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- 2012年04月30日 12時08分
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- とある魔術の禁書目録
198 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 15:33:53.33 ID:cbrju3gno
――――――――――――――――――――――
一方通行がオルソラ=アクィナス、アンジェレネと共に風紀委員第一七七支部へ赴いている頃、
「さて、どうせ外出禁止令など一切守らんミーシャが何かをやらかす前に
さっさと『星の欠片』を調整せんとな。 まずは『御使堕し』だが……」
魔術サイドの問題児、右方のフィアンマは第七学区を歩いていた。
学園都市最大の文化祭、一端覧祭も今日で四日目。相変わらず科学の総本山は
たくさんの学生と『外』からの来客で賑わいを見せている。
その多くが友人同士であったりカップルであったり家族であったりしたが、
当のフィアンマに連れはおらず、彼は一人で街を散策していた。
もちろん、フィアンマの目的は学園都市観光ツアーでもなければ志望校の取捨選択でもない。
199 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 15:34:40.54 ID:cbrju3gno
「儀式場を用意しなければならん」
『御使堕し(エンゼルフォール)』。フィアンマはそう呼ばれる大魔術を発動に必要な
儀式場にお誂え向きの場所を捜していた。
この大魔術は過去に一度発生している。その際には四界に多大な影響が及び、
現世ではそれを上回るとんでもない現象が発生した。
原因は天文学的数値の偶然から起こり得たもので、とある中年男性が意図せず
大魔術発動の条件である魔方陣の作成を成してしまい事件は起こった。
それによって現世に大天使ミーシャ=クロイツェフが召喚される事となったのだが、
(……あの日に起きた『御使堕し』も正当な手順を踏まえて発動されたものでは
ないが、今回のケースではさらに法則を無視した発動条件を満たさねばならんな)
200 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 15:35:24.69 ID:cbrju3gno
『御使堕し』の副作用。世界中の人間の魂がイス取りゲームの要領で入れ替わってしまう
現象を未然に防ぐ事が第一であるとフィアンマは考えていた。
その現象も含めて『御使堕し』であるため、魂の入れ替わりを防ぐのは魔術的理論上不可能なのだが、
(不可能を可能にするためには『奇跡』という材料が必要になってくる)
奇跡を起こす。口にすれば実に簡単だが、実際に起こすとなるとそれこそ奇跡が
起きなければ不可能だ。しかしフィアンマは不本意ながらも取り戻す事に成功した
『右腕』を見つめ、薄く笑みを浮かべた。
彼を象徴する最強の魔術、『聖なる右』。フィアンマの肩口から生えるその第三の腕は
あらゆる奇跡を起こす事が出来る。フィアンマは『御使堕し』という大魔術に己の右腕という
要素を組み込む事で副作用の無効化という都合の良い奇跡を実現しようと考えていた。
201 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 15:36:18.95 ID:cbrju3gno
(だが不安要素が多すぎる……。 まず『神の右席』の魔術師として肉体を調節された
この俺様に大魔術など発動出来るのかという懸念事項。 『神の力』召喚術式が実行
出来た以上、大魔術"程度"ならどうにかならん事もないだろうが……。 そこにこの
『神の如き者(ミカエル)』の力を加えるとなると、『御使堕し』ではない別の魔術が
発動する危険がある。 俺様にも予想がつけられん未知の大魔術…………)
少し考えただけでフィアンマの計画(正確にはフィアンマとミーシャ、そして打ち止めの計画)には
不安要素が多すぎる事が判明する。計画の話をミーシャから持ちかけられた時点で簡単に内容を
まとめていたフィアンマだったが、こうして改めて考えると天地がひっくり返っても実行は不可能だ。
大魔術の効能を自分の都合の良い形で書き換えるなど、魔術サイドの歴史上を踏まえても前代未聞である。
(面白い)
202 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 15:37:39.87 ID:cbrju3gno
それでも、フィアンマは臆しなかった。『神の右席』のリーダーですら頭を抱える難問が
立ちはだかり、しかし彼はそれを楽しむかのように笑ってみせた。
(奇跡は俺様の専売特許だ。 出来る出来ないの問題じゃない、やってやる)
となると、まずは大魔術発動のための儀式場の確保なのだが。
フィアンマは最初、学園都市の『外』で儀式場の作成に取り掛かろうと考えていた。
だが今日になってフィアンマは、やはり学園都市内で『御使堕し』を発動させる決断をする。
『外』で行う場合、まず誰の目も届かぬような広い平原、荒野で行うのが望ましいが、
そんな場所を捜している時間が彼には惜しいと感じられた。
更に、奇跡的にフィアンマ特製『御使堕し』が発動した場合、恐らくこれから先も
しばらく学園都市に留まるであろうミーシャの肉体に明確な変化が発生する。
203 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 15:38:50.26 ID:cbrju3gno
その際のフォローに回る時、『外』にいては手遅れになる可能性があるのだ。
通常の手順を踏んでいない『御使堕し』でミーシャの身に何が起きるか、
それは術者であるフィアンマにも未知数なのだ。
学園都市内で大魔術を発動させる決断に至った理由はまだある。
それは副作用だ。『御使堕し』が発動した際に起きる魂の入れ替わり。
これはフィアンマが何としてでも未然に防ぐ。
だが、フィアンマ特製の『御使堕し』にも何らかの副作用があった場合は?
その副作用が魂の入れ替わりとは比べ物にならぬ恐ろしい現象だとしたら?
フィアンマがこれから行おうとしているのは、もはや新たな魔術の開発と言って過言ではない。
その未知なる副作用が発生するなら、まず変化が起きるのはミーシャが存在する学園都市内。
ならばフィアンマも学園都市に居た方が素早くフォローに回れる。
ミーシャ自身を『外』へ連れ出すケースも考慮したが、あのバカは多分このお祭り会場から
梃子でも動かないだろうとフィアンマは判断した。
204 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 15:39:26.19 ID:cbrju3gno
(問題は『御使堕し』をどこで発動するかだが……)
学園都市は関東地方を大幅に開拓して発展した巨大都市ではあるが、
今回の場合に限ってはそれでも足りないほど狭いのだ。
大魔術発動の瞬間はどうしようもないが、せめて準備だけは静かに整えたい。
そう考えていたフィアンマは、
「ん?」
ある『違和感』を覚えた。場所は依然として第七学区。
違和感。しかも、"魔術的な残り香"を辛うじて嗅いでいるような、そんな違和感。
恐らくフィアンマレベルの魔術師でないとまず見逃すであろう、そんな儚い違和感。
フィアンマはその違和感が漂う方向へ視線を投げてみる。
205 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 15:39:55.71 ID:cbrju3gno
「……」
フィアンマの視界に、くしゃみをしたら吹っ飛びそうなボロッボロの木造二階建てアパートが映った。
なぜここから魔術的要素満載の『残り香』が? 疑問に思いながらもフィアンマは
暗闇の部屋で壁を探す時の仕草のように右手を少しだけ前に向けながらアパートを
品定めするようにゆっくりと調べる。
彼の頭に想起されたのは、『かつてここで聖戦級の戦闘が勃発した』という"イメージ"。
このアパートに残されたあまりにも僅か過ぎる魔力の残滓から、フィアンマはそこまで
イメージする事が出来た。
206 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 15:40:37.03 ID:cbrju3gno
(……こんなアパートで一体何が起きた? 魔力の濃度からして事態が起きたのは約五ヶ月程前……か?)
フィアンマはここでかつて何が起きたのかを調べるつもりはなかった。
しかしここで聖戦級の戦闘が勃発し、にも関わらず未だ健在しているという
事実だけが、彼が抱えていた案件の一つを解決するに至った。
「ここでいいか」
まるで一人暮らしを決めた青年が不動産屋でよくわからんカタログを見せられ、
品定めが面倒になりよく調べもせずに適当に物件を決めた時のようなセリフだった。
『御使堕し(改)』の儀式場にこのアパートを選んだ理由。
それはどうせ学園都市内で行うのだから場所の選り好みをしたって仕方がない、
というあまりにも適当過ぎるものだった。
207 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 15:41:24.12 ID:cbrju3gno
強いて言えば聖戦級の戦闘に耐えうる何かがこのアパートにはあるんじゃないか、
というフィアンマの願望も含まれた推測も理由の一つになるだろうか。
(……二階の一番奥、だな。 ここで何かがあったとすれば、その部屋だ)
という訳でフィアンマはアパート二階、一番奥の部屋に辿り着く。
全体的にボロっちいアパートだが、その部屋は更に上をいっていた。
吹っ飛んだ屋根を覆い隠すようにビニールシートが敷かれ、フィアンマの位置からは
窺えないが壊れた壁の応急処置としてベニヤ板も施されている。
少し躊躇したが、フィアンマは無断で室内に侵入した。どうやら彼はこの部屋を儀式場として
利用する事にしたらしい。鍵がかかっていたが、フィアンマは魔術の風を使って鍵を壊してしまう。
どうせこんなボロ部屋に人など住んでいないと判断した故の不法侵入だった。
フィアンマは部屋主の名前が書かれたドアプレートを見逃していた。
208 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 15:42:09.54 ID:cbrju3gno
――――――――――――――――――――――
で、夜。
フィアンマは無許可でお邪魔した第七学区のオンボロアパート、二階の一室に
とりあえずさっと呪文と魔方陣を書き終え、さてここからどうしようかと考えていると
空はすっかり闇に包まれていた。
彼がいる部屋には時計という物が一切存在しなかった。だがフィアンマはここに
人など住んでいないと思い込んでいるため、疑問を感じる事はなかった。
「……、」
209 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 15:43:45.09 ID:cbrju3gno
ただ、フィアンマはまずこの部屋に入って"察した"。掃除の行き届いていない部屋の
壁に、既に書かれていた魔方陣(煤やヤニで塗り潰されかけていた)を見て、かつてこの部屋で
どのような戦いが繰り広げられたのかを。
(なるほど、『聖なる右』を介していたとはいえ『禁書目録』に触れた俺様が
違和感を覚えたのはそれが原因か。 あの男の記憶喪失も、ここで…………)
それと、もう一つ。
(……学園都市で何らかの大きな動きがあったようだが、それも済んだようだな)
学園都市を流れる目に見えない『人間の気の流れ』が意図的に操作されている感覚に
フィアンマは気付いた。今日、この街で何者かが『人払い』の術式を使った。
彼は気付いたが、しかし関わらなかった。それどころではないし、学園都市で起きた問題は
学園都市の人間が片付けるだろう、と首を突っ込む事はしなかった。
210 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 15:44:42.40 ID:cbrju3gno
「さて、」
瑣末な疑問も片付いた所で、フィアンマは一息つく。
改めて部屋を見回してみると、部屋の角にはビールの空き缶が何本か転がっており、
無造作に置かれた灰皿には大量の煙草の吸殻がオブジェのように積み重なっている。
ベッドはつい最近まで使用されていた痕跡があり、ベッドの上に投げられたパジャマは
見たところ子供用のようだった。
そこまで認識して、フィアンマはこの部屋に生活感がある事を察知する。
(しかしまさか、いくら何でも魔術サイドによる戦闘が行われたであろう部屋に
人間が住み着くはずが……。 ……学園都市の破落戸が根城にしているのか?)
211 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 15:45:31.58 ID:cbrju3gno
彼が言う破落戸とはスキルアウトの事である。スキルアウトが誰も手をつけない
この部屋を勝手にアジトとして利用している可能性は充分に考えられた。
だとしたら、部屋の空き缶や煙草の吸殻も説明がつく。
仮に今ここを根城にしているスキルアウトが帰ってきたら、そいつはフィアンマに
牙を剥くだろう。当然だ、人様の領域に勝手に踏み込んだバカ野郎が何か訳のわからん
魔方陣や呪文を壁に、床に、天井に書き殴っているのだから。
(ま、その時は悪いがそいつにはしばらく眠っててもらおうか。
不法侵入を働いている俺様にも非があるが、破落戸も他人の
事は言えんだろうしな)
不測の事態への対応も決まった所で、フィアンマは『御使堕し(改)』の魔方陣に
視線を移す。我ながら法則を無視しすぎたメチャクチャな魔方陣だとフィアンマは
ため息をついた。普通ではない方法で術式を発動させなければならないとはいえ、
魔術サイドの人間がこの部屋の有様を見たら、悪魔でも召喚するつもりかと笑われそうだ。
212 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 15:46:28.68 ID:cbrju3gno
だが笑われようが呆れられようが、この法則無視の魔方陣から新たな『御使堕し』を
開発、発動しなければならない。それがミーシャと打ち止めの『計画』を成就させる
鍵となるのだから。
(とりあえず微量の魔力を注入し、『神の右席』である俺様のフォーマットでも
術式を発動出来るのか、魔力を注いだ際の反応を見極める必要があるか……)
フィアンマの右肩から、音もなく"腕"が現出した。『赤』を象徴するその腕、
『聖なる右』。フィアンマは第三の腕の指でそっと魔方陣を撫でようとして――――、
「あ、あれー!!? 鍵が、鍵が壊されてるのですー!!!」
213 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 15:47:01.88 ID:cbrju3gno
ビクン、とフィアンマの肩が跳ねた。突然部屋の玄関の向こうから幼い女の子の
絶叫が飛んできたからだ。
「チッ」
「ど、泥棒ー!!!」
今時そんな叫び声をあげる人間などいないだろう、と思えるセリフと共に
玄関の扉が勢い良く開け放たれる。それに対しフィアンマは即座に第三の腕を
収め、掌に火球を出現させて相手の出方を窺った。とても不法侵入者とは思えぬ
堂々とした対応だが、彼は相手がスキルアウトだと想定しているので仕方がない。
だから、
214 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 15:47:42.91 ID:cbrju3gno
「…………って、あれ? ひ、火野ちゃんですかー?」
「…………お前、いつかの妖精教師か?」
見た目一二歳の幼女と視線が合ったフィアンマは目が点になった。
対するピンク髪の幼女も大きな瞳をぱちくりさせながら驚愕している。
幼女の正体は、フィアンマが数日前に出会った学校の教師、月詠小萌であった。
「ど、どうして火野ちゃんが先生のお家に……?」
「ここは空き部屋じゃなかったのか?」
「扉のプレートに先生の名前が思いっきり書いてあるのですー!」
215 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 15:50:10.93 ID:cbrju3gno
右手に提げたパンパンの買い物袋を揺らしながら小萌先生は叫んだ。
掌に火球を浮かべたままフィアンマはしばらく微動だにしなかったが、
やがて事情を察すると静かに火球を虚空に還す。
「合点がいった。 ベッドの上のパジャマはお前の私物だったのか」
「ま、まさか火野ちゃん……先生のパジャマに顔を埋めてクンカクンカスーハーなんて―――」
「俺様を侮るな。 匂いを嗅ぐどころか、お前のパジャマは食べてしまったぞ」
「食べた!?」
「下着も全てぺろりだ」
「そ、その流れで今度は先生を食べちゃ―――」
「いや、お前はいらん」
「真性の変態さんなのですよ……」
「…………いや、女。 冗談だ、真に受けるな」
216 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 15:51:06.74 ID:cbrju3gno
小萌先生はまさかの事態が起きていない事に安堵し、そっと胸を撫で下ろすが、
「げぇー!!? な、何だか先生のお部屋がとってもオカルトチックにー!?」
「…………これならまだ破落戸の方が対処が楽だったかもしれんな」
あわあわと慌てふためきながらもしっかりと玄関で靴を脱ぎ、買い物袋を
そっと床に置き、首を回しながら部屋中の様子を窺いつつ手をしっかりと
洗っている辺り、小萌先生もこういったハプニングは慣れっこらしい。
そしてフィアンマも、指の間も爪の間も丁寧に洗う小萌先生の後ろ姿を
眺めながら考える。
考えるというか、彼の頭にはある一つの『提案』がスタンバっていた。
217 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 15:51:47.79 ID:cbrju3gno
「……月詠小萌、だったか」
「はいはいー小萌先生ですよー。 ていうか火野ちゃん、勝手に人様のお家に
無断で忍びこむとは何事ですか! それだけに飽き足らず、部屋中にこんな
落書きまでして……さては反抗期? 先生、火野ちゃんをこんな風に育てた覚えは――」
「無いだろうし、俺様もお前に教育を受けた覚えなど無い。 それより、一つ頼みがある」
フィアンマの真剣な面持ちを見て何かを察したのか、小萌先生はタオルで
手を拭き終えると何も言わず丸テーブルの前で正座をした。
「先生にお願い……何ですか?」
「ここまで準備を整えた以上、今更ここを離れる訳にもいかん」
フィアンマも小萌先生に習って丸テーブルの前で座り込み、続けてこう言った。
「少しの間で構わん。 しばらく俺様をここへ住まわせてはくれんか」
218 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 15:53:03.52 ID:cbrju3gno
――――――――――――――――――――――
「新しい同居人に、カンパーイなのですー!!」
「……」
鉄板から立ち上がる煙を吹き消すように、フィアンマと小萌先生は
お互いが持つグラスと缶ビールをぶつけ、盛大に乾杯をした。
フィアンマが口頭でした事情説明はこうだ。
まず、どこでもいいからそれらしい空間を見つけてそこに魔方陣(小萌先生でいう落書き)
を書き殴る必要があった。なぜならこうする事で救われる人物がいるから。だからしばらく
ここに居候させてもらい、救済の準備を整える事を許可してほしい。
219 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 15:53:48.06 ID:cbrju3gno
たったこれだけ。魔術的要素を含む詳細説明など一切合切省略し、フィアンマは
嘘はついていないためそれをアピールするために真剣味を強く出して説明した。
小萌先生は数秒の間目を閉じ、うーんと悩むように唸った後、
『よし! 先生、火野ちゃんの居候を許可するのですよー』
『いいのかよ!?』
懇願する側のフィアンマが思わずツッコミを入れてしまう程の判断だった。
どう考えても話が見えてこないフィアンマの意味不明の説明のどこに納得
したのか、小萌先生は深く事情を言及する事なく彼との同居を容認してしまった。
そうと決まれば次は新たな同居人の歓迎パーティ、と小萌先生は買い物袋から
焼肉用の肉を詰めたパックと缶ビールを大量に取り出し、台所から家庭用の鉄板を
引っ張って来て、あっという間に今夜の食卓を完成させてしまったのだった。
220 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 15:54:41.19 ID:cbrju3gno
「いやー先生、どうもそろそろ新しい居候がやって来るんじゃないかと
思って、こうして焼肉のための買い物をした次第なのですけれど、
無駄にならなくてよかったのですー。 ささ、火野ちゃんも遠慮せずに」
「新しい居候がやって来る……? お前、普段から路頭に迷う人間を
捕まえてこの部屋に住まわせる生活を送っているのか?」
「しょっちゅう歓迎している訳ではないですけどねー。 今年は……、
パン屋へ修行に行った誘波ちゃんとー、夏に転校してきた姫神ちゃん、
それとめっきり姿を見せなくなった結標ちゃんくらいですかねー。
ん? そう考えると男の子の同居人は火野ちゃんが初めてなのですー」
「……、」
それは教師という立場が彼女を奮い立たせているのか、とフィアンマは適当に考察する。
家出少年、無法者、浮浪者。それらを厚意で拾い上げ育むという行為は小萌先生に限らず、
科学も魔術も飛び越えて、世界中で行われている事だが。
221 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 15:55:38.74 ID:cbrju3gno
「それにしても自分の住処に勝手に侵入し、部屋中に術式を仕込む
人間が居たら然るべき機関に連絡するのが普通ではないのか?
俺様は迷える仔羊でも無ければ親に捨てられた哀れな子供でもないぞ」
「うーん、確かにこの魔方陣……でしたか。 これは先生もさすがに引きましたが、
これも含めて火野ちゃんが大切に想っている人を救うための準備なのでしょう?
安心してほしいのです、先生こう見えてもなぜかオカルトめいたイベントに多く
遭遇する星の下で生まれた人間ですから。 火野ちゃんを全力で応援しますよー」
「……お人好しが」
「んー?」
「何でもない。 とにかく助かった、お前と接触していた過去が役に立ったよ」
「いやぁ、そこまで言われると先生も照れるのですー。 あーほらほら!
早く食べないとお肉が焦げちゃうのですよー? 火野ちゃんはその菜箸で
肉焼きに徹して下さい、そして私が育った肉をこうしてヒョイパク」
「……せめて換気くらいはしたらどうだ。 煙たくてかなわん」
222 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 15:56:35.86 ID:cbrju3gno
部屋の窓を開けて室内に充満する煙を逃がそうと立ち上がったフィアンマだったが、
その窓にもフィアンマ独自の法則に従って描かれた呪文の一部があったため、
窓を開く事は出来なかった。ヘタに陣形をズラして妙な魔術が発動してはたまったものではない。
小萌先生が五〇〇ミリリットルの缶ビールを数瞬で空にしながらフィアンマに尋ねる。
「時に火野ちゃん。 さっき先生が入ってきた時に出現させてた火の玉なのですが……」
「アレについて説明しろと言われたら多分朝までかかるが」
「いえいえ、アレ、『発火能力(パイロキネシス)』によって生み出された炎じゃ
ないですよねー? 先生、『発火能力』専攻の教師ですからそれは分かるのです。
火野ちゃんは確か『空間移動(テレポート)』の能力者だったはずですからねー」
「…………それで?」
「あ、いえ、気に障ったのなら謝るのですが……どうやってあの火の玉を生み出したのかなーって」
223 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 15:58:05.60 ID:cbrju3gno
フィアンマは少し驚いていた。『発火能力』専攻の教師と発言している事から
小萌先生は学園都市の炎に関する能力についての知識を豊富に蓄えているのは彼でも理解出来る。
しかし小萌先生はフィアンマが魔術によって生み出した火の玉をあっさりと『別の手段による何か』
と看破した。
魔術についての知識は無くとも、この小さな教師は何度か魔術そのものを目撃、
或いは体験しているのかもしれないとフィアンマは推測した。先程もオカルトめいた
場面に多く遭遇すると言っていたことも手伝って。
「……とりあえず、科学による力ではないという事実は明かしてしまっても構わんだろう」
「科学ではない技術……という訳ですかー?」
「そう思ってもらって問題はない」
「ふむふむ、科学ではない別の法則……『非科学』ですかー」
「思い当たる節は?」
「あるのですよー」
224 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 15:59:00.80 ID:cbrju3gno
小萌先生は即答した。フィアンマが面倒を見ていた肉の焼き加減を見極め、
鉄板の上に素早く割り箸を滑り込ませてながら小萌先生は続ける。
「例えばインデックスちゃんの時の……天使がどうこう言うなんたらかんたら……とか、
大覇星祭の時に大怪我を負った姫神ちゃんを治療する時に、火野ちゃんと同じような
赤い髪の神父ちゃんが手伝ってくれたアレとか……科学じゃ説明の出来ないような現象は
先生、さっきも言いましたけど何度か目にした事があるのですよー」
(禁書目録との関わりも持っていたか……。 当然と言えば当然だが)
「先生、暇が出来てはあの現象について考えていたりしたのですがー……。
うん、やっぱり先生の頭じゃ結論は出せなかったのです。 あの不思議現象、
『未知の法則』は学園都市の人間では解き明かせない現象なのでしょうか」
「その訳のわからん法則でこの部屋を満たし、訳のわからん現象で
俺様が誰かを救おうと考えていると言ったら、お前はどうする?」
225 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 15:59:49.30 ID:cbrju3gno
フィアンマの唐突な質問に、小萌先生は『ふぇ?』と首を傾げる。
が、その手に構える割り箸にはしっかりと肉が掴んであった。
「俺様が実は学園都市の能力者ではなく、お前がこれまでに見てきた
科学とは別の法則に満たされた世界の住人であり、俺様の都合で
お前を勝手に巻き込んでその法則を利用しようとしていると言ったら、」
「……、」
「お前はどうする。 お前が住む世界とはまるで違う世界の人間である
俺様が、お前の居場所に土足で踏み込もうとしているんだぞ」
「構わないですよー? 火野ちゃんはそんな事を気にしているのですか?」
やはり小萌先生は即答した。しかも散々悩んで搾り出したような物言いではなく、
何をそんな細かい事を今更になって言い出しているんだと言うような口ぶりで。
226 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 16:00:57.41 ID:cbrju3gno
「住む世界がどうとか、法則がどうとか、先生はそんな小さい事気にしないのです。
インデックスちゃんや神父ちゃんの時は、そりゃ驚きはしましたが、"それだけなのです"。
気味悪がっている訳でもないし、否定するつもりもない。 どういう手段であれ、
火野ちゃんが誰かに手を差し伸べようとしているのなら先生は応援するのですよー」
「応援どころか、場合によっては俺様がお前に助力を申し出るかもしれん」
「むしろ大歓迎なのです! 先生なんかが火野ちゃんの行いの助けになるのなら、
先生は嬉しいのですよ。 何か手伝える事があるなら遠慮せず言ってください。
火野ちゃんが能力者ではないという事実には驚きましたが――――」
「……、」
「―――住む世界が違えどなぞるルールが違えど、火野ちゃんと先生は同じ人間なのですから」
ね。 と、小萌先生は純粋無垢な笑顔を浮かべて肉を頬張った。
まだ肉が高温を保っていたせいか、はふほふと口の中で肉を冷ましている。
227 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 16:01:46.66 ID:cbrju3gno
フィアンマはこの時、月詠小萌という名の人間の器量の大きさを理解した。
同時に、『天使同盟』という科学も魔術もクソもないイミフ軍団の一味のクセして
科学だの魔術だのとこだわり、引きずっている自分の器量の小ささも思い知らされた。
「……恐らくお前は、俺様が救おうとしている存在が人間ですらないと
知っても、同じように答え、同じように笑顔を浮かべるのだろうな」
「?」
「少し、長い話になる」
フィアンマはほとんど使っていない割り箸をタレが注がれた小皿の上に乗せ、
こちらをジッと見つめる小さな、そして大きな女教師の瞳を見ながら言った。
「俺様がこれからお前の部屋で行おうとしている事、俺様が救おうと
している存在の事、漏れなく全てを話す。 そして話した上で、
お前に協力を要請したいのだが……、構わんか?」
228 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 16:02:18.46 ID:cbrju3gno
「先生に二言は無いのですー。 ドンとこい、ですよ」
「…………礼を言う」
話さなければならないと思った。不法侵入をされて、意味もわからない
魔術という名の法則で自分の領域を侵され、それでも受け入れてくれた
この月詠小萌という人間に、隠し事など失礼だと、フィアンマは判断した。
自分の勝手な都合を全て受け入れてくれた小萌先生に素直に感謝しながら、
フィアンマはまずこの『計画』の根幹たる存在を小萌先生に明かした。
「俺様が救おうとしている者は……天使。 現世とは違う別位相に住む
未知なる存在、ミーシャ=クロイツェフという大天使だ」
この日、月詠小萌が認識している『世界』が新たに開拓された。
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/07(火) 16:03:34.70
ID:Me2LjPvf0
やっぱフィアンマは俺様が似合うよね。
230 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 16:07:36.62 ID:cbrju3gno
ようこそ、月詠小萌てんてー。
という訳で今回はここまでです。
フィアンマはあろうことか、月詠小萌のお家で術式を開発する事に決めました。
ロマンチックの欠片もない同居生活の始まりです。
ボロボロのアパートとか書いちゃいましたけど、そこまでボロくなかったような気もします。
ですがフィアンマはここで一旦フェードアウト。次の出番はもう水平線の向こう側です。
次回は代わりに一方通行パートが加わります。そして垣根帝督パートも
挟みつつ進行する……はず、です。
231 :次回予告はここまでです。 ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/07(火) 16:08:16.59
ID:cbrju3gno
【次回予告】
「死ぬ……眠い……死ぬ……眠い……死ぬ……眠い……死ね……殺す……」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)――――――一方通行(アクセラレータ)
「実戦とリアルファイトを混同しないでくれる? 私は実戦慣れしてるけど、
リアルファイトなんてお店のマナーを破るような行為には走らないわよ」
ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員――――――前方のヴェント
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/07(火) 19:30:49.97
ID:UX1OMeJno
乙
小萌てんてーはどこのスレでも器が大きいよね
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/08(水) 04:45:24.84
ID:Og/vCm0io
弁当来た!弁当パートきたあああああ!!
266 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/10(金) 12:43:18.68 ID:q/1JS9LVo
――――――――――――――――――――――
結局、風紀委員(ジャッジメント)の雑務は翌日の朝一〇時頃までかかってしまった。
「死ぬ……眠い……死ぬ……眠い……死ぬ……眠い……死ね……殺す……」
最後の方はもはや恨み言と可していた。
一方通行。学園都市第一位の超能力者。
267 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/10(金) 12:44:33.85 ID:q/1JS9LVo
彼は杖をつきながら学園都市の第七学区を歩いていた。歩くと言ってもその歩行速度は
フェアな条件で亀と競争してもまるで勝ち目が無い程に鈍かった。彼は容姿をウサギと
例えられる事があるが、これでは亀どころか陸に上がった魚にすら追い抜かれてしまう。
杖をついて歩いている理由は、彼が過去に頭を銃でぶち抜かれ、歩行機能とその他諸々が
著しく低下してしまったからではあるが、今の一方通行の状態なら例えかのようなハンデが
無くとも杖を使用しなければ歩行すらままならない程であった。
学園都市最大の文化祭。一端覧祭の五日目である。
昨日、色々あって風紀委員の事務処理を強制実行させられるハメになった一方通行は、
共に行動していたイギリス清教のシスター、オルソラ=アクィナスとアンジェレネの
協力を経て始末書の処理に勤しんだ……のだが、まず最初にアンジェレネが眠りこけて
リタイアし、その後もなんやかんやした後にオルソラが机に突っ伏して寝息を立てて
しまったため、事実上彼は一人で見上げる程の量がある始末書を睡魔と戦いながら
適格に処理していくことになってしまった。
268 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/10(金) 12:45:25.52 ID:q/1JS9LVo
朝になって通常出勤してきた白井黒子と固法美偉は締め切り数分前の漫画家のような
状態になっている一方通行を目の当たりにして凍った。彼女達曰く、一方通行達は
雑務など放り投げてとっくに帰宅しているものだと思っていたらしい。
白井と固法は一方通行に心の底から感謝と尊敬の意を送り、息も絶え絶えの
彼に素晴らしい出来の朝食を振る舞ってくれた。アンジェレネが目を覚まし
『あれ……まだ終わってなかったんですか一方通行さん……』とか言い出した時は
危うく黒翼を現出させるところだった。
真面目に感謝してくる白井と固法にオルソラとアンジェレネの事を任せ、一方通行は
ようやく風紀委員という立場の地獄から解放され、第七学区のアジトへの帰路に着いたのだが、
「眠い……あァ……これ今寝たら俺一生目ェ覚まさねェンじゃね?」
彼はここ数日、あらゆるイベントに邪魔されて就寝を取る事が出来なかった。
最後に寝たのは風斬氷華とのデート後。翌日、一端覧祭の三日目であるキャーリサの
看病の時から彼は一睡もしていない。本当の意味で徹夜二日目だった。
269 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/10(金) 12:46:42.09 ID:q/1JS9LVo
普通に過ごしていれば二日程度の徹夜など一方通行なら苦に感じなかっただろう。
だが徹夜せざるを得なくなったその二日間、彼の華奢な体に溜まった疲労は尋常
ではないものだった。彼にとってあまりにも『非日常』な事が立て続けに発生し、
尚且つ眠れなかったというのだから現在の彼の疲労度は筆舌に尽くし難い。
(時間を無駄に出来ねェなンてのたまってるが、これじゃイギリス行きの前に
俺が昇天しちまう。 今日はもォ一日中寝る、何人たりとも邪魔はさせねェ)
二日後、彼は神裂火織と共にイギリス清教のローラ=スチュアートと謁見する約束を取り決めている。
仮にも最大主教であるローラに自分の亡骸を差し出す訳にはいかない。
一方通行は今日一日爆睡する事を固く、固く誓った。
「着いた……」
270 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/10(金) 12:47:34.92 ID:q/1JS9LVo
『天使同盟』が利用している『グループ』のアジトであるアパートが見えた。
一方通行にはそれが天界への入り口にも思えた。
這うように階段を登り、意識朦朧の中部屋の扉を開ける。
「ソロモンよ……俺ァ帰ってきた……」
ここはソロモンではなくアパートの一室なのだが、意識が混濁している彼には
この部屋が軍事用に改装された宇宙要塞に見えたのかもしれない。
部屋には誰の物かも判別つかない衣服や私物が無造作に放り投げてあったが、
肝心の人間がいないため室内にはなんとも言えぬ寂寥感が漂っていた。
「誰かいねェのか……? 風斬、ガブリエル、フィアンマ。 その他大勢のモブ共。
……………………チッ、部屋散らかすだけ散らかして外出してやがンのかよ」
271 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/10(金) 12:48:33.99 ID:q/1JS9LVo
だが無人という状況は今の一方通行には都合が良かった。
彼は他には目もくれず一直線にソファへ向かうと、溶けるように寝そべって
そっと目を閉じる。二日ぶりの睡眠だ、その寝心地はさぞ気持ちの良いものだろう。
「あ、白いの。 テメェやっと帰ってきやがったのか」
夢かと思った。怒涛の二日間を徹夜で過ごした一方通行ならわずか数秒で
夢を見れる。だから彼は夢の中で誰かが語りかけているものだと思い込み
声を無視して睡眠に徹しようとしたのだが、
272 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/10(金) 12:49:41.22 ID:q/1JS9LVo
「ちょっと、ねえ、起きてよ。 ねえってば」
「…………」
「起きろよ白いの。 このヴェントが起きろっつってんのよ?」
「…………うるせェなァ」
ゆさゆさと体を揺すられ、仕方なく一方通行は意識を戻して愚痴るが
しかし瞼は閉じられたままだ。だがそれでも相手が名乗ってきてくれたおかげで
一方通行は元『神の右席』の魔術師、前方のヴェントの存在を認識した。
「アンタここ最近帰ってこなかったけど、どこ行ってたのよ」
「ンあー……、…………、知らン。 どこでもイイだろ……」
273 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/10(金) 12:50:41.61 ID:q/1JS9LVo
「どうせその辺の女とイチャついてたんでしょうけど」
「人聞きの悪い事言うンじゃねェ……」
ぺちぺち、とヴェントが頬を軽く叩いてくる。一方通行はそれを鬱陶しがりながら払った。
シャンプーの甘い香りが一方通行の鼻孔をくすぐる。どうやらヴェントはさっきまで
シャワーを浴びていたようだ。
そんなヴェントが就寝と永眠の狭間で揺れる一方通行に質問を投げかける。
「ねえ、アンタ今日暇?」
「いいや……恐ろしく忙しいなァ」
「何か予定があるの?」
「寝る。 ただひたすら寝る。 これが今日のスケジュールだ……」
274 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/10(金) 12:51:43.49 ID:q/1JS9LVo
じゃあオヤスミ、と一方通行が再び夢の世界へ旅立とうとした所を、
ヴェントが彼の薄いお腹にのしかかり阻止した。
「げふェ!!?」
「朝っぱらから惰眠を貪る程度には暇なんじゃない。 ちょっと付き合ってよ」
「殺されてェのかなァこの小娘ちゃンは……」
腹に座る魔術師の女をどけようと抵抗するが、今の一方通行では到底太刀打ち出来ない。
「ねえ、聞いてんの?」
「あァもォ勘弁してくれ……。 風斬とかその辺のヤツらと一緒に遊べばイイじゃねェか」
275 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/10(金) 12:52:29.99 ID:q/1JS9LVo
「ここにはアンタと私しかいないんだけど」
「だったら街に出て探してくりゃイイだろ……。 悪いが俺はマジで疲れてンだ、
頼むから今日だけは寝かせてくれ……。 後日埋め合わせしてやるからよ……」
「……」
発声出来ているのかいないのか微妙な声量で懇願する一方通行。
すると彼の願いを承諾したのか、ヴェントは素直に彼の腹から降りる。
一方通行の腹部に開放感が訪れた。
「何よ……人がせっかく誘ってあげてんのに」
「眠いンだからしょうがねェだろ……」
「……まぁいいわ。 どうやら本当にお疲れのようだし、見逃してやるわよ」
「……、」
276 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/10(金) 12:53:27.96 ID:q/1JS9LVo
その言葉にわずかな寂しさが窺えたのは一方通行の気のせいだろうか。
「アンタこの前、暇が出来たらどこかへ遊びに行くかって言ったわよね。
あの時の言葉を今日実行してもらおうと思ってたんだけど」
「……」
「……また今度、声かけるから。 都合が良かったら付き合って」
一方的に話を切り上げると、ヴェントは一方通行から離れて適当に外出の
準備を始めた。ここで一方通行は初めて瞼を開く。用意を進めるヴェントの
背中から伝わる孤影悄然とした雰囲気は、やはり気のせいではなかった。
277 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/10(金) 12:54:08.31 ID:q/1JS9LVo
「ちょっと待てよ」
「! ……何?」
ぴくっ、と肩を震わせてヴェントは聞き返す。
「どォやら睡眠は充分に取れたみてェだ。 すっかり眠気が飛ンじまった」
「だ、だから何?」
「暇になっちまったって言ってンだよ。 どこにでも連れてけ。
つまらねェ事に俺を付き合わせよォって魂胆だったら叩き潰すぞ」
「……別にアンタじゃなきゃ駄目って事はないんだけど」
278 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/10(金) 12:54:53.92 ID:q/1JS9LVo
「だったら俺から申し出る。 今日暇か? 一緒に遊ぼォぜ」
「……………………。 し、仕方ないわね」
ヴェントは一方通行の方に体を向けると、腰に手を当てふんぞり返りながら言った。
「どうしてもって言うなら付き合ってあげなくもないわ」
「元はといえばオマエが言ってきたンだが」
「いちいちうるさいわよ白いの。 さっさと出掛ける準備してもらえる? 文化祭
だからか何だか知らないけど、"あの店"、早く行かないと人が増えてウザいのよ」
「ちっ、調子のイイ女だ。 …………あの店?」
一端覧祭五日目。一方通行の今日一日のスケジュールが決定した。
279 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/10(金) 12:55:58.41 ID:q/1JS9LVo
――――――――――――――――――――――
「さ、着いたわよ」
「……………………」
ずぶずぶと沈みそうな意識を必死で引っ張り上げながらヴェントのお出かけに
付き合った一方通行は、彼女の案内で目的地にたどり着いた。
たどり着いて、
「さて……帰って寝るか」
「ふざけんな、ここまでついてきておいてそれはないでしょ」
280 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/10(金) 12:56:55.39 ID:q/1JS9LVo
「帰りたくもなるわそりゃ、オマエの方こそふざけンなよ?」
「何がよ」
一方通行は心の底からうんざりしたような顔を貼りつけて指をさした。
彼の指の先には、ヴェントが目的地としていたとある店。
「なンでこの俺が寝る間を惜しンでゲーセンなンかに行かなきゃならねェンだよ!?」
281 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/10(金) 12:57:49.73 ID:q/1JS9LVo
第七学区の地下街。栄養学、料理専門学校が実験的に出している店がズラリと並ぶ
地下世界。その一画にあるゲームセンターの前で一方通行は捲くし立てる。
「少しシリアスな雰囲気でよォ、『一緒に来て欲しい場所がある』とか言われたらよォ、
なンかオマエにとって思い入れや悲しい過去があった地域とかにでも赴くンだろォな
と思って俺も寝てる場合じゃねェなって思ったから着いてきてみりゃよォ、」
「心外ね。 悲しい過去はともかくある程度の思い入れはあるわよ」
「ゲーセンに対するオマエの思い入れなンざ知るかァ!」
ぎゃあぎゃあと怒鳴り続けた一方通行は終いに呆れてしまい踵を返すが、
すかさずヴェントが彼の右腕に装着された現代的なデザインの杖を蹴っ飛ばした。
バランスを崩した一方通行はバナナの皮で滑ったように間抜けな転び方をしてしまう。
282 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/10(金) 12:58:34.62 ID:q/1JS9LVo
「私を置いて帰ったらここで暴れてやるから」
「この俺に脅しをかけてくるとはイイ度胸してンなァ……」
「一端覧祭中は忙しかったんでしょ? ここは娯楽施設よ、アンタの体に
蓄積された疲労をここでパーッと解消させればいいじゃない」
「ちっ……。 つーか、まさかオマエがゲーセンに通ってるとはなァ」
腰に手を当てて見下ろしてくるヴェントを睨みながら一方通行はよろよろと立ち上がる。
二人が行き着いたゲームセンターは、いわゆる『外部系』の店だった。
学園都市のゲームセンターは『外部系』と『内部系』が存在しており、
『内部系』は学園都市内で開発されたゲームが並び、『外部系』は
学園都市の『外』から入荷したゲームを取り揃えている。
283 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/10(金) 12:59:33.43 ID:q/1JS9LVo
学園都市の文明レベルは『外』に比べて二、三〇年は進んでいるため、
『内部系』ゲームセンターのゲームは『外』では味わえない最新技術が
取り入れられた面白さが溢れているが、中には『外』の技術が遅れた
ゲームの方が楽しいという学生もおり、そういった学生のニーズに応えるため
用意されたのがここ、『外部系』のゲームセンターなのだ。
予想以上に『外部系』のゲーセンは需要があり、『内部系』に負けず劣らずの
賑わいをみせているようだ。実際、一方通行が軽く店舗内の様子を確認しても
頭の軽そうな数人の不良が店内のベンチで屯しているし、いかにもゲーマーですと
訴えているような容姿の学生が筐体を凝視しながら手元でレバーを操作しているし、
仲睦まじい女子高生集団が黄色い声で騒ぎながらUFOキャッチャーを楽しんでいた。
「あァ……一端覧祭って一部の学生にとっちゃ単なる休日でしかねェモンな。
今年の一端覧祭はエイワスの野郎が延長してやがるからあァいうのも増えてンのか」
「つべこべ言ってないでさっさと中に入るわよ」
284 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/10(金) 13:00:29.43 ID:q/1JS9LVo
ヴェントに襟を掴まれ、一方通行は半ば強引にゲーセンへと連行される。
店内へ入った瞬間、ゲーセン特有の騒音が彼の鼓膜を叩いた。
「相変わらずだなゲーセンってのは……かなり前に番外個体とかと行った時もうンざりしたモンだぜ」
「アンタ、こういう場所に来た事あんの?」
「自分から赴く事はまずねェけどな。 で、ここでオマエは何をしよォってンだ」
「これよ」
店内を歩くヴェントの足が、ある筐体の前で止まった。
そのゲームを見て一方通行は不可解さを表すように眉をひそめる。
285 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/10(金) 13:01:16.92 ID:q/1JS9LVo
「…………格ゲー?」
「アンタ、一〇〇円持ってる? 無ければ両替してきてくれないかしら。
ここ数日ゲーセンに通ってたせいで私の所持金も底を突いてしまったのよ」
「おいおい待て待て、オマエまさかこれをやるつもりか?」
「何よ」
「オマエが格ゲーって……、リアルファイトの方が得意分野だろォに」
「実戦とリアルファイトを混同しないでくれる? 私は実戦慣れしてるけど、
リアルファイトなんてお店のマナーを破るような行為には走らないわよ」
そう言う割にはベンチからこちらを見る不良達の目が怯えの色を浮かべているが、
ヴェントはこの店の常連で、過去に何かをやらかしているのかもしれない。
もしくはその不良達はヴェントでなく、一方通行に対して警戒しているのだろうか。
286 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/10(金) 13:02:41.96 ID:q/1JS9LVo
「一〇〇円」
「うるせェなクソ……。 とりあえずこンだけあればイイだろ」
「ありがと。 さ、アンタは向こう側の筐体に行きなさい。 私はここの筐体を使うから」
「?」
「どうしたのよ、早く」
「一体何が始まるンです?」
「何言ってるのよアンタ。 これは格闘ゲームよ?」
ヴェントはさも当然のように言ってのけた。
287 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/10(金) 13:03:20.33 ID:q/1JS9LVo
「これからこのゲームで私と対戦するのよ。 格闘ゲームなんだから当たり前でしょ。
CPUという名のサンドバッグを延々とボコボコにしてもつまらないもの」
「……俺、格ゲーなンてほぼ未経験なンだが。 初心者ってレベルじゃねェぞ」
一方通行の言葉を聞いて、ヴェントの瞳がわずかに見開かれた。
その際に彼女の口角がわずかに『ニヤリ……』なニュアンスで歪んだのは
気のせいだろうか。
「大丈夫よ、アンタ学園都市第一位の超能力者なんでしょ?
学園都市で一番頭がいいんだったら、こんなゲームのノウハウくらい
一瞬で覚えられるわよ。 操作方法は筐体に記載してあるし、ね」
「学園都市第一位は格ゲーも上手いなンて根拠があるかよ……。
まァここまで来た以上やってもイイが、初心者相手じゃつまンねェだろ」
「いいから」
288 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/10(金) 13:04:14.82 ID:q/1JS9LVo
ヴェントは筐体の椅子に座ると一方通行から受け取った一〇〇円を投入する。
初回プレイ時に作成したのか、彼女はスカートのポケットから格闘ゲーム用の
プレイヤーカードを筐体にスキャンした。プレイヤーのスコアやランクを記録する
ためのカードなのだろう。
筐体のディスプレイがボタン操作を要求し、ヴェントは慣れた手つきでボタンを押すと
キャラ選択画面でカチカチとレバーを横に倒した。
これより、学園都市最強の超能力者とローマ正教『神の右席』の魔術師による
ガチバトルが始まる。…………ただし格闘ゲームだが。
290 :次回予告はここまでです。 ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/10(金) 13:13:14.74
ID:q/1JS9LVo
【次回予告】
「……アックアの野郎に手伝わせてまで練習したのに」
ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員――――――前方のヴェント
「あいつまで巻き込ンでやがったのかオマエ!?」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)――――――一方通行(アクセラレータ)
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/10(金) 14:56:21.39
ID:KCm7Bh4DO
一方さんマジイケメン!
ってか、そろそろ寝ないと死んでしまう…
324 :◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/20(月) 07:32:07.70 ID:Myp3Dm6Go
――――――――――――――――――――――
ひとえに格闘ゲームと言っても様々な種類があるのだが、
今回一方通行とヴェントがプレイするのは『外』の世界で大流行している
『スーパーストライキファイターⅣ』、通称『スパⅣ』という格闘ゲームだった。
―――主人公、『リュウタ』は通っている道場で毎日のように師範にしごかれ、
いつまで経っても強くなれない自分に絶望していた。元々リュウタは気弱で臆病な
性格であり、大親友である『ケイン=マスタード』とは対照的な人間であった。
そんな気弱な性根を叩き直すために格闘道場へ入門したリュウタだがやはり才能はなく、
ケイン以外の門下生からは嘲笑され、師範から浴びせられる喝は彼の気弱さに拍車をかけていった。
325 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/20(月) 07:32:37.24 ID:Myp3Dm6Go
ある日、いよいよ周囲からの侮辱に耐えられなくなったリュウタは『反逆』を決意する。
『こんな環境では俺の才能は開花しない。 俺は俺より弱いヤツと戦って自信をつけていく』。
師範と門下生達の前で堂々と宣言したリュウタは、ケインや師範の呼び止めにも応じず
道場から出て行ってしまう。見かねたケインもリュウタの後を追って道場を飛び出すが―――。
こんなバックストーリーが存在する格闘ゲームの第四作目(外伝的扱い、バージョンアップの作品は除く)である。
主人公のリュウタをイメージした『俺より弱いヤツに会いに行く』という情けないキャッチコピーが人気を博し、
このキャッチコピーは今回のスパⅣでも『俺より弱いヤツがいない件について』という変化を経て引き継がれている。
「……八方向レバー操作に六ボタン、番外個体がやってたゲームと
同じか。 つかあいつが垣根から借りてた格ゲーってまさかこれか?」
326 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/20(月) 07:33:24.33 ID:Myp3Dm6Go
筐体に書かれた操作説明を見つめながら一方通行は番外個体が家庭用ゲーム機で
プレイしていたゲームを思い出そうとするが、真面目に鑑賞していた訳ではないため
明確に思いだす事は出来なかった。
対面の筐体にいるヴェントは現在、CPUと対戦をしているのだろう。
彼女がプレイしている画面が対面の一方通行の筐体にも表示されている。
ここで一方通行が一〇〇円を投入すると、『乱入対戦』が成立するのだ。
「……とりあえず俺みてェな初心者は、主人公キャラを選択するのが無難だよな」
筐体のキャラクター説明には各キャラの簡単な説明と技コマンドが表記されている。
一方通行は一通り確認して一〇〇円を投入し、ヴェントに乱入対戦を挑んだ。
327 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/20(月) 07:34:32.48 ID:Myp3Dm6Go
一方通行が選択したのは主人公のリュウタ。第一作目から何一つとして成長していない
彼の表情は、プレイヤーからやる気を削ぐような鬱々しいものだった。
キャラ選択画面のリュウタの顔には既に青アザがあり、彼の受難さが表現されている。
「で、ヴェントの使用キャラは…………って、そォか同じじゃねェか」
対するヴェントが操作するキャラクターもリュウタであった。乱入された方のプレイヤーは
最初に選んだキャラを変える事は出来ないため、一方通行がリュウタを選べば同キャラ対戦に
なる事態は必然的である。ステージ選択を終え、いよいよ二人の対戦が始まった。
(弱パンチ……あ、このボタンは弱キックか。 ちっ、ボタン配置にまず慣れねェと)
328 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/20(月) 07:35:28.32 ID:Myp3Dm6Go
六ボタンという配置に多少手こずるものの、初心者にありがちな『画面見たり操作方法確認したり』という
視線が上下に泳いでしまう現象は一方通行には見当たらなかった。彼は筐体に書かれている基本操作、特殊操作、
全キャラの技コマンドを数秒で完全に記憶してしまっていた。
そんな彼がボタン配置に手こずる時間などほんのわずかであり、瞬く間に彼はリュウタを
手足のように操作してしまう。虚弱で格闘才能ゼロという設定のはずのリュウタが、
ヴェントの操る1Pカラーのリュウタを手玉に取ってしまっている。
(技が出るまでの時間は技によって違うのか。 技を出し終えた後の硬直時間も
考えねェとスカった時に攻撃をもらっちまうな……。 連続技を食らわせる際の
ダメージに補正がかかってやがるな。 ゲージの管理も慎重に行わねェと……)
予備知識ゼロであるはずの一方通行が独学でゲームのシステム、駆け引き、コンボを習得していく。
第一ラウンド目が終了した時には、彼はリュウタの全てを理解していた。どの技からどの技が繋がるか、
各動作のフレーム、硬直、対空、牽制、ゲージ管理、起き攻め、投げ間合い等、ゲーム開始から数分で
彼は初心者という枠組みから一気に脱却してしまった。
329 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/20(月) 07:37:37.53 ID:Myp3Dm6Go
(たかがゲームだと思ってたが、なるほど結構奥深いじゃねェか。
番外個体やヴェントがハマるのも納得出来るな、面白れェぞこれ)
続けて第二ラウンド、次に一方通行はヴェントが操作するリュウタの動きを観察してみる。
自分がまだ知らないリュウタのコンボ、セットプレイがあるかも知れない。そう考えた一方通行は
相手の出方を窺う戦法に切り替えたのだが、
「……、」
ヴェントが操作するリュウタがまず遠距離で不気味な挙動を何度か繰り返し波動拳(リュウタを代表する技)、
それを捌きながら一方通行操るリュウタがじりじりと距離を詰めたら前ジャンプ。すかさず一方通行は
昇龍拳というアッパーカット、つまり対空技で飛んできた敵を打ち落とす。受身も取らずゆっくり起き上がる
敵に足払いを仕掛ける。ヴェントはこれにほぼ一〇〇パーセント引っ掛かり、再びダウンしてしまう。
330 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/20(月) 07:39:01.43 ID:Myp3Dm6Go
次にヴェントのリュウタが起き上がるが、その直後に反撃の昇龍拳を放ってきた(リバーサル)。
その際、対面の方からガチャガチャガチャガチャ!!! とレバーをムチャクチャに操作する音が聞こえてきた。
レバーをへし折るつもりなのだろうか。
ヴェントのリバーサルを先読みしていた一方通行はバックステップで攻撃を回避すると、アッパーカットからの
着地で硬直していた敵キャラに容赦のないコンボ攻撃をお見舞いする。
両キャラの距離が離れる。ヴェントは再び虚空拳を連射し、一方通行がそれを捌きつつ接近。
ヴェントが操作するリュウタが飛び込んでくるので一方通行は対空技で敵を打ち落とす。
受身を取らず起き上がる敵に足払い。相手のリバーサルを読んでフルコンボ。
以上の『作業』を繰り返し、一方通行は見事にヴェントを打ち負かした。
331 :×=虚空拳 ○・/b> ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/20(月) 07:40:23.99
ID:Myp3Dm6Go
(…………待てよ、こいつ)
対面のヴェントに何かを伝えようとしたのか、一方通行は一度席を立とうとするが
その直前に乱入者が現れた事を報せる演出が筐体の画面に表示された。
ヴェントが再び一〇〇円を投入して一方通行に勝負を仕掛けてきたのだ。
「……」
放置する訳にもいかないので一方通行は椅子に座り直し挑戦を受ける。
ヴェントが次に選んだキャラクターはリュウタの親友、ケイン=マスタードだった。
リュウタとは対照的に明るい性格で、格闘技の才能もあり、人柄も良い善良な設定のケイン。
まぶしく輝く金髪を振りかざし舞うその格闘スタイル、初心者にも優しいそのキャラ性能から、
全国でも使用率の高い人気キャラだ。
332 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/02/20(月) 07:41:45.27 ID:Myp3Dm6Go
Fight!! というシステムボイスで幕を開けた第二戦。だが、
「……さっきの試合のリプレイじゃねェか」
結果は言うまでもなく、一方通行の圧勝。リュウタとケインのキャラ性能が
似通っているためか、試合展開もほぼ同じという散々な結末に終わった。
「おい、ヴェン――――」
一方通行はヴェントに声をかけようとしたが、再び流れた乱入者登場の演出によって
それは遮られた。次にヴェントが選んだキャラは『シュン=リー』。この作品の
ヒロイン的存在で、かつては彼女