いや、まァ……。 ……それより、お願いってなンだよ?」

ヴェント「そ、そう。 ええっと、アンタ、今の時間帯でも開いてるゲームショップとか知ってる?」

一方通行「ゲームショップ?」

番外個体「何それ、意外。 今日の一件ですっかりゲームにハマっちゃったとか?」

ヴェント「そうじゃないわよ。 むしろもう向こう一〇年はゲームしたくない」

打ち止め「でもゲーム買うんでしょ? ってミサカはミサカは再度尋ねてみる」

ヴェント「……まぁ、そうね」

一方通行「あァ、オマエが昼に買うっつってたヤツ、ゲームだったのか?」

749 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/07(土) 10:57:04.62 ID:zprqjvmho

ヴェント「いいから、どこかまだ営業してる店はない?」

一方通行「俺に聞かれてもな……。 オマエ、どこか知らねェか?」

店員「え!? ぼ、僕ですか!?」ビクッ

一方通行「他に誰がいるンだよ」

店員「いやまさかこの流れで僕に話が振られるとは思わなくて……」

ヴェント「知ってるなら教えろ」

店員「んん……、この時間だと地下街のレトロゲー専門店くらいしか開いてないかと……」

ヴェント「レトロゲーって何よ」

750 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/07(土) 10:57:54.99 ID:zprqjvmho

店員「十数年前に販売されたような古いゲームの事です。 地下街に
そういったレトロゲーを取り扱ってる店があって、そこなら
多分まだ営業してるかと……。 それと、『外』から入荷した
ゲームも多く取り揃えている事で割と有名なお店なんですよ」

ヴェント「! そこでいいわ」

一方通行「懐古ゲーがやりてェのか?」

ヴェント「私は別に。 ただ、打ち止めと番外個体にはついてきてもらわないと意味ないから」

打ち止め「ミサカ達? ってミサカはミサカは首をひねって疑問を感じてみる」

一方通行「今度は何を企ンでやがる」

番外個体「なんでミサカが付き添わなきゃ意味ないの?」

ヴェント「つべこべ言ってないでさっさと行くわよ」

一方通行「面倒くせェ……」

751 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/07(土) 10:59:18.41 ID:zprqjvmho

――――――――――――――――――――――

――学園都市・第七学区 地下街 レトロゲーム専門ショップ

打ち止め「おおー、なんだか見たことのないゲームがいっぱいあるって
ミサカはミサカはあちこちに視線を泳がせながら眺めてみる」キョロキョロ

番外個体「このジェネシスって何?」

一方通行「北米のメガドライブ」

ヴェント「あ、このゲーム見たことあるわね」

一方通行「魔術サイド暗部のオマエでもさすがにスーファミは知ってンだな」

打ち止め「ううむ、このセガ・マスターシステムっていかにもレトロっぽいって
ミサカはミサカは今初めてみたゲームに対し知ったかぶってみる」

752 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/07(土) 11:00:18.66 ID:zprqjvmho

ヴェント「…………」キョロキョロ

一方通行「で、オマエは一体何を買うンだよ?」

ヴェント「今捜してる」

一方通行「高いモンなら俺が買ってやろォか?」

ヴェント「その太っ腹には感謝するけど、アンタの財布空っぽよ、ほら」ポイッ

一方通行「え……?」ゴソゴソ

番外個体「やべえ、逃げるか」

一方通行「待てコラ。 こりゃ一体どォいう了見だ!?」

打ち止め「ちょ、ちょっとだけ貸してもらうつもりだったのって
ミサカはミサカは冷や汗を流しながら言い訳してみる」アセアセ

753 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/07(土) 11:01:11.64 ID:zprqjvmho

一方通行「ちょっとだけって、確か俺の財布にゃまだ結構……」

番外個体「あの程度の金額、ゲーセンじゃ半日と持たないよね」

一方通行「人の金勝手に使っておいてその物言いはねェだろォが!」

ヴェント「謝るわよ、悪かったわね」

打ち止め「ごめんなさいってミサカはミサカは謝罪してみる」ペコッ

番外個体「ごめんなさい」

一方通行「う、……まさか素直に謝られるとは思わなかったな」

番外個体「じゃあ許してくれる?」

754 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/07(土) 11:02:07.63 ID:zprqjvmho

一方通行「"じゃあ"の意味がよくわからねェが、まァイイ別に」

打ち止め「ありがとう、ってミサカはミサカはあなたの懐の広さに感謝してみる!」

一方通行「……ところでよオマエら」

打ち止め「?」

一方通行「この前、第三位と接触したらしいじゃねェか」

番外個体「おおっと、このタイミングでその話題を出してくるかね」

打ち止め「……」

一方通行「どォいうつもりだ?」

755 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/07(土) 11:02:50.36 ID:zprqjvmho

打ち止め「み、ミサカがお姉様に会いたいってワガママを言ったの、
ってミサカはミサカはミーシャやフィアンマや番外個体は
何も悪くないよって正直に告白してみたり」

一方通行「実験後の経緯についても洗いざらい話したのか?」

番外個体「このミサカが製造された実験の件と、あなたの事くらいかな」

一方通行「……それだけか?」

打ち止め「お姉様は動揺してたけど、それもミサカのせいだから
怒るならミサカだけにしてってミサカはミサカは……」

一方通行「……別に怒っちゃいねェよ。 確認しただけだ」

番外個体「心配性な親御さんだねえ」

756 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/07(土) 11:04:10.82 ID:zprqjvmho

打ち止め「……」

一方通行「オマエらと第三位の問題に俺は関わらねェよ。 俺が関わンのは
オマエらの問題だけだ。 第三位と俺が接触する事はもォ二度と
ねェだろォが、オマエらが第三位に接触する事に俺は反対しねェ」

番外個体「ミサカ達とお姉様の問題は常に付随するもんじゃない?」

一方通行「厳密には違うだろ。 俺とオマエらか、第三位とオマエらか。
その二つは絶対に相容れねェし、交差する事はねェンだ。
第三位も恐らく言ってただろォが、俺と第三位が和解するなンて
展開は未来永劫訪れねェだろ。 そンな簡単な問題じゃねェしな」

番外個体「そんなもんかね」

一方通行「そンなモンじゃなきゃダメなンだよ。 ……"今はな"」

757 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/07(土) 11:04:46.79 ID:zprqjvmho

打ち止め「で、でもあなたは前にホテルで一〇〇三二号と―――」

一方通行「アレは軽い挨拶みてェなモンだろォが。 あれでもギリギリなンだよ」

打ち止め「うん……ってミサカはミサカは納得してみる」

一方通行「すまねェな。 余計な気苦労させちまって」

打ち止め「……ううん、大丈夫だよ! ってミサカはミサカは笑顔で答えてみる」ニコッ

番外個体「健気だねえ。 ミサカも今みたいな笑顔したら好感度上がったりする?」

一方通行「上げてほしいのか?」

番外個体「んー、いやぁやめといた方がいいかなやっぱ。 だって、」

一方通行「?」

758 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/07(土) 11:05:34.69 ID:zprqjvmho

番外個体「恐ろし~いお姉さんがこっちをずっと睨んでるし、ねえ?」ニヤニヤ

ヴェント「……………………………………」ジットー

一方通行「な、なンだよ……買うモン決まったのか?」

ヴェント「決まったわよ。 アンタらが色々と話してる間にね」プイッ

一方通行「そ、そォかよ」

番外個体「けけ、大変だね第一位も」

ヴェント「……。 ねえ、これちょうだい」ドサッ

店員「はい、ありがとうございます」

打ち止め「何買ったの? ってミサカはミサカは覗き込んでみたり」ヒョイ

759 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/07(土) 11:06:18.82 ID:zprqjvmho

番外個体「……あれ? このゲーム機、黄泉川の家にあるやつじゃん」

一方通行「正しくは黄泉川の家でヴェントがぶっ壊したゲーム機だな」

ヴェント「あとアレ、ゲーセンにあるコントローラみたいなのって無い?」

店員「えっと……アケコンの事ですか?」

ヴェント「多分。 レバーとかついてる大きいやつ」

店員「この機種のアケコンなら……あと二つ在庫に残ってますけど」

ヴェント「二つともちょうだい。 あとこのソフトも」

一方通行「それ今日やった格ゲーの家庭版じゃねェか」

店員「ありがとうございます(すげえ……ここまでがっつり買うか普通……)」

760 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/07(土) 11:06:56.60 ID:zprqjvmho

ヴェント「これ、クリスマス仕様に梱包するとか出来る?」

店員「ええ、承っております」

ヴェント「じゃ、お願い」

打ち止め「???」

番外個体「これは一体どういう事なのかな?」

店員「お待たせしました」ガサッ

ヴェント「お金、ここに置いとくから」

店員「ありがとうございました、またご利用くださいませ」

761 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/07(土) 11:07:40.86 ID:zprqjvmho

――――――――――――――――――――――

ヴェント「重……」ズシッ

一方通行「ずいぶン思い切った買い物しやがるな」

ヴェント「はい、これ」スッ

打ち止め「?」

ヴェント「…………アンタらのゲーム、壊して悪かったわね、だから弁償するわ。
ついでにちょっと早いけど、私からのクリスマスプレゼントって事で」

打ち止め「え、これミサカ達にくれるの!? ってミサカはミサカは
突然のサプライズイベントに戸惑いながらも尋ねてみる!」

ヴェント「まぁ私が壊したもんをプレゼントって言うのも変だけど……持っていきなさい」

762 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/07(土) 11:09:31.08 ID:zprqjvmho

番外個体「おいおい、一体どういう風の吹き回し?」

ヴェント「私に対して風を例えるとは面白いわね」

一方通行「なるほど、そォいう事だったのか」

番外個体「こりゃ明日は雪でも降るんじゃない?」

一方通行「この時期に雪が降るのは至って普通だろォが」

打ち止め「わーい! ヴェント大好きってミサカはミサカは大喜び!」キャッキャ

ヴェント「わかったから早く受け取れ。 これマジで重い……」

番外個体「これ二つともミサカが持つの!?」ズシッ

打ち止め「だってミサカじゃ持てないもん、ってミサカはミサカは非力さをアピールしてみる」

763 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/07(土) 11:10:11.30 ID:zprqjvmho

番外個体「ちぇっ。 よっしゃ、じゃあ早速帰ってプレイしますかね」

打ち止め「でもアケコンってガチャガチャうるさいからヨミカワがすごい
嫌がるってミサカはミサカは騒音対策を講じる事を提案してみる」

番外個体「第一位とヴェントはこれからどうすんの?」

一方通行「あァ? そォだな……」

ヴェント「私はこいつとアジトに戻るわ」

一方通行「何勝手に決めてンだよ」

番外個体「……ふむ。 じゃあミサカ達は黄泉川の家に帰るね」

一方通行「まァイイ。 気をつけて帰れよ」

打ち止め「たまには帰ってこいよー! ってミサカはミサカは手を振りながら帰路についてみる」

一方通行「余計なお世話だクソガキ」

番外個体「ヴェントも頑張ってくれたまえよ」ニヤニヤ

ヴェント「………………」

764 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/07(土) 11:12:31.32 ID:zprqjvmho

今回はここまでです。

そして次回の投下で一端覧祭5日目、ヴェント編もおしまいです。
引越しのあれこれがあったためずいぶん長くなってしまいましたが、
ようやく場面を切り替えられそうです。

ちょっとだけ一方通行と美琴の話が出てきましたが、
さすがに深く考え過ぎですかね?原作じゃ割とさらっと会話してたし、
『天使同盟』自体はあまり絡まない話題ですし、やりすぎかな……。

765 :次回予告はここまでです。 ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/07(土) 11:13:01.14
ID:zprqjvmho

【次回予告】

「言えよ。 …………一つだけ、何でも言うこと聞いてやる」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)―――――― 一方通行(アクセラレータ)

「……」
ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員――――――前方のヴェント

768 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/07(土) 16:41:34.10
ID:ohPAoe6vo

なんでも、か……何が来るかな

783 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:11:42.31 ID:UHPYxZZio

――――――――――――――――――――――

今日は、そんな一日だった。

打ち止め、番外個体と別れた一方通行とヴェントは第七学区にあるアパート、
今や『天使同盟』と愉快な仲間たちが巣食うアジトへの帰路についていた。

「しっかし、まさかオマエみてェなのがゲーム機ぶっ壊した事を
気にしてやがったとはなァ。 オマエの意外な一面を見れたぞ」

「うるさいわね、気まぐれよ気まぐれ。 ……まぁあいつらと遊んでて
結構楽しかったし、私のくだらない用件にわざわざ付き合ってくれた
のもあるし……。 クリスマスも近いし? たまにはいいかなって。
まあ私の立場でクリスマスがどうこういうのもおかしいけれど」

784 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:12:39.61 ID:UHPYxZZio

「だからそォいう一面が意外だって言ってンだよ」

「あっそ。 でも、それも『私』だから」

「あァ」

夜一〇時過ぎ。いくら一端覧祭のため『外』からの客が多いといっても、
さすがにこの時間だと街の大通りで窺える人影はほとんど居なかった。
その証拠に二人はレトロゲー専門ショップを出て一度も通行人とすれ違っていない。

たまに通りかかる車の走行音が通り過ぎると、静寂が再び二人を支配する。
まるで二人だけ誰もいない空間へと切り離されてしまったように。

「しかし今日もまた疲れたな……、ただ遊ぶだけでもこンなに疲れるモンだとは」

「……お疲れ様、って労ってやればいいのかしら?」

785 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:13:54.66 ID:UHPYxZZio

「必要ねェよ。 俺にとっても大事なことだからな」

「遊ぶことが?」

「そォだよ、ゲーセンで話しただろそこら辺の話題については」

一方通行は今日までの過程を振り返る。

出発点を一端覧祭開始日として、
一日目に長点上機学園でエイワス主催の能力講座を(強制で)行い、
二日目に風斬氷華と何の変哲もないデートを楽しみ、
三日目に風邪を引いた英国第二王女キャーリサの看病をして、
四日目にオルソラ、アンジェレネと風紀委員の体験講習に参加した。

そして今日、五日目。一方通行はヴェントとゲームセンターで遊んだ。

786 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:14:44.68 ID:UHPYxZZio

(ハッ、俺みてェなクソ野郎が充実した日常を満喫してやがるじゃねェか……)

最初の頃に抱いていた自分が日常に溶け込むという違和感は、現在ではもう
ほとんど霧散しかけていた。四日目の誘拐事件で危うく溢れ出そうになった
胸の内に秘める『闇』も、オルソラのおかげでどうにか抑える事が出来た。

同時に、垣根帝督との衝突で決意した『異性を理解する』という目標も、
僅かずつではあるが順調に進行しているように一方通行は思う。

イギリス清教最大主教、ローラ=スチュアートとの謁見まで残り二日。
一方通行という一人の少年は、周囲の仲間に支えられながら確実に
『人間』としての自己を確立していた。

そんな確かな手応えを一方通行が感じていると、

787 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:15:10.55 ID:UHPYxZZio

「白いの」

「あン?」

視線を地面に向けながら歩いているヴェントが不意に話しかけてきた。

「………………き、今日」

「?」

「今日……楽しかったか? その、私と……遊んでて」

尋ねてきた内容は至って普通の事だったが、どうもヴェントの様子がおかしい。
その言葉に力というか、自信がないような、細々とした声色で、さらに必死で
言葉を搾り出しているような、いっぱいいっぱいといったような調子だった。

788 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:15:57.30 ID:UHPYxZZio

「……」

一方通行はすぐに察する。ヴェントの性格上、自分と過ごしてて楽しかったかと
尋ねるのは抵抗があるのだろう、と。要は少し照れているのだろう、と。
一方通行はほんの少し間を空けた後、こちらに顔を見せないヴェントへ迷いなく答える。

「楽しかったに決まってンだろ。 そォじゃなきゃ速攻で帰って寝てる。
まァ結局ゲーセンで盛大に寝ちまうという醜態を晒しちまったけどな」

「そ、そう。 何で楽しかったの?」

「何でって……妙な事聞くなァオマエ。 ……正直、最初はオマエとゲーセンなンか
行ったって楽しくねェだろとは思ってたが、実際遊ンでみて楽しかったンだから
しょうがねェだろ。 オマエで良かったとさえ思える。 オマエだから楽しかった」

789 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:17:06.76 ID:UHPYxZZio

「……そういうセリフを、他の人間にも言ってるんだろアンタは」

「…………否定はしねェが、だが"オマエも"楽しかった、これも事実だ」

そうとしか答えようがなかった。一方通行がこの五日間過ごした日々は、
どれもこれも楽しくてしょうがなかったのだから。昔の、心の根っこまで
腐り果てていた自分に自慢したいくらいだと一方通行は思う。

「……」

「……なンだよ」

色々な事があったが、自分は今幸せであると。幸せになってもいいという
事実が、こんなにも素晴らしい事であると。過去に戻って言い聞かせてやりたかった。

790 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:18:34.71 ID:UHPYxZZio

「だったら」

「?」

「最後にもう一回だけ楽しんでもらおうかしら。 ちょっと付き合え」

「どこに」

「ゲーセン」

「……!? またかよ?」

そう言うヴェントは、しかし一方通行と一切視線を合わせようとしない。
照れている、という風でもなかった。照れているにしては―――そして
もう一度だけゲームセンターに行こうと誘っているだけにしては、その表情は
そこか真剣味を帯びていた。

791 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:19:38.12 ID:UHPYxZZio

――――――――――――――――――――――

一方通行は渋々ながらもヴェントの申し出を受け入れ、
二人は先のゲームセンターへと足を運んだ。

営業時間も残り僅か。ヴェントは格闘ゲームの再戦を申し込んできたが、
ワンクレジット分程度しかプレイ出来る時間は残されていないだろう。
一方通行とヴェントは互いに筐体へ向かい、硬貨を一枚投入する。

「本当に懲りねェよなァオマエ、まさかまた対戦しろとか言い出すとはよ」

「……」

「まァ、オマエの様子からして何か裏があるみてェだが」

792 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:20:30.08 ID:UHPYxZZio

様子といっても一方通行はそれを漠然としか窺えていなかった。
何となく、ヴェントの様子が少しおかしい……ような気がする、程度の。
ついさっきここへ誘われた時も思ったが、どこか『真剣』なのだ。

「白いの」

「ンだよ、さっさとキャラ選ンじまえ。 俺ァもォ帰りてェ」

「賭けをするわよ」

唐突にヴェントはそう言ってきた。賭け。見返りと共にリスクがチラつくその言葉に
一方通行は眉をひそめる。

793 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:21:13.71 ID:UHPYxZZio

「……どォいう方法で、何を賭けるンだ?」

「この対戦で私が勝ったら、アンタは一度だけ私の言う事を何でも聞く」

「そォいやさっきもそンな事言ってやがったな。 事前に俺が従わなきゃならねェ命令を聞いておきてェが」

「………………私が勝ったら、……」

「……?」

言葉の続きが紡がれない。明らかに続きを口にするのを拒んでいる。
言い淀んでいる。

794 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:22:00.62 ID:UHPYxZZio

「……とにかく、私が勝ったらアンタは私の犬よ」

「わかったよ、オマエが勝ったらな。 で、俺が勝ったら?」

「え、特に何も無いけど」

「賭けとして成立してねェ!」

これではただ単に対戦をして終わるだけだ。この勝負、十中八九一方通行が
勝利を収める事になるのだから。ただ彼としてはそれで充分満足出来るのだが。

「じゃ、始めようかしら」

「言うまでもねェだろォが、手加減なンざしねェからな」

795 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:22:44.50 ID:UHPYxZZio

「手加減なんてしたら殺すわよ、全力で勝負しろ。 ……絶対に、」

「?」

「この勝負、絶対に私が勝ってやる」

「……………………」

どうやらよほど一方通行に執行できる絶対命令権が彼女は欲しいらしい。
そこまで言いたい事が、伝えたい事があるならこんな形式を取らなくとも
聞いてやるくらいの気で彼はいるのだが―――

(……こいつ。 いや、俺の考えすぎか……?)

796 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:23:22.10 ID:UHPYxZZio

一方通行の中にある推測が生じる。ヴェントがこの対戦に勝利して一方通行に
何を言おうとしているのか。

(俺も大概鈍感だが、それでもこればかりは……)

仮に一方通行の推測が正しかった場合、

(俺は――――)

この勝負、果たして一方通行は勝つべきなのか、負けるべきなのか。

「いくわよ」

第一ラウンド開始を告げるアナウンスが、一方通行の迷いを中断させた。

797 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:24:24.92 ID:UHPYxZZio

――――――――――――――――――――――

果たして、一方通行vsヴェントの本日最後の格闘ゲーム対戦は―――

「……」

「……、俺の勝ちだな」

案の定というか、必然と言うべきか。一方通行の圧勝という形で幕を閉じた。

番外個体と対戦する直前のヴェントの腕前は確実に上がっており、
驚異的なテクニックを有する一方通行でも稀に苦戦を強いられる
程度までスキルを磨いてたいたが、結局本命であった番外個体には
敵わず、それでも今の自分なら―――と一方通行に挑んだヴェント
だったが、奇跡と形容できるそれは起こるはずもなかった。

798 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:25:24.01 ID:UHPYxZZio

一方通行は今日一日の疲労を吐き出すようにため息をつくと、
ゆっくりと筐体から立ち上がり向かい側の筐体へ向かう。

「……」

レバーとボタンに手を添えたまま、無表情でヴェントは固まっていた。
いや、その様子を見る限り一方通行に敗北したことによってショック
を受けている訳ではなさそうなので固まっていたという言葉はやや
相応しく無いだろう。どちらかと言えば、何か全く、別の事を考えるのに
夢中でその場から動かない様子、だろうか。

「……どォすンだよ」

「……え。 何が」

799 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:26:09.08 ID:UHPYxZZio

「終わったぞ、勝負。 結果は俺の勝ち、つまりオマエが望ンでた
俺を飼い犬にするとかいうクソみてェな取り決めは実行前に
無効ってこった。 文句はねェだろ、オマエが決めた事だからな」

「……別に、」

「あン?」

消え入るような声で呟いたヴェントはやがて、ひどく緩慢な動作で椅子から
立ち上がると、一方通行の存在を忘れているかのように一人店から出て行って
しまった。

別に不貞腐れている訳でもないだろうが、彼女のただならぬ様子に
一方通行はヴェントのあとを追っていく。

800 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:26:55.93 ID:UHPYxZZio

「待てコラ。 散々人を付き合わせておいて何勝手に帰路についてやがる」

「ん……あぁ、ご苦労さん。 アンタにはもう用は無いから、
今すぐ死んでいいわよ。 私はもう帰って寝るから」

「あれだけ散財させといてそンな口がきけるオマエにゃ参るがよ。
ンだよ、やっぱ不貞腐れてやがンのか? だが手加減したら――」

「もう終わってんのよその話は。 あーあ、もう格ゲーなんてやりたく
ないし見たくもないわ。 やっぱり私にあんな科学ごってごての
娯楽は合わないわよ。 あのゲーセン、帰りに潰しときゃよかった」

「……」

本気で言っているとは思えなかった。今日という日を経て、ヴェントは
確実に、彼女の中の"しがらみ"を無視して何かに興じるという、人間として
当たり前のことをしながら過ごす術を学んだはずなのだから。
でなければ例えば、アックアに勝利した時の、こっちまで嬉しくなってしまう
くらいのあの笑顔を浮かべられるはずがない。例えば、一方通行と二人だけの
写真など撮る気になるはずがない。

801 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:27:58.39 ID:UHPYxZZio

しかし、ではヴェントのこの形容し難い様子というか雰囲気は何なのか。
一方通行には分からなかった。不貞腐れているでもない、怒っているでも
ない、ゲームという娯楽に嫌気がさしたでもない。
だがどこか物足りなさを抱いている。納得のいかないような、曖昧な態度。

と、

「ん……」

微妙な距離をあけながら歩いている二人の頭上に、何の前触れもなく雪が降ってきた。
少し前に番外個体が言っていた言葉が現実となって二人の視線を空へ奪う。

「ヴェント」

「何?」

802 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:28:56.57 ID:UHPYxZZio

雪が降ったから、という理由ではないが一方通行はここでヴェントに声をかけた。
彼がただ単純に気になっていることを彼女に尋ねてみるためだ。
本当にただ疑問に思っていることを、しかしそれが或いは、今のヴェントの曖昧な
様子の原因に繋がるかもしれないと一方通行は考えた。

「今日……つーか、さっきの勝負。 "俺が負けてたらどォなってた"?」

「……と言うと?」

「俺が負けたらオマエの言いなりになる予定だったンだろ俺は。
一度だけって制限が設けられてるが、とにかく俺は一つだけ
オマエの命令に従わなきゃならなかった。 その命令の内容だ」

その『命令』を執行出来なかったが故に、今のヴェントは不完全燃焼的な
雰囲気を醸しているのではないかと一方通行は踏んでみた。

803 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:29:43.69 ID:UHPYxZZio

「別に勝負の賭け事っつー設定にこだわらなくても、俺は構わねェぞ。
大体、今日の朝から今まで俺はオマエに絶対服従みてェなモンだった
じゃねェか。 だから遠慮する事はねェ、最後くらい聞いてやるよ」

「……」

「言ってみろよ。 これが出来なかったからオマエ、さっきから
つまンなそォな態度してやがるンだろ? クソわがままもイイとこ
だが、最後にそンなツラさげられてちゃこっちも気が滅入るンだよ」

「……」

「言えよ。 …………一つだけ、何でも言うこと聞いてやる」

少ししつこいくらいに一方通行はヴェントから『命令』の内容を引き出そうとする。
納得のいかないような顔をされてたら自分も気が滅入る、と彼は言っているが、
実を言うとそれは本心ではない。

804 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:30:38.42 ID:UHPYxZZio

あの時自分が敗北していたらヴェントは何を命じてきたのか、という
単純な好奇心であり、そして一方通行には―――

―――彼にはその『命令』の内容がある程度、予想出来ていた。つまりは確認作業だ。

「この私に、否定形はない」

一方通行の言葉に対し、そう返して振り返ったヴェントの表情は、
つい先ほどまでの不明瞭なそれとは違い、いつもの不敵な薄い笑みであった。

「命令するのは私が勝ったらって取り決めだろうが。 で、私は負けた。
だからもうアンタにあれこれ言うつもりはないわよ。 ていうか仮に
私がとんでもない命令するつもりだったらどうするのよ?
それを実行しろだなんて、アンタ真性のマゾなんじゃねえの?」

805 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:31:34.70 ID:UHPYxZZio

「いや、俺は―――」

「諄いってのよ。 何で私が命令しろって命令されなきゃいけないの?
確かに勝負はアンタが勝ったけど、アンタが勝った場合は特に何も
無いって取り決めでもあっただろうが。 私に指図すんじゃねえよ」

このムチャクチャな物言いがまさにヴェントらしくあり、そしてそう言われると
一方通行もこれ以上言葉を紡ぐのを躊躇わざるを得ない。もし本当に、例えば
『全裸で逆立ちして学園都市を一〇〇周しろ』などと言われたらたまったものでは
ない(そんな事を言われても一方通行は実行に移らないだろうが)。

「…………私に"勇気"がないから命令出来ないってのもあるけど」

806 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:32:15.91 ID:UHPYxZZio

独り言のつもりだったのだろうが、一方通行の耳は確かにそんなヴェントの
言葉を受け取った。
勇気。そんな大それたものが必要であるヴェントの『命令』が何なのか、
ここで初めて一方通行は確信に近いものを得る。

得て、そしてますます、これ以上『命令してみろ』と口にする事が出来なくなった。

「ま、今度またアンタに命令できる機会が出来たらその時にしてやるわよ。
覚悟しておいた方がいいわね、アンタの予想以上に過酷な内容だから」

「……」

「じゃあ私はあのアパートに帰るけど、アンタは今日は帰ってくるなよ。
私にあれだけ屈辱を味わわせやがったクソ野郎の顔なんて見たくないし。
いつまでもとは言わないけど、少なくとも今日だけは帰宅禁止って事で」

最後まで理不尽な物言いを押し付けたヴェントは、

807 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:33:14.61 ID:UHPYxZZio

「今日は付き合ってくれてありがと、"一方通行"」

儚げな笑顔を一瞬浮かべ、一方通行を置いて早足で去って行った。

「……クソったれが。 だが、そォだったとして……なら俺は……」

最後の対戦、自分は勝ってしまってもよかったのだろうかと彼は思う。

仮に負けたとして、手加減をして負けたとして、やはりヴェントは怒るだろう。
だがそれでも『オマエは勝ったんだから』と取り決めを重視させて『命令』させて、
その『命令』が自分の予想通りで、そうだった場合一方通行は―――

「俺は……」

808 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:34:30.58 ID:UHPYxZZio

明確な『答え』を出せない自分にいい加減腹が立つ第一位。

そもそも、まずその『答え』を出すという考えすら単なる勘違いに過ぎないかもしれない。
勝手に一人で推測して、結論付けて、ifに頭を抱えるマヌケなピエロ。
むしろそちらの方が可能性としては高い。しかし、

(…………こォいう時、例えば垣根だったらどォすンだろォな……。
あのクソ無能力者なら……こンな事に頭抱えることはねェのか)

ミーシャ=クロイツェフ。風斬氷華。キャーリサ。オルソラ=アクィナス。アンジェレネ。
打ち止めも、番外個体も、その他にも、たくさんの顔が一方通行の頭に浮かんではグルグルと
渦のように回っていく。ヴェントと過ごし、だがなぜこんな葛藤が生まれてくるのかがわからない。

(ハッ、いつから俺は『選ぶ』なンて権利を持ち得た人間になったンだ? 何様のつもりなンだよ……)

809 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:35:25.60 ID:UHPYxZZio

鈍感だと散々指摘され、ではそこを改善していこうという心構えの一方通行。
そんな今の彼だからこそ、わかる。ヴェントがどういう目的で最後の勝負を挑んだのか。
分からなければならない。ここでわからなければ一方通行はもう一生成長を望めない。
だからこの苦悩はある意味、大きな進歩といえる。しかし最後の一歩が足りなかった。

(……今からでも追いかけて、)

今更アパートには帰りづらく、黄泉川の家に戻ろうかとも思案した一方通行だが、
やはりこのままでいいとは思えないとヴェントのあとを追おうと決心したところで、

「?」

とある音色が一方通行の思考を遮断した。音が存在しないはずのこの空間で、
しかし明瞭な音色が彼の鼓膜を叩いた。一気に現実に引き戻されたような感覚。

音色の発信源は一方通行の携帯電話であった。

810 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:36:32.20 ID:UHPYxZZio

(誰だ……?)

ポケットをまさぐりながら彼は電話をかけた相手が誰なのかを予想する。
この時間帯にかけてくる人物、黄泉川だろうか、打ち止めだろうか、番外個体か、
風斬氷華? ミーシャだった場合、十中八九何らかのトラブルに見舞われている。
垣根帝督か? だったらちょうどいい、恥を承知で相談してみるかと一方通行は考える。
フィアンマである可能性もある。或いはエイワスか。それともヴェント?

あらゆる可能性を挙げていきながら一方通行は携帯電話のディスプレイを見るが、
名前が表示されていない。携帯に登録されていない人物からの電話という事だ。

「……」

ついさっきまで様々な考えを巡らせていたため、とにかく何かをして頭を冷やした方がいい。
そう思った一方通行は特に警戒もせず応答ボタンを押して携帯を耳に添えて――――。

811 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:37:18.70 ID:UHPYxZZio

――――そして、心底後悔した。

『お久しぶりですね、一方通行』

危うく携帯電話をへし折りそうになった。
一気に現実へ引き戻されたような感覚―――どころの騒ぎではない。

現実どころか、引き戻された場所は地獄。

812 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:37:50.42 ID:UHPYxZZio

「………………オマエ、」

『ようやく"繋がりましたね"。 我々としましても喜ばしい限りです』

丁寧な男の声。一方通行が最後にこの声を聞いたのはいつだっただろうか。
第三次世界大戦。いや、それより前。

『突然で、しかもこのような時間に恐縮なのですが―――』

ふつふつと煮えたぎる一方通行の憤りなどお構いなしに電話の男は滔々と告げた。

813 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:38:23.17 ID:UHPYxZZio

『――――"仕事"です。 これから指定する場所に、午前〇時までに向かってください』

学園都市暗部。その組織の一つ。

『グループ』。

完全に捨て切ったはずの『闇』が、再び一方通行を沈めていく。

814 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:39:00.75 ID:UHPYxZZio

~Information~

【俺より強い奴に I need you -Advance-】がアンロックされました。

815 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:46:24.30 ID:UHPYxZZio

今回はここまでです。
なんかルート一覧みたいなのあった気がしますが、
それは次スレにでも載せておくということでお願いします。

というわけで、一端覧祭五日目のアンロック編でした。はー、長かった。
そして実を言うとこれで一方通行のフラグ強化合宿は終了となります。
一方通行が誰かと二人きりでデート……という展開はもう当分お預けです。

そして次回からはようやく舞台が移り変わり、あの男にスポットライトを当ててスタートします。

816 :次回予告はここまでです。 ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/10(火) 08:46:52.78
ID:UHPYxZZio

【次回予告】

「よし、連中の居場所は突き止めた。 さっそく行ってみようぜ」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・学園都市第二位の超能力者(レベル5)『未元物質(ダークマター)』――――――垣根帝督

「『黄金』系の魔術結社と直に対面する機会なんてそうそうあるもんじゃないデスからねえ」
イギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師――――――テオドシア=エレクトラ

「……なぜ君の中でリチャード=ブレイブの一件が貸しになってるんだ」
イギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師――――――ステイル=マグヌス

「そうやって度々私を置いてけぼりにしようとするの、やめてくれる?」
『クラッカー』の構成員・『心理定規(メジャーハート)』の能力者――――――ドレスの少女

「あ、あなたはどこか魔術という法則を軽んじている傾向が見られます」
元ローマ正教のシスター――――――ルチア

822 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/04/10(火)
14:00:03.39 ID:kbXOTX5a0
ていとくん来たーー乙!
そしてアンロック乙!
次回に期待

824 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/10(火) 23:35:22.42
ID:zIujShDDo
おつ
待ち望んでたぜ垣根
今後はシリアスになりそうだし楽しみだな

837 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/13(金) 13:57:28.73 ID:uTxQLaY9o

――――――――――――――――――――――

「―――――ってワケなんだわ。 場所がわかったら俺の携帯に連絡して」

「垣根様がそう指示なさるのでしたら我々は尽力するまででございますが、
率直に申し上げますとその指令の結果を出せる確率は良くて五分五分かと」

フードに覆われているせいで表情は窺えなかったが、
黒のローブを着た魔術師は明らかに困っている様子だった。

838 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/13(金) 13:58:29.25 ID:uTxQLaY9o

イギリスはロンドン。ランベスの一角にある『必要悪の教会(ネセサリウス)』の
女子寮の近く、人気のない路地裏での事であった。『天使同盟(アライアンス)』の
構成員、垣根帝督は目当ての女の子の好みのタイプをクラスメイトの友人に聞いて
くるよう頼むくらいの気軽さで、『天使同盟』の駒として活動するセレマ教の
魔術師にある頼みごとをしていた。

「お前らならそのくらい朝メシ前なんじゃねえの?」

「指令内容の達成難易度に関する問題ではないのです」

「じゃあ何で渋るんだよ」

現在、この路地裏にいる黒のローブを着た魔術師は垣根の頼みごとを
聞いている彼一人ではない。その後ろに、垣根の視界の範囲内に居る
にも関わらずまるで存在そのものを消しているように気配を希薄にした
セレマ教の魔術師が二人、周囲を警戒しながら佇んでいた。

839 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/13(金) 13:59:26.37 ID:uTxQLaY9o

垣根と会話をしている魔術師が平坦な声色で返す。

「渋るなどとんでもない。 先ほども申し上げました通り、
我々はエイワス様より遣わされし『天使同盟』の駒。
与えられた指令は全力を以って実行するだけでございます」

「じゃあ頼むよ」

「ですが、垣根様が提示された指令―――『明け色の陽射し』が有する
アジトの居場所の捜索、これ自体に少しばかり問題がございまして」

ステイルやテオドシア、シェリーと話し合った垣根は『明け色の陽射し』と
接触する意向を固めていた。だが、今どこにいるのかもわからない組織に
どう接触するかという問題が浮上した。

垣根帝督は策があることを三人に示唆し、一度寮を出て駒であるセレマ教の
魔術師達を招集、彼らに『明け色』が構えるアジトの居場所を見つけ出すよう
指示を出したのだ。要するに他力本願、というか丸投げである。

840 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/13(金) 14:00:23.04 ID:uTxQLaY9o

「問題ってなんだよ」

「レイヴィニア=バードウェイ。 垣根様はその女の詳細を存じ上げて
おられないでしょうが、バードウェイは『明け色』のボスの座に君臨
する魔術師。 我々とて、バードウェイは一筋縄ではいきません。
アジトを捜索するにおいて我々とバードウェイの接触という事態が発生
する可能性が五分五分。 最悪、戦闘に持ち込む可能性もございます」

「で?」

「その結果がどうあれ、『明け色』はより一層警戒を強める恐れがございます。
ロシアでエイワス様に迎撃された件から彼奴らはどの結社であれ所属であれ、
何者かと接触する際の警戒心を既に高めているでしょう」

(やっぱロシアの一件はエイワスの仕業かよ。 つかそこに『明け色』もいたのか)

「左様でございます」

「俺の許可無しに心を読むんじゃねえよ」

841 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/13(金) 14:01:14.10 ID:uTxQLaY9o

『明け色の陽射し』を率いるボス、レイヴィニア=バードウェイ。
『黄金』系の魔術結社の頂点に君臨する魔術師だけあって、その
実力は折り紙つき。アジトの捜索自体は容易に行えるものの、
その際にバードウェイと接触してしまう可能性を黒のローブは危惧していた。

アレイスター=クロウリー直属、現エイワス直属の魔術師が危険視する程の魔術師。
バードウェイというその女がどれだけの実力者なのか、しかし魔術サイドと魔術師の
強弱関係について詳しく知らない垣根にはイマイチ危険性が伝わらなかったようで、

「警戒網の範囲外から見つけりゃいいだろ」

「当然そのつもりではございますが、我々がしくじった時のリスクを
垣根様が被る可能性を考慮すると今回の指令は何かと面倒でして」

「俺の身なんてお前らが案じる必要ねえよ、よろしく頼むぞ」

「承知」

842 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/13(金) 14:01:53.56 ID:uTxQLaY9o

結局、折れたのは魔術師側だった。三人は垣根の指令を了承するや否や
何らかの術式を使ったのか、その場から音もなく霧のように姿を消した。

垣根は満足そうに笑みを浮かべると、踵を返して女子寮へ戻った。

「よう、待たせたな」

「どこへ行っていたんだ? 『明け色』と接触するための算段でも―――」

イギリス清教から渡されたのだろう書類を難しい顔をしながら閲覧していた
ステイル=マグヌスが垣根に声をかけたところで――――、

「?」

「早っ! まさかもう見つけたのかよ!?」

843 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/13(金) 14:02:50.77 ID:uTxQLaY9o

垣根のポケットから携帯の着信音が流れた。ついさっきローブの魔術師と
別れたタイミングでの着信。さすがに早すぎると垣根も彼らではない誰か
からの連絡だと思いながら電話に出たのだが、

『垣根様、大変お手数ですがこれからメールで送るGPS情報に従い指定の
ポイントまで移動をお願い申し上げます。 尚、「明け色」に我々の
存在を察知される事態には至りませんでした。 アジトの周囲に対侵入者
迎撃術式が仕掛けられていない事も確認済みですのでご安心ください』

「いくら何でも迅速すぎるだろ! もしかしてここからかなり近いのか?」

『ランベス区の一画にございますアパートメントの一室が、彼奴らが構える拠点の一つでございます』

「近すぎる! さっきの俺らの会話を盗み聞かれてたとかいうオチはねえよな?」

『その点も問題ございません。 盗聴術式による魔力反応もありませんでしたので』

844 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/13(金) 14:04:09.37 ID:uTxQLaY9o

「だったらさっき路地裏で場所教えてくれりゃよかっただろうが……」

『そのようなご命令は承っておりませんでしたので』

「チッ、わかったよ。 ご苦労さん、……融通効かねえなぁ」

垣根は面倒くさそうに頭を掻きながら通話を切った。
その瞬間、見計らっていたように彼の携帯にが一通のメールを受信する。
確認すると、GPSで表示されたランベス区の地図に一箇所、赤いポイントが
点滅していた。ここが『明け色の陽射し』が構えるアジトなのだろうか。

「よし、連中の居場所は突き止めた。 さっそく行ってみようぜ」

「……君の情報網は一体どんな仕組みになっているんだ?」

魔術結社の中でもトップクラスの勢力と規模を誇る『黄金』系のアジトを
あっさりと突き止めてしまった垣根の手腕にステイルは驚くより呆れるしかなかった。

845 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/13(金) 14:04:49.97 ID:uTxQLaY9o

「つーワケで俺はお暇させてもらうが……お前らどうする? 一緒に来るか?」

「行きマス行きマス。 『黄金』系の魔術結社と直に対面する機会なんて
そうそうあるもんじゃないデスからねえ。 『明け色』のボスには個人的に
貸しも作ってますし? それをネタに有益な情報を引き出せるかもしれないマス」

「……なぜ君の中でリチャード=ブレイブの一件が貸しになってるんだ。
わかっているとは思うが、あそこのボスはあの件を貸しとも借りとも
思ってはいないぞ絶対。 そもそも覚えているかどうかも疑問だけど」

「ステイルはどうする?」

「同行しよう。 正直、バードウェイとはもう二度と関わりたくないし
顔も合わせたくないんだが、状況が状況だ。 『明け色』が他者と
手を取り合っての活動を承諾してくれるとは思えないけど、君一人を
彼女達のところへ向かわせるのも何だか忍びないしね」

「なんだ、知り合いなのか?」

「顔見知り、という表現さえ嫌になってくるけどね」

846 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/13(金) 14:05:36.02 ID:uTxQLaY9o

すると机の上で気怠そうに突っ伏していたシェリー=クロムウェルが
これまた気怠そうにパタパタと手を振って、

「あー、私は行かねえから。 ちょっと話の規模が大きくなりすぎなのよ。
面倒くさそうな事態に自ら首を突っ込む趣味はねえし、勝手にしてくれ」

「そんな気構えだと、いずれイギリス清教から干されるぞ」

「『必要悪の教会』を解雇されても私には働き口があるからねえ。
芸術院の方に顔出しすることを優先したいし。 ま、頑張れよ」

「わかった。 風斬には俺の方からよろしく言っといてやるよ」

ともあれ、『必要悪の教会』の二人は垣根に同行するようだ。
ステイルとテオドシアが女子寮のシスター達に軽く礼を言いながら
身支度を整えていると、奥の廊下から声が飛んできた。

847 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/13(金) 14:06:11.73 ID:uTxQLaY9o

「おーい垣根帝督。 あなたどこへ行こうとしてるのよ?」

「チッ、さっさと出て行きゃよかった」

「そうやって度々私を置いてけぼりにしようとするの、やめてくれる?」

廊下から姿を現したのはドレスの少女であった。その隣には黒い修道服に
身を包んだルチアとアニェーゼもいる。

「おや、もう出かけちまうんですか?」

「ああ、『明け色』の連中に茶菓子持って挨拶してくる」

「さてさて、今度はどんな連中と顔を合わせる事になるのやら」

「まだ着いてくるのかよお前……」

「……」

848 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/13(金) 14:06:45.76 ID:uTxQLaY9o

ドレスの少女は垣根達と行動を共にするつもりのようで、アニェーゼ達に
軽く手を振ると軽い足取りで垣根の下へ歩いていった。
と、何やらルチアの様子がおかしい。まるで何かを迷っているように
視線を左右に揺らして物申したげにしている。

「どうかしましたかシスター・ルチア?」

「いや、あの……」

「じゃ、またイギリスに来る事があったら立ち寄ってやるよ」

849 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/13(金) 14:07:21.54 ID:uTxQLaY9o

そう言い残して垣根は寮から立ち去ろうとしたが、

「ま、待ちなさい垣根帝督!」

不意に背後からルチアが彼を呼び止めた。

「何だよ?」

「わ、私も同行させていただきますっ!」

850 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/13(金) 14:08:10.94 ID:uTxQLaY9o

――――――――――――――――――――――

――イギリス・ロンドン ランベスの大通り

ルチア「……」スタスタ

垣根「『わ、私も同行させていただきますっ!///』」ケラケラ

ルチア「く……。 『///』なんて頬を染めるような感情は抱いていません!」

垣根「いや、ていうか……何でお前まで着いてくるワケ?」

心理定規「……」

ステイル「僕も垣根帝督に同意する。 これから向かう場所が
どこなのか、君も理解しているはずだろう?」

851 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/13(金) 14:09:09.90 ID:uTxQLaY9o

ルチア「かの『黄金』系魔術結社が一つ、『明け色の陽射し』のアジトです」

テオドシア「知ってて着いてくるんデスから、肝が据わってるといいマスか……」

垣根「そりゃお前らも同じだろうがよ」

ステイル「君もな」

垣根「どうせならアニェーゼも連れていってやりゃ良かったのによ。
あいつ、お前が行くっつったら着いていきたそうにしてたし」

ルチア「シスター・アニェーゼは一応あの女子寮を仕切る立場ですから、
私と彼女に加え、シスター・オルソラとアンジェレネがいない
状況をシェリーさんに一任するのは不安でしたので仕方なく……」

垣根「信用されてねえなあの魔術師も」

ルチア「いえ、信用とかそういう話ではなくて……」

852 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/13(金) 14:10:30.21 ID:uTxQLaY9o

垣根「お前も『明け色』に興味があるとか?」

ルチア「別に……、あ、いや、」

垣根「やっぱお前、俺に惚れてるんじゃねえの?」ニヤニヤ

ルチア「な、何を馬鹿なことを! 身分をわきまえてください」

垣根「お前は何様なんだよ……。 冗談だって」

ルチア「あ、あなたはどこか魔術という法則を軽んじている傾向が見られます。
魔術結社のアジトに立ち寄って、そこで魔術を冒涜するような物言い